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第205話

「ヒ、ヒィィィ!!!」

「怯むなジル!」


そう叫んだザックの脚もガタガタと震えていた。

この二人の両親も、人間達に無惨に狩られている。


父親はどれだけ命乞いをしたことか。

内臓が破裂するほど腹を蹴られ、両腕を切り落とされ、最後に首を落とされた。


母親はザックとジルを庇い逃しながら背中を斬られ、「痛いぃぃ!!ザックゥゥ!!ジルゥゥ!!!助けてぇぇぇ!!!」と子供達の名前を叫びながら殺された。



ザックは微笑み手を振りつつ、その両親を殺した相手を沿道の人々の中に見つけた。もう気が狂いそうだった。



「ザック!!」

「わかっております!大丈夫です!」


ドモンの呼びかけに手を振りながら左手の拳を握りしめ、血が馬車の床へと滴り落ちる。


今そこにあるのは自分達の未来。そして希望。

断ち切る。断ち切らなければならない。

もう二度と、子供達にそんな思いをさせないために。


笑顔を見せ続けるゴブリン達に、人々の不安そうな顔が少しずつほぐれていく。


「ううぅぅぅ・・・!!」

「泣かないでジル!泣いちゃ駄目!!」


御者台から響くサンの声。

その声には少しだけ怒気が帯びていた。


もし万が一、この沿道の中の誰かがジルを攻撃したならば、サンは刺し違えるつもりでいた。

そしてそれはナナも同じである。



続いて義父と長老が乗った馬車が街へと入る。

義父の提案で、ふたりは御者台の上に立っていた。

オープンカーのような馬車ではなかったため、一番に目立つ場所をと考え、義父がそうしたのだ。


「ハァハァハァ・・・!!」

「大丈夫だ。そなたは私が必ず守る故に」


ガシリと長老の肩を抱き、右手を高々と上げる義父。

うおおお・・・という声が一斉に沿道から上がった。


その様子を見た人々が信じられないといった表情を見せる。

義父はただ威厳を保ったまま、手を振り続けた。



最後にカール達の馬車が街の中へ。

なんとなくカールとグラも義父の真似をし、エリーを横に従え御者台の上に立ったが、ナナとケーコが選んで買った服を着たエリーに沿道の男達は皆前かがみに。


「ほ、本能だよ!あんなの耐えるの無理だってば!!」

「我慢なさい!あとで相手してあげるから・・・もう仕方ないわね」


そんな声があちらこちらで上がり、後の出生率増加に貢献することとなった。



三台の馬車が通り抜けた後、街は騒然となる。

今まで討伐対象であった魔物が王族や貴族と一緒に、騎士に守られながら街に入ってきたためだ。


そもそもが、魔物や獣が入ってこないようにするための塀や門である。当然街は大混乱。

カールやグラ、そしてドモンですら不安を覚える中、悠然と構えているのは義父のみ。


馬車が街の中央広場にゆっくりと入ると、そこにも多くの住民が馬車を囲むように待ち構えていた。


「馬車を止めい!!」


義父が大声をあげ、三台の馬車が広場の真ん中の噴水の横につけられる。

ざわざわとした声がより一層激しさを増した。が、義父の「聞けぃ!皆の者!!」の一言で、小鳥のさえずりが聞こえるほど一瞬で場は静まった。


「我らはゴブリン族と友好関係を結んだ!よってこれ以後、私の名において討伐を禁ずる!!」


義父の宣言にすぐに驚きの声があちらこちらから上がったが、騎士達が「静まれ静まれぃ!」と場を収めた。


「こちらに来てくだされ」と義父が馬車を降り、長老へと手を差し伸べる。

前の馬車に「ドモンよ」と一言だけ声をかけると、すぐにそれを察したドモンがザックとジルを連れて馬車から降りてきた。ナナもザックに手を添えられ、ぴょんと馬車から飛び降りた。


ゴブリン達の脚の震えが止まらない。

それを見た何名かが嘲笑し、ドモンがその方向を睨む。


そんな事を気にも留めず、義父はその場で跪き、長老の手を取ってその手にキスをした。

王族にとって、女性に対する最上級の挨拶である。

人々は目を見合わせ、息を呑む。



ただ、これだけではあくまで王族や貴族の客止まりとなってしまうことを危惧したドモン。

客としてではなく、人間と同じであるという事も伝えなければならない。


「みんな聞いてくれ!ゴブリン達は魔物じゃないんだ」

「どう見ても魔物だろうが!」


ドモンの言葉にすぐにどこからか野次が飛んできた。どこの誰が言っているのかはわからない。


「違うんだ!種類が違うだけの同じ人間なんだよ」

「だからそれを魔物って言うんだよバーカ!」

「頭おかしいんじゃねぇのオッサン」


また野次が飛び、それに釣られるように「何?あの肌の色。気持ち悪いわぁ」と女性達の声まで聞こえ始めた。

長老は俯き、ザックとジルは下唇を噛んだ。

サンとナナは爆発寸前で、ヨハンとエリーがそれを宥めている。


「ドモンよ」「ドモン!」義父とカールが同時に声を上げる。

「二人は黙っててくれ。上の命令で無理やり仲良くさせるだけじゃ駄目なんだ。お互いに歩み寄って・・・」


ゴッ!という音と同時に「ぐあ!」というザックの叫び声。

どこからか投げられた石がザックの背中に当たったのだ。


義父は激怒し犯人を探そうとしたが、長老がフラフラと倒れそうになり、それを支えるので精一杯。

カールとグラの指示で騎士達が犯人を探したが、今度は別の場所から石がいくつも飛んできて、ジルを庇ったサンの脚、そしてドモンの頭に直撃した。


吹き出すドモンの真っ黒な血。


「ジジイ、危ねぇから馬車の中にゴブリン達連れて入ってくれ。カールとグ・・・」

「キャッ!!」


ナナの顔に直撃しそうになった大きな石を、ドモンはナナを抱きしめ後頭部で受けた。


「お、おのれ!!」

「ジジイいいから」


うわぁぁんというサンの泣き声が天に届いたのか、ぽつりぽつりと雨が降り始める。

ドモンはサンの頭を撫で「さあみんな馬車に乗って」と微笑んだ。





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