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第218話

「素直に白状してすごく怒られて楽になるか、墓場まで持っていくかしかないと思います」

「だ、だよねぇ・・・」「だよなぁ」


憮然とした表情のサンと悩ましげなジルとドモン。

ただジルはそれでも少しだけ嬉しそうな顔。



その少し前、義父と話を終えたドモンとナナは厨房へと向かった。

あと一時間半で昼食ということもあり、お呼びがかかっていたのだ。


「今回はとんかつソースを買ってあるから、本格的なカツサンドも食べられるな」とドモン。

「美味しそう。美味しいわね。美味しいよ絶対」

「何だよその三段活用は」

「ねえもうはやくぅ~」


ナナの言葉に顔を赤くする料理人達。

とんかつソースを使用してのカツサンドの作り方をコック長に伝えると、一度食べたことがあるナナがそれを味見すると言い出し、厨房で待っていることになった。


ドモンはタバコを吸いに玄関へ。タバコはやはり青空の下が美味い。

まだ残暑は厳しいが、抜けるような秋の空の色と心地よい風が眠気を誘う。


そこへ例の侍女三人組のひとりが灰皿を持ってやってきて、今はサンとジルのふたりだけでビニールプールで遊んでいることを伝えた。

ドモンもなんとなく膨らませた一番大きなビニールプールを見ようと思い、一服が終わるなり侍女に案内をさせ、サンとジルの元へ。

いつの間にか侍女も元の三人組に。



「おーい!入っていいかぁ?」

「あ、御主人様の声!今私とサンしかいないので良いですよ~!」

「キャキャキャ!!御主人様早く早く早くぅ!!!」


ふたりはドモンに返事をしながらザブンザブンと音を立てていた。

侍女達に服を脱がされドモンも中へ。何故か侍女三人も服を脱ぎドモンについてきた。


「あれ?」

「サンドラあの・・・」

「皆さんなら大丈夫ですよ。私はもう・・・」

「ありがとうサンドラ!」「ありがとう!!」


ドモンがこの三人のことを気に入っているのも知っている。

だけどサンはもう私は結婚するのだからと、なんだか少しだけ余裕が出来ていた。


「御主人様!お体を・・・御主人様のお体を流してあげてもらえますか?」

「え?サンドラ・・・いいの?私達が??」


サンは侍女達の方へと向き直し、ドモンの体を洗うようにお願い、いや、指示を出した。

ほんの少しだけ、気持ちだけ、サンがそのプライドを見せた形。上からの目線で。


あの時の復讐だなんてこれっぽっちも心にはないが、そこはやっぱりサンも人間。

ドモンの妻となるという自負があるし、それを示しておきたい気持ちも少なからず持っていた。



「ふぅ・・・なんやかんやでお前達って体洗うの上手だよなぁ。サンやナナよりももしかしたら上手かも?」

「あ、ありがとうございます!!」「うー!」


石鹸を泡立て、コンビネーション良くせっせとドモンの体を洗う侍女達。少し怒りながらすべり台を滑るサンは、やはり全く余裕なんてなかった。


ナナは当然他人の体を洗うのはドモンが初めてであったし、サンは元々殆どやったことがなかった。屋敷の子供達が小さな頃に手伝いをしていた程度。


容姿が幼いためかとサンは思っていたが、男性と交際経験がないということを実は貴族達にかなり配慮されていた結果、そうなっていたのだ。



「はぁん」

「ちょっと御主人様!もう!いたずらしちゃ駄目!しかもなぜ元気になられているのですか!」


今にも何かを始めそうな雰囲気に、慌ててすべり台を滑って駆け寄るサン。そしてジル。


「や、やっぱりサンがお背中を流します!」

「私も・・・あぶ、いたっ」


サンと一緒に駆け寄ったジルが石鹸の泡で滑ってしまい、後ろに転倒しそうになったのは何とか堪えたものの、その反動で床に胡座をかいて座っていたドモンに頭から突っ込んでしまった。

ドモンはそのまま押し倒されそうになったが、何とかジルをキャッチ。怪我なく済んだ。


「大丈夫かジル。石鹸のあるところで走ったら危ないからな?」石鹸に慣れていないジルに注意。

「ごめんなさい、私もびっくりしました・・・ってお顔近い近い近い・・・」


抱っこをするような感じでドモンの首に腕を回したまま話をしていたジルが、慌ててドモンから離れようとしたその時。


「きゃっ!!いっだっ?!!」


抱っこのような体勢からまた足を滑らせたジル。

ドモンの体を滑り落ちた瞬間・・・何かが体を貫いたような感覚が体に走った。


「あ」「あ」「あ」「あ」「うわやった・・・」

「え?え?う、うごけな・・・え???」


痛みと驚きで固まるジル。


「はぁぁぁぁ・・・」

「お、俺じゃないぞサン!!俺のせいじゃ・・・」

「元気になられていたからではないですか!もう!」


サンがプイッと横を向く。侍女らは顔を下に。


「す、すぐにどきます。しししし失礼しました・・・」ジルが唇を震わす。

「・・・あの御主人様、そのまま・・・それじゃあまりにも・・・不憫ですし」とサンが俯く。

「ん?ああ・・・そうだな・・・」


サンの言いたい事を理解したドモンが、ジルを抱きしめ「いいか?」と一言。

ジルも覚悟を決め「お願いします」と一言発して目を瞑り、キスをした。


そうしてジルも大人になった。



「俺は絶対にバレると思う」ドモンは深刻な顔。

「ごめんなさい!私のせいです!」と謝るツヤツヤのジル。


「事故のようなものですから・・・もしかして許してくれたり・・・」

「この世で一番許してくれない相手のような気がする」


ドモンがサンにそう答えると、皆うつむいた。

全員、その脳裏には激怒したナナの顔が浮かんでいる。


「せめて奥様がこの場におられたら・・・」

「お叱りが御主人様に向かうことは少なかったかもしれません」


サンとジルはもう確実にドモンが怒られることを想定している。

ジルは申し訳ない気持ちでいっぱい。


だがドモンはその二人の話にピンと閃いた。


「そうだ!それだよ!」

「何がですか?」


ドモンの閃きに嫌な予感しかしないサン。


「俺が子供の頃、学校で遊んでて花瓶を割ってしまったことがあるんだよ」

「はぁ・・・」

「そこで俺は誤魔化すために、一度花瓶をある程度元の形にくっつけて、掃除の時間にもう一度割ったんだ。先生がいる時に一生懸命掃除しているふりをして」

「・・・・」

「そしたら怒られなかったんだよ!」


ドモンの悪知恵にハァァ・・と溜め息を吐いた一同。

よくもそんな事を思いつくものだと少しだけ感心もしたが、どう考えてもそれは非現実的。


「奥様の目の前でもう一度・・・」

「うんうん」

「ジルを改めてお抱きになると・・・?」

「う、うん・・・」


サンに説明をされ、なんとなく無理だと悟ったドモン。

もしバレれば何倍も怒られる上に、そもそもが秘密にしておけるような相手なら、最初から全て秘密にしておけばいい話。


「素直に白状してすごく怒られて楽になるか、墓場まで持っていくかしかないと思います」とサンの言葉。


そうして全員、すべてを諦めて開き直った。



「それにしても、まあでかいプールだな。想像してた以上だ」

「私も驚きました。膨らませていた時に」とジルがドモンに答える。少しだけがに股で。


「御主人様見てください!すべり台がふたつ付いてるんですけど、片方は曲がってて角度もあって、もう片方は真っすぐで私達のよりも長いんです!!」


サンは説明しながら大興奮。見ればわかるよという言葉をドモンは飲み込んでニコニコと笑った。


「あとこの膨らんでいるところと、へこんでいるところがあるのですけれど、これは何かわかりますか?」とジル。

出来上がりの写真の図も消えているため、それが何かわからなかった様子。


「ああ、この膨らんでいるのはトランポリン。単に飛び跳ねてポヨンポヨンと遊ぶところだ。へこんでいるところは確かボールプールだったような??」とドモン。

「ボール・・プールですか?」サンが不思議顔。


「付属品なかったか?」

「あ!少々お待ちください!」


侍女のひとりが裸のまま走って何処かへ行き、ダンボールを抱えて戻ってきた。


「ドモン様、こちらでは?」

「そうそうこれこれ。ほら、的まで付いてるぞ」


ダンボールの下にクッションのように敷き詰められていたボールを取り出し、ビニールプールのへこみの中へ入れるように侍女に指示を出す。

的の方はドモンが紐を結んで付けてあげた。


「まあなんてこともないんだけど、泳げないもっと小さい子とかをこのへこみに入れて遊ばせてあげるんだよ。座れるようになった赤ちゃんとかさ」

「な、なるほど~!!そしてお湯を入れれば、赤ちゃんの湯浴みとかにも使用できるのですね?!」


「で、ボールを投げてこの的に当てて楽しむんだ」

「すごいすごいすごい!!うぅ~・・・」


納得する一同。そしてこれ以上ないというくらい羨むサン。


「ん~じゃあそうだな。今度のすすきの祭りの時に、店の隣の隣の空き地を借りて屋台もやろうと思っていたんだけど、そこにビニールプールも出そうか?実はこれと俺達のだけじゃなく、いくつか違う種類のを買ってあるんだよ」


ドモンの言葉が終わるか終わらないかのうちに、サンがドモンの胸に飛び込んで抱きつき、「好き好き!大好き!ドモンさん!あ~楽しみ~!」と歓喜の声を上げた。


「その時はジルやお前達も店を手伝ってくれよ」

「はい!」「もちろんでございます!」「お任せ下さい!」


侍女達は大きな返事。ジルは少し躊躇。


「大丈夫よジル!私や御主人様が守ってみせるから!」

「う、うん・・・」

「もう・・・ジルは誰に抱かれたと思ってるの?ドモンさんだよ?」

「そうね!」


サンの言葉にドモンは首を傾げたが、ジルのその表情を見て「まあいいか」とにっこり微笑んだ。

今は誰も気がついてはないが、知らぬ間にジルのステータスにも加護が付いていた。




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