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第221話

「う~ん悩ましいわね。ソースの方はまるで違うのね」


ナナはまた半分ほど食べて、残りをサンとジルに分けた。

二人もモリモリと食べてウンウンと頷きあっている。


「結局どっちにしようかな?私」

「お前まだ食う気でいるのかよ」

「当たり前じゃない。さっきのは味見しただけだもの」

「味見の量じゃないだろ・・・」


カールとグラに取り押さえられ、床に這いつくばりながら呆れるドモンと、米を吹き出してしまったサンとジル。


「しかし確かにまあ悩ましいというのは理解できますな。とんかつにチキンカツ、それぞれにパンと米、そこに卵でとじたしょうゆ味のものとソース味のものとで選ぶとなると・・・」カールも義父に話しかけながら、うーんと悩ましげ。


「途中まで同じ調理法だというのに、これだけ多岐に渡る選択肢があるというその贅沢さよ。ドモン、もっと自信を持て。王宮の料理人でも貴様には勝てぬ」

「私なんかが言ってはおこがましい話ですが、間違いはないかと。今この時点で、これをそのまま出しても皆驚かれることでしょう」


義父とコック長がドモンを褒め称え、「うーんまあいろいろ考えておくよ。王宮でも喜ばれそうなものをさ」とドモンは言い残し、また玄関へ一休みをしに行った。



「よし決めた!私は卵の方のカツ丼!大盛りで!」

「私達もそれで。でもジルとふたりでひとつでいいです。ね?ジル」

「はい!奥様から頂戴したもので結構お腹が膨れてしまったので・・・」


ナナとサンとジルがコック長にそう伝え、ドモンの後を追った。


「では今日はお好きなものをご注文頂くという形でまいりたいと思います!」とコック長が叫ぶと、数名の料理人達と侍女達が注文を取りに屋敷を走り回る。

カツ丼などの話はすでに屋敷獣に広まっており、皆頭を悩ませていた。




「ね?酷いでしょう?本当に私のこと見えなくなったと思ったんだから」

「あはは・・・」


義父がドモンの元へと向かうと、ナナがサンとジルにドモンの仕返しの話をして盛り上がっていた。

屋敷の外の階段に横並びに座りながら、ドモンだけが横向きに倒れ、右にいたナナの膝枕に頭を乗せて寛いでいる。


「ん?ジジイか?」むくりとナナの膝枕からドモンが起き上がる。

「察しが良いな貴様は相変わらず。見もせずに」と笑う義父。

「席を外しましょうか?」とサンが気を使ったが「よいよい」と義父が断った。


だがそれでもサンは立ち上がってドモンの隣を空け、「宜しければおかけ下さい」と場所を譲ってニッコリと微笑み、ジルも緊張した顔でサンの横に並んだ。


「なんだよ?サウナ作りの話でもしに来たのか?」

「ああ、まあそれもあったな。早く入りたいものよ」


「本当はなんなんだよ?祭りの話?王都に行く話?」

「いや・・・貴様の体調はどうなのだ?三つの器に米を入れ、結局ナナにふたつをやり貴様は食さなかったであろう」


やはり上には上がいるもんだとドモンは感心した。

初顔合わせの時も、ドモンのブラフをこの義父だけは尽く見透かしている。


カードゲームが趣味というのもよく分かる。

生まれた境遇が違っていたなら、とんでもないギャンブラーになっていた可能性があるだろうとドモンは考えていた。

それ故にこの義父の方も、自分をコテンパンに負かせたドモンを気に入ったのだった。


「ドモン・・・また食欲なかったの?どうして気が付かなかったの私・・・ごめんね」

「いやいやほら、ちょこちょこと味見してたから。うん大丈夫だよ。ちょっとだけ・・・な?」


落ち込むナナに素直に答えたドモン。

本当に大したことではなく、揚げ物を食べて胸焼けしただけだ。


ただ義父から見ると初めて会った時よりも、かなり弱っているように思えた。

それも日に日に、会う度に。

特にあの事件でドモンが一度命を落としてからは、それを顕著に感じていた。



事実、ドモンの最大HPはすでに40を大きく下回り、20台にも突入する勢いで減り続けている。



ゴブリンの長老やカールの義父だけではなく、ドモン本人も薄々はそれを感じとっていた。

ドモンはもう怖くて、ギルドにステータスを見に行こうとは思えない。


今度こそ大怪我や大病を患えば、すぐに死んでもおかしくはない。

店からギルドまで、今なら連続で8~9往復もすれば死に至る。

炎天下の中を歩いただけでも、極寒の吹雪の中を歩いただけでもすぐに死んでしまいそうな状況。


死なないはずのドモンは、今になってそのツケを払う事となっているのだ。


不死身の人間なんていない。

簡単に蘇る人間なんているはずがない。


ドモンは『何か』に、ずっとその代償を払い続けてきただけだ。自分の生命と魂を持ってして。




「さてと、胃がもたれない牛肉の赤身の部分でカツでも作ろうか。ジジイも食べるか?」

「ああ」


すくっと立ち上がったはずのドモンが少しよろけ、ナナが「おっと!」とドモンを支える。

おかげで「私も食べる!」とは言い出せなかった。義父もドモンの体調のことはしっかりとは聞けずじまい。


「いつもの大工呼んでおいてよ。あと鍛冶屋も」

「すぐに手配しておこう」

「王都に行って帰ってきたら、すぐにサウナで疲れを取りたいからな」

「そうであるな・・・」


義父もドモンの肩を支えた。

そのふたりのただならぬ雰囲気に、ナナやサンやジルも一抹の不安を覚えたが、ドモンは何事もなく「今日は帰りにあのスケベな店に寄ってくぞ」と笑う。


「ちょっと!なんでよ!!」「うー!」

「あはは、俺ひとりじゃなくみんなも一緒に行くぞ」


怒るナナとサンにドモンがそう説明して女性陣は混乱。


「私もか?例のあの店であるな?」

「ジジイはやめとけ。カールに俺が怒られるっての。それに今回は遊びに行くんじゃなく仕事の話だしな」

「フン!つまらぬ人生よ」

「その分良い思いもしてるんだから贅沢言うなよ。ま、俺は王族なんてまっぴらごめんだけどな。可哀想に」


「ぐぬぬ・・」と悔しがる義父を見てドモンがクスクスと笑ってから、「ま、今度の祭りでその気分だけでも味わえばいいよ。店の方ならこの前みたいに警備の騎士さえいれば大丈夫だろ?」と言うと、「フフフ、話がわかる男よ」と義父も笑った。



「やだやだスケベおじさん達」とナナはヤレヤレ。

「まあまあ・・・女達が癒やしてくれるから男も頑張ろうって気持ちになれるんだよ」とドモン。義父も「うむ」と頷く。


「それは男の勝手な言い分でしょ?まったく男って仕方ないんだから・・・」

「嫌い?」

「もう大嫌い!ウフフ!」


そう言ってドモンに抱きついたナナを見て、皆微笑んでいた。




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