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第202話

朝食を終え、長老、ザック、ジルが正装へと着替えを終える。

三人はまた緊張した面持ち。


「さてザックとジルは俺らの馬車に乗るとして、ヨハンとエリーはカール達の馬車ってことでいいのかな?」

「ああ、それでかまわないぞ」とドモンに答えたカール。


「そ、そうなると私は・・・」

「そなたは私と一緒の馬車に乗ってくだされ」

「は、はい・・・」


緊張感は更に高まる長老だったが、これはカールの義父が考慮しての事。

横に肩を並べることが大切だと判断した。


「スケベな事されないように気をつけろよ長老」からかうドモン。

「馬鹿者!此奴も護衛として乗るのだぞ!」と部隊長を指差す義父。


「あぁ三人でしちゃうのか。スケベな大人達だなぁ」

「先に馬車に乗っていてくださるか?私は奴を成敗してから参ります故」

「わああああ!!」


鬼の形相をした義父から逃げエリーの後ろに隠れ、背中からエリーの両腕を持ってシュッシュッシュッ!とボクシングの構えをさせるドモン。

「ウフフ!シュッシュッ!ウフフフ!もう~ドモンさんやめてよぉ」とニコニコしながら猫パンチを繰り出す可愛すぎるエリーの姿に、義父は全身の力が抜け、笑顔でその場に片膝をつく。


「女性を盾に取るとはなんと汚い男なのだ」

「よし!今だエリー!やっちゃうぞ」

「だめよぉドモンさん~あぁん」

「むおっ!!」


ドモンがエリーの右腕を持ち、ふわふわとした右パンチを放つ。

だがバランスを崩し、片膝をついていた義父の顔面へと胸でアタックしてしまったエリー。


「おっと!ぶ、無事ですかな?!」

「えぇ・・・私の方こそごめんなさいねぇ」

「いや私は問題ない。それよりもこのバカ息子ときたら・・・」

「べろべろべろ~」


真っ赤な顔でエリーを支え起こし、すぐさまドモンを追いかけ捕まえた義父。


「わ、悪かったってば!」

「ふぅ・・・ドモンよ・・・」

「なんだよ??」

「貴様には今度美味い酒をやろう」


表情を崩さぬように気をつけながらドモンと肩を組む義父。

なんなら領地のひとつふたつ渡しても構わないと思うほどの功績である。


すぐにその意図を汲み取ったドモンが「まったくスケベジジイが・・・すんごい柔らかかっただろ?」とぼそっと耳元で呟くと「うむ。この世のものとは思えぬわ」と返事をして、機嫌よく去っていった。



不思議そうな顔をしながらカール達の馬車に乗るヨハンとエリー。

ナナはそれを見ながらヤレヤレのポーズを取っていたが、ツヤツヤ顔で機嫌が良かったためお咎めはなし。

ザックとジルを連れ、サンが待つ馬車の中へ一緒に入っていった。

ジルは今回貴賓扱いの為、サンの横ではない。


ゴブリン達とこの場に残る護衛達に別れを告げ、ドモンも馬車の中へ。


「ドモン様!これを土産に持っていってください!」ゴブリンのひとりがかごに入ったリンゴを持ってきた。

「おお悪いな!屋敷の子供らと一緒に食べるよ」ドモンが返事をし、ザックが受け取り馬車の中へ。


「では御主人様行きますよ~、はぁい!」


サンの掛け声で馬車がゆっくりと走り出す。

ゴブリンの子供達がワーッと声を上げながら馬車の横を走って手を振り、ドモンとナナが手を振り返した。


続いて義父と長老らが乗る豪華なファルの馬車、最後にカール達が乗る馬車が発車する。

馬に乗った護衛の騎士達が周りを取り囲み、物々しい雰囲気。


「あ~~また緊張してきてしまった・・・」

「お、お兄ちゃんしっかりしてよ」


緊張しているザックとジルを見て、クスクスと笑うナナ。


「みんながなんとかしてくれるから大丈夫よ。それにドモンもいるんだから」

「堂々としていればいいさ。でも威張り散らせってわけじゃないからな?」


ナナとドモンの言葉に「わかりました・・・」とザックは背筋を伸ばす。


「何なら気付けに一杯やっとくか?まだ数時間はかかるだろうし」

「駄目よドモン」「駄目ですよ御主人様」「駄目だと思います」「止めておきましょうドモン様」

「じゃあ飲もうっと」


全員の忠告を無視し、冷蔵庫から素早く缶酎ハイを取り出しプシュッと開けるドモン。

カンカンに怒ったナナには、少しだけしか買っていない桃の缶酎ハイを差し出した。


「これは数本しか買ってない桃で出来た貴重な酒だぞ」

「え?桃ってあの桃ですか??」とザック。ナナは何のことかわかっていない。


どうやらこの世界ではかなり貴重なものだったらしく、ナナはその存在を全く知らなかった。

ザックも隣国に少量だけ存在すると魔物仲間から噂に聞いた程度。


「あら?じゃあこれを王への献上品にするか」

「やだやだやだ!!もう私のよ!私が飲むわ!!」


話を聞いて大慌てで開けるナナ。一口飲むなりすぐに絶叫した。


「ああ~美味しい!!これが桃ってやつなの???うんうんこれは貴重なはずだわ!だって美味しすぎるもの!!」

「そりゃ良かった。ほらジルも飲む?」


もう一缶渡すドモン。

ドモンは甘すぎる酒が苦手で、最初からナナやサンのために買ったものだった。


「こ、こんな貴重な物を宜しいのですか?!」とジルが大事そうに受け取った。

「ずるいずるいずるい~!!ジルのばかぁ!!」と御者台からサンの声。


「まだ何本かあるからあとでサンにもあげるよ。今は運転があるから駄目だ」

「ふぁい。御主人様ごめんなさい」しょんぼりなサン。


サンを気遣い、なるべく声を上げないようにしようと考えていたジルも「うわぁ!!く、果物の味なの??これが?!」と大声で叫んでしまった。

ジルから一口貰ったザックも「まるでお菓子のようだ・・・」と絶句。


その貴重さと美味さを知り、もの凄くちびちびと飲みだしたナナとジルとザック。

一時間もかけて飲んでいる様子にイライラしたドモンが、酎レモンのストロングのロング缶を三人に渡し、「もうさっさと飲んで、着くまでに酔いを覚ませばいいだろ」と無理やり飲ませた。



その結果途中のトイレ休憩にて、馬車から降りるなり吐き続けるザックと、下着姿でヨロヨロと草むらに用を足しに向かうナナ、そして馬車の中からはジルの笑い声とドモンのいびきが聞こえることに。


「・・・御主人様は悪くないです・・・」と馬車から降りて呆れる義父に、サンは伏し目がちに囁いた。




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