第213話
「おお!目覚めたのか!!おお・・・おぉ・・・」
部屋へとやってきたカールの義父がサンの手を握る。
義父は誰にも話さなかったが、助けることは極めて困難だと考えていた。
いやそもそも、助けることは出来ない。助かることはあっても。
呪いをかけた本人の気まぐれで、助かるか助からないかが決まる。
そう古い文献に書いてあったからだ。
それはあまりにも絶望的な内容で、義父は嘘をついたのだ。
「うぅ・・・いてぇ・・・」
「自業自得よ!でも・・・それでサンが目覚めたんだから・・・グギギギ!!やっぱり許さない!!」
「ヤダヤダ!もう勘弁して!!」
怒りが収まっていなかったナナから逃げ、サンの後ろに隠れたドモン。
サンはコロンと横になり、丸出しになったドモンの頭にナナのゲンコツが落ちた。
「ひどい・・・まだ縫ったばかりなのに」
「縫ったばかりで浮気したのはどこの誰!」
「ごめんなさい・・・」
一緒に駆けつけていたカールやグラ、そしてゴブリン達や子供らが全員ヤレヤレのポーズ。
「あーあ。安心したら急にお腹減っちゃった。さあサンも行くわよ!」
「はい!」
サンの手を引っ張って起こすナナ。
「結局サンはどんな夢を見ていたんだ?お父さんとお母さんがいたのはわかったけど」とドモンもサンに引っ張られて起き上がる。
「お父さんとお母さんと会って・・・お話して・・・結婚の挨拶をしました。お別れする前に」
「そっか」
「結婚の挨拶・・・うぅぅ・・・出来ました御主人様!ありがとうございます!ありがとうございます!ううううぅぅぅわぁぁぁぁん・・・・」
「・・・・」
両親との再度の別れ。
しかしたとえどんな形でも、また会って、結婚の報告を出来たことにサンは感謝した。
「ドモンよ、しっかりとした結婚式を挙げてやるのだぞ?天国の両親が納得するものをだ。わかっておるな?」と義父。
「わかってるよ。王宮で結婚式を挙げて、数万人の民衆の前で素っ裸にサンの服をひん剥けばいいんだろ?」と冗談を言ったドモン。
夢の中で一度それを味わったサンは顔が真っ赤。義父は何のことかわからなかったが、とりあえずドモンの尻を激しく引っ叩いた。
「ギャアアア!!!」
「だ、大丈夫?!飛んだわ・・・ドモンが空を飛んだ」
あまりの光景に唖然としたナナ。
「あああ!御主人様!!うぅ~いくらなんでもやりすぎです!うーっ!」義父相手にも怯まず怒るサン。
「この馬鹿者がお前に恥をかかせようとしとるから」と義父。
「御主人様は私の望みを叶えようとしてくださっただけです!!」
「えぇ?!」「本当か?!」「なんと!!」
「うわあああ!忘れて下さい・・・」
これ以上ないという程真っ赤な顔のサン。
両手を顔に当てて赤い顔を隠した。
「サンはドモンに辱められるのが好きなのよ。ジルもだけど」
「ああああ奥様ぁ!!お兄ちゃん聞かないでっ!!!」
ナナの余計な説明に巻き込まれたジル。
性癖を身内にバラされてしまうという、この世の地獄のひとつ。
「大丈夫だジル。ザックはザックで、ナナに薬草をお尻に塗られて元気になっちゃったことあっただろ」
「!!!!!!」
ドモンのせいでザックも巻き込まれ事故。
ナナが思い出して「プッ!」と吹き出し、ザックの恥ずかしさは倍増。
「まあそれで一番酷いのは、結婚式で元気になっちゃったジジイだから平気平気。二次会の時なんてそれをエリーとかに見せびらかしてたんだぜ」
「私のお母さんに向かって変態よ変態!スケベおじいちゃん」ナナがヤレヤレ。
「元はと言えば貴様のせいであろうが!バカモン!!!」
もう一発ドモンにお見舞いしようとした義父だったが、目の前にサンが立ちはだかって「めっ」と義父を睨み、ドモンは助かった。
ぎゃあぎゃあと皆で騒ぎながら厨房へと向かう道すがら、サンがぼそっとドモンに話しかける。
「結局お父さんとお母さんに会わせてくれたのって・・・御主人様ですよね?」
「・・・・」
「私、顔も忘れかけていたのに、はっきりと思い出したというか思い出せたというか」
「うん」
「それに私、うぅ・・・きちんとしたお別れをしていなかったから、今回きちんと出来て・・・それに結婚の報告もして安心して貰って、ずっと心の奥に引っかかっていたものが取れたのです」
「・・・そりゃ良かったな」
笑顔で涙を拭うサン。
呪いであろうがなんだろうが、サンにとっては救いとなった。
「すぐに御主人様がそうしたんだと気が付きました。あくまで勘ですけども」
「しっ!・・・・どうやらそうらしいんだけど、俺にもまだよくわからないんだ。今は内緒にしておいて」
「・・・はい。ふたりだけの秘密ですね?」
「うん」
ドモンの顔を覗き込んでニコッとサンが笑い、ドモンの左手をキュッと握る。
そんなサンの笑顔はやはり天使のよう。
「ねぇ御主人様・・・耳を貸してください」
「ん?」
「もっとこっち」
ドモンが更に体を斜めにして耳を貸し、背伸びをしたサンが顔を近づけ、ゴニョゴニョと小さく声を出す。
「ん?なんだ?なんだって?」
「だから・・・チュッ」
「おや?」
「や、約束守ったの・・・」
ドモンの頬にキスをして、自分の頬を赤く染めるサン。
夢の中で見た夢での、あの男の子との約束を、今、果たした。
そして夢の中の夢での約束のつづきは、まさしくサンの今の夢。
「じゃあ俺も責任取ってサンを貰ってやらないとな。最初からそのつもりだったけど」
「は、はい!」
わかっていたのか、わかっていなかったのか?
とにかくドモンはそう返事をし、サンを喜ばせた。




