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第216話

「ああドモンさん!もう動いて大丈夫なのぅ?!」


混雑した店内の中を、ドモンの元へと慌てて駆け寄ってきたエリー。

店の中はドモンのことを知る者達で溢れていた。


「えらい目にあったなぁあんた!」

「ふざけた野郎もいるもんだなこの街も!俺がその場にいたらぶっ飛ばしてやったのに」

「いやぁありゃ駄目だ。あんた見てなかったのかい?暴動だよ暴動!なあヨハン?」

「ああ、興奮しちまった奴らが暴れだしてドモンもこんな目にあっちまってよ・・・」


客らにその時の様子を語ったヨハン。


店に戻ってから心配した客がひっきりなしにやってきて、いちいち店先で説明するのもなんだからと、思い切って店を開けたらこの通り。

だが、結局来る客来る客に何度も同じ説明をすることとなった。その場所がカウンターの中になっただけ。


それでもその説明をする度に、ヨハンは石を投げた連中の事を腹立たしく思っていた。



「俺は大丈夫だよ。荷物片付けたら店を手伝うからさ」

「いいわよぅ!お願い!今日は休んでちょうだい!ね?無理は駄目よぉ・・・うぅ~!!」


心配したエリーが涙をこぼす。

なるべく笑顔で接客しようとしていたけれど、時折ふと立ち止まってはポロポロと涙をこぼしていたんだとヨハンに聞き、「そりゃ申し訳なかったな」とドモンが謝った。


エリーは見ていた。

ドモンがナナを庇い、大きな石で頭を弾かれる瞬間を。

それも悲しいし、それをやったのが同じ街の住人というのも悲しかった。


明日、道ですれ違った人が、もしかするとドモンをこんな目に合わせた人かもしれない。

それが恐ろしく、そして悲しい。


しかしドモンの反応は意外なものだった。



「この街の奴らを嫌いになるなよ?」と忠告するドモン。


「そ、それはこっちのセリフだよ!!」

「そうだぞドモン!」


思わず叫んだ客とヨハン。エリーは両手で口を抑えて絶句。


ドモンを知る者は皆気に病んでいた。

もうこの街を見捨てて、ドモンはどこかに行ってしまうのでは?と。


ヨハンとエリーは、このまま屋敷や王都で暮らした方が良いかもしれないといった話までしていた。


「みんなが混乱したのも仕方ないさ。ヨハンやエリーだって最初驚いてたじゃないか。魔物達に俺が会いたいって言った時に」

「ああ・・・そういやそうだったな」

「今考えてみたらとても恥ずかしいわ・・・長老さんや他のみんなに申し訳ない気持ちでいっぱいね・・・」


ドモンの言葉にうつむくヨハンとエリー。


「今度さ、もう少し落ち着いてから、あのゴブリン達を店に呼んでこっちでも歓迎会をやろうよ。その時はみんなも来てくれないか?うまい飯作るからさ!すすきの祭りもやっちゃうぜ?」ドモンが客達に呼びかけた。


「おう!任せておけ!」

「うちの旦那も連れてくるわよ」

「俺も寄らせてもらうぜ」

「すすきの・・・祭り??」


客達が皆同意をしてくれて、ドモンはようやくホッとした。

ホッとすると同時にまた少し頭の傷の痛みがぶり返し、荷物を置いて戻ってきたナナに連れられ二階の部屋へ。

サンが「あとのことはお任せ下さい!」と階段を上がるふたりを見送った。



「く・・・」

「またやせ我慢していたのね・・・もう」

「いやいや、気を張ってる時は痛みを感じないもんなんだ人間ってのは。痩せ我慢じゃなくて。ただ安心すると流石にな・・・」


「・・・お酒は?今回もいる?」

「一杯だけくれ。あとはいつものように・・・」

「はいはいちょっと待ってね」


買ってきたウイスキーをショットで一杯だけ飲み、ベッドでナナの腕の中、ふかふかの何かに顔を突っ込んでドモンはすぐに眠りについた。




一方その頃屋敷では、ドモンが置いていった特大ビニールプールで大騒ぎ。


もう暗いから明日にしようという話になり、子供らも渋々納得していたが、どうしても今すぐ見たいと義父が一番に張り切りだし、サウナを作る予定である排水工事をした元グラの部屋で、ビニールプールを膨らますことになった。


空気入れを使用しみんなで交代交代に膨らましていくと、ドモンが言った通り、本当にものすごい大きさのプールが部屋一杯に広がり、子供達は大喜び。


水魔法係とお風呂で沸かしたお湯をプールへ補充する係に分かれ、一時間以上をかけて完成させた。

時間はもう夜の10時過ぎ。


「み、皆様、これはすべり台と言いまして、このように滑ってお風呂の中へと飛び込むものです。お湯が跳ねますのでお気をつけ下さい・・・・フォオオオオオ!!!」


水着を着たジルがすべり台に石鹸をつけ、見本として一番に滑ってみせた。


「うおっ!!」

「た、楽しそう!!」

「私、着替えてくる!!」

「僕も!」


これから寝るまでの三十分は子供達とジル、その後の一時間は女性陣、最後に男性陣と順番を決め遊ぶことになった。

なぜか義父と長老だけは深夜に・・・。


翌日、お尻を腫らして立ったまま食事をとる者が続出し、すべり台の回数制限が設けられることに。

「馬鹿な奴らだ」とツヤツヤ顔の長老を膝の上に座らせながら、モーニングティーを楽しむ義父。



店は昨日にも増して、朝から騒がしかった。


「おいヨハン!開けてくれ!」ドンドンと外のドアを叩く客の声。

「なによなによ?どうしたのぉ?」


慌てて着替えを終えたエリーが外のドアを開けると、まだ開店前だというのに客がなだれ込んできた。


「ちょっとみんな待って!開店の準備してないわよぅ!」

「いいからいいから!」

「それよりすすきの祭りってのはなんなんだよ!?」

「え?え?えぇ??」


どこからどう情報が漏れたのか、街中に妙な噂が広がっていて、仕事をほっぽりだしてまで店にやってきた客達。

男だけじゃなく女もいて、いつそれをやるのかと息巻いていた。


「す、すすきのってのはあれだろう?女達がスケベな服を着て接客する店が何千軒もあるという・・・」

「私はホストと呼ばれる格好のいい男達が、女性をお姫様のように接待する店もあると聞いたわ!」


いつも酔ったドモンがすすきのの話をしていたので、常連達はすすきのの事を知っていた。


「わ、わからないわよ私・・・ドモンさんに聞いてみないと」


エリーが慌てて階段を駆け上がっていく。

数分後、異世界の服を着たエリーと、スーツを着た高級キャバクラ嬢スタイルのナナ、ザックにも貸した高級スーツを着たドモンが階段を降りてきた。


その姿に皆息を飲む。


「今日は本番ではないけれど、当日女達はこんな格好をして、男は俺みたいな格好で接客しようと思う。ゴブリン達にも手伝ってもらってさ」と皆に説明をしたドモン。


「あ!あの時の格好いいゴブリンの男の子が着ていたスーツねそれって」

「え?あの子が接客するの??」


騒ぐ女性陣。


「だ、駄目かな?まだゴブリンじゃ・・・あと屋敷の連中にも手伝ってもらおうかと思ってるんだけど。異世界の服を着せてさ」騎士の中にも良い顔をした連中が何名もいたことを思い出すドモン。


「ぜーんぜん駄目じゃないわよっ!ウフフ!」

「あー楽しみだわ!屋敷の人達ってのも誰かしら?まさか・・・いえそんなことはないわよね」


テーブル席に座ってキャッキャと話が弾む女性達。

あとからやってきた女性達とも話をし始め、もう止まる様子はない。


「それにしてもナナちゃんもエリーも・・・ゴクリ」

「えらい格好だな・・・」

「俺は今立ち上がれねぇよ。理由は聞くなよ絶対に」


当然男達も大騒ぎ。


「当日はこの格好で下着もつけずに接客するかもよ?!その代わりいつもより料金はお高めだぞ?なんちゃって」

「ちょっとドモン!!」

「ウフフ!そのくらいなら良いわよぉ!」

「え?!」「え??何言ってるのよお母さん???」


冗談を言ったドモンだったが、冗談かどうかもわからない返事をしたエリーに驚くドモンとナナ。そして男性陣も。

階段の上からもサンとヨハンの驚く声が聞こえた。


「その日はみんな、上も下も下着はなしなのねぇ?」

「え?下も?!」「え?!みんな???」


エリーのトンデモ発言にもう一度驚くドモンとナナ。


「まあ良いじゃないのよ~減るものじゃあるまいし。ドモンさんのためでもあるんだから。ね?良いでしょナナ」

「嫌よ!な、なんで私まで・・・」

「ナナはドモンさんを喜ばせたくないの?私はドモンさんの思うようにしてあげたいのよぅ」

「わ、わかったわよ・・・でも下はちょっと・・・」


エリーとナナの会話を聞いて、階段の上で頭を抱えるヨハンと、ドキドキが止まらないサン。


「サ、サンちゃんは?サンちゃんも接客するのか?」と客のひとり。

「サンには・・・セーラー服を着せるよ」

「なんだよそれは???」

「俺の世界の学校の制服だ。女の子用のな。なかなか可愛いぞ?ちょっとスカートが短いけれども」


当然トンキで揃えたコスプレ衣装。

故にスカートはとてつもなく短めである。


「そ、それも下着無しで着るのかい??」

「いやそれは流石に・・・」

「着ます!!私も下着無しで!!」


タタタタ・・・と階段を駆け下りてきたサン。

なぜそんな覚悟を決めてしまったのか。


「いやね、サン・・・見てよ、このナナとエリーの服を。セーラー服ってこれよりもスカートが短いんだよ」

「だ、大丈夫です!」

「腰に小さなタオルを巻いただけのようなもんなんだよ。下手すりゃ会釈しただけで全部丸出しになっちゃうから」

「アワワワ・・・だだだ大丈夫です」

「いや駄目だってば」


全て嘘か本当かわからぬまま、ドモン達の会話はあっという間に噂となり、ついには屋敷、更には義父の耳にまでしっかりと届いたのであった。






実際にアドレナリンが出ている最中は痛みを感じずに動ける。

安心した瞬間が一番危ない(ドモン調べ)

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