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第209話

「何かおかしいぞ?」とグラ。


流石のドモンも少し心配になった。


「サン、俺の声は聞こえてるのか?」

「うぅ」


一気に緊張感が増す部屋の中。

声が聞こえているのに起きることが出来ないというのは、サンの身に何かしら異常が起きている証拠。


「自分で目を開けることが出来ないのか?」

「うぅ」


困り果てる一同。

異世界特有の何かしらの現象なのかとドモンは皆に聞いたが、こんな事は初めてだと皆首を横に振った。


「・・・ドモン様、少し二人だけでお話させていただいて宜しいですか?」と長老。

「なにか思い当たることでもあるのか?」

「確証はないのですけれども・・・」


長老もまだはっきりとはしていない様子。


「私達が聞いたら都合が悪いの?」

「ドモン様の身の上の事でして、もし違った場合ご迷惑をおかけしてしまうかもしれないのです」

「うーんはっきり言って気になるけど、今は仕方ないわね。ドモン、長老さんと隣の部屋に行ってきてよ」

「ああわかった」


ナナは少し腑に落ちずにいたが、サンを何とかするためには仕方ないと二人で話すことを了承した。

ドモンと長老はドモンが最初に寝ていた隣の部屋へ。

中に入るなり「先程のことなんですが・・・」と長老が話を始めた。




その頃眠れるサンは、両親と一緒にパンを食べていた。

久々に感じる両親の優しさと温もり。


「サンドラ、バターを取ってくれるかい?」

「うん」

「うふふ、いい子ねサンドラ。サンドラも沢山食べるのよ?」

「うん!」


窓から差す穏やかな陽の光。

窓の外からは走り回って遊ぶ子供達の声が聞こえる。


「ふふふ。サンドラも食べ終わったら一緒に遊んでおいで。食べ終わったらね」と父親。

「うん!!でも・・・」サンは何かが気になったが、それがよくわからない。


外から「サン!」と呼ぶ声が聞こえたが、まだ食べ終わっておらず、サンは一生懸命もぐもぐと食べていた。


「ほらほら、そんなに口に詰め込んじゃ駄目よ。慌てちゃって」

「うぅ」サンの口はパンパン。


「サーン!」と男の子の声。

「うぅ」と口いっぱいにパンを詰め込んだまま返事をしたサン。


窓の外から何度も話しかけてくる男の子。そして女の子の声も聞こえた。


「サン、俺の声は聞こえてるのか?」

「うぅ」


返事をしながらなんとかパンを飲み込もうとしたが、何故かパンは口から無くならない。

焦る気持ちと幸せな気持ちがごちゃ混ぜで、なんとも変な気分。


「食べ終わらないと遊びにいっては駄目だぞ?」

「疲れてしまったの?少し眠ったらどう?」


母親に瞼を手で塞がれ、サンは夢の中でまた眠った。

真っ暗闇の中、外からまた男の子の声が聞こえる。


「自分で目を開けることが出来ないのか?」

「うぅ」


返事をしながら「だって仕方ないじゃない」とサンは思った。




「ドモン様・・・」長老が深刻そうな顔をした。

「一体何が起きているんだ?」


「人の心が弱っている時に、何かに捉われるといったような話を聞いた事がございますでしょうか?」

「うん、まあよくある話だな。それで宗教に盲信してしまったりなんてこともあるしな」


ドモンがタバコに火をつけると、すぐに長老が部屋の隅にあった灰皿を持ってきた。


「先程私も捉われていたのでございます」

「何に?」

「ドモン様に・・・・」


長老の言っている事が全く理解できずにいるドモン。

ドモンにそんなつもりはないし、そんな事はしていない。


それにもし自分がそうしたなら、とっくにサンを起こしているはずだ。そのドモン本人が起こそうとしているのだから。



「私は夫と一緒に、果実を食しておりました」

「へ?」

「もちろん夢の中での話でございます。久々に夫の横に並んで眠りについて、ぐっすりと・・・」

「夢の中で寝ちゃったのか。まあたまにあるよなそういう事も」


ドモンがフゥと煙を吐く。


「ですが私はそれがおかしなことだと気がついておりました」

「なぜ?」

「・・・私の夫は亡くなっておりますので」

「それは夢の中でもわかっていたんだ」


持ち前の強い精神力で、長老はそれが虚空のものだと気がついた。

しかし自らはその虚空から抜け出せずにいた。


「目を覚まそうにも起きられずにいたと」

「はい。ですがその・・・ドモン様がその・・・」

「おっぱいを揉んだから??」

「・・・夫とは違う手の感触だったもので」


長老は夢の中で、そのあまりにもスケベな触り方に驚き、目を開け家を飛び出したのだと言う。

飛び出すと同時に目が覚めた。


「サンも夢の中で家から出られなくなってる状態なのか?」

「恐らく・・・」

「なんだってそんな事に。しかもなぜ俺が犯人なんだよ?」

「それはその・・・ドモン様の能力と言いますか・・・」


弱っている心に忍び寄る悪魔の影。

その心を操り、我がものにする。

ドモンもそんな話は聞いたことがある。が、首をブルブルと横に振って否定し、その考えを頭から消した。


「と、とにかくだ。なんとかしてサンをその家から出してやって起こして、みんなでさっさと晩飯でも食おうぜ」

「はい」

「あと・・・この事は長老の言う通りなんとなく秘密にしといてくれ。なんかジジイに本当に討伐されちゃう気もするからな。みんなも不安になるだろうし」

「えぇ・・・」


話を終え、二人はみんなの元へと戻った。



「ドモン!ねえ何だったの?言える範囲でいいから教えて?」サンの横に座って手を握っていたナナが立ち上がる。

「まあ俺のせい・・・俺が弱っちまったせいで、サンも長老も『夢の中の家』に閉じ込められてるらしいんだ。長老はそこから出てこられたんだけど、サンは出られずにいるらしい」


ドモンがそう答えるなり、カールの片眉がピクリと上がった。

カールもそんな話を聞いたことがあったのだ。それが何の仕業なのかも聞いたことがあった。


「じゃあサンに『出ておいで~』とかって言って、家から出るようにすればいいのね?」

「そういうことらしい」

「あくまで自分から目覚める気持ちを持たねばなりません。その家から出ていく勇気を持って」


ナナに向かって長老が説明を付け加えた。


「どうして簡単に出てこれないんだ?」とカールの息子が不思議顔。

「それは・・・そこでとても幸せな時間を過ごしているからなのでございます」長老が質問に答えていく。


「どういうことかしら?」と女の子。

「人それぞれ色々と幸せな時間はあるとは思いますが、主に・・・亡くなられてしまった親しい方が引き止めるのでございますよ・・・」

「長老は・・・亡くなった旦那さんがいたんだってさ。で、うっかり俺と浮気しちまって家から出たみたいな感じだな」


今度はドモンが付け加える。

少しふざけてはいたが皆意味は通じた。


「ってことはもしかしてサンは今・・・」

「・・・・」


ナナの言葉に全員がサンの顔を見た。


「サン!お父さんとお母さんがいるのか?」

「うぅ」


「そりゃ強敵だな」とドモンはまたタバコに火をつけた。





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