第201話
「朝っぱらから両手に花でニヤニヤしおって」義父が呆れた顔。
「違うわおじいちゃん。なんか逃げそうだったから、私達が逃げる前に捕まえたの」
「いや・・・やる事いっぱいで面倒だなぁと思っただけで何故か捕まったんだよ」
ナナの説明で悪者にされそうになり、ドモンが慌てて言い訳。
サンは腕にしがみつきニコニコしている。
「このぐらいで何を音を上げとる貴様は」
「仕方ないだろ。ジジイまで忘れてるんじゃないのか?サンの結婚式もすんだぞ」
「・・・覚えておるわ」
「なんだか妙な間があった気がするんだけど?」
目をそらす義父と、ハッとするカールとグラ。
ドモンの死という衝撃的な出来事で全てが吹っ飛んでいた。
三人をジトっとした目で睨むドモン。
「そ、それならば王宮で行えば良かろう」
「?????」
突然の義父の提案に、ニコニコとしたまま絶句するサン。
「し、城で式を行うというのですか?!」声をひっくり返したカール。
「私の息子ということであれば問題はあるまい」
「やだってば。ヤダヤダ」
ドモンとの養子縁組を義父はまだ諦めてはいない。
サンはそんな事はありえないと知りつつも、やはり女の子だということもあり、お城でお姫様のようにドモンと一緒に民衆に手を振る自分を想像して気分が高揚する。
ナナも羨ましがっていたが、ドモンはそれを想像するだけでゾッとした。
あのフィギュアスケートのような衣装だけでも恥ずかしかったのに、どんなコントだよと赤面するのみ。
ともかく、義父がこっちに滞在中か王都の方で式を行えという理不尽な条件を突きつけられ、ドモンは閉口。
サンがそれでいいと言うので渋々条件を飲んだ。
ドモンがヨハンに鶏肉を煮るように頼み、エリーや馬車屋のファルと談笑していると「ドモン様~」と子供らの声が響く。
手に持っていた籠には、たっぷりの謎の野草。
「おいお前ら、これ本当に食えるんだろうな?」
「わかんないです」「わかんない」「知らな~い」
「おい!そういや前も例のあの怪しいキノコ勝手に入れてただろお前ら」
「こ、今回は私達大人が選別いたしますので・・・」
王族もいるとなれば流石にあのような事を繰り返してはいけない。
野草に詳しい者達でしっかりと選別を行うこととなった。
中にやはり例のあの怪しい元気キノコが混ざっており、「む?ではそれは私が頂いておこう」と義父が懐にキノコをしまい、子供らの頭を撫でた。
キャベツやレタスなど栽培をしているものの他、クレソンのような物、ルッコラのような物、ケールや小松菜や春菊のような物など、ドモンにも判別不可能な野菜が並ぶ。
それらを女性陣に水洗いをしてもらい、いくつかの大きな器に盛っていった。
茹で上がった鶏肉も手で千切り、サラダの上へたっぷりと乗せていく。
「ドモン様がおっしゃられていた『美味しく食べる』というのはどういったことなのでしょう??生で食べるにしろ塩以外で一体何を?」とナナ似のゴブリン。
「塩と酢とオイルを混ぜたものをかけるのであろう?」と義父は流石に博識。
「ドレッシングのようなものはあるんだな一応。俺が買ってきたのはそれのもっと美味いやつだよ」
ドモンはそう言い、ごまドレッシングや和風ドレッシング、フレンチドレッシングやサウザンアイランドドレッシングなどの業務用サイズのボトルを目の前に並べていった。
「まあ好みはあるだろうから、少しずつ味見をして好きな物をかけて食べてくれよ」
「うむ」
ドモンの言葉にまず義父が最初に味見。
「だから毒見をしてもらってから食えっての」というドモンの忠告を無視し、少量のサラダを自分の器に盛り、ごまドレッシングをふりかけた。
「あ、マヨネーズ忘れたわ」
「私いる!取ってくるよ!」
ドモンとナナがそんな会話をしている最中、義父がむしゃりとサラダを一口頬張る。
「ムハハハ!!なんということだ!!」
「い、いかがですか?」と義父に問うカール。
「ただの生の野菜がだ。これをかけた瞬間に宮廷料理になりおったわ」
「えぇ?!ホントなのぉ!!」
義父の言葉にエリーが一番に反応しピョンピョンと跳ねた。
ざわざわと皆目を見合わせたあと、我先にと自分の器に盛り付けていく一同。
「俺はこの和風ドレッシングってのが好みだな」と言うヨハンに「ワシもこれだ」とファルも頷く。
「これは私達がかけているものに近い感じがしますね。だがそれよりも遥かに美味い」と部隊長がフレンチドレッシングを評する。
「わぁおいっしー!!このサウ・・・サウザ・・・これ美味しい!!」
「混ぜても美味しいわ!ウフフ!」
「僕全部かけちゃった。でもこれは欲張りすぎたみたい。しょっぱくなっちゃった」
「こら!どうしてそんな勿体ないことしたの!めっ!」
ゴブリン達も大騒ぎ。
「ただの野菜がすごーい!サンも食べてみてよ!」とジル。
「うん!でもその前にこの原材料というのを確認しましょう。これからこの味でずっと食べられるように」
「つ、作れるのかしら??このドレッシングってやつを」
「近い物はきっと出来ると思います!」
サンはすぐにこれがどれだけ貴重なものなのかを理解していた。
カールも「屋敷の料理人達とも相談した方が良いだろう」とサンに話しかける。
屋敷ならばある程度は材料が揃う。再現できる可能性は高い。
そこへマヨネーズを持って戻ってきたナナが「ちょっと何よあなた達!もう食べちゃって!!」と大慌て。
「ナナの分はちゃんと取ってあるわよぉ」とエリーが大きめの器に持ったサラダを渡すと、「ありがとうお母さん。あーもう油断も隙もないんだから」と一安心。
「ほらみんな!マヨネーズをかけるとまた違った味で楽しめるぞ!これも好みでかけてくれ」とドモンがマヨネーズを掲げた。
「おぉ!俺にくれドモン。しかしこれってパンに挟んで食っても美味そうだけどどうなんだろう?」
「あー鶏肉も入ってるし美味いんじゃないか?」
グラにドモンが答えるなり、騎士が馬車の方へと走り、いくつかのパンを持って戻ってきた。
「ちょうだいちょうだい!!グラさんパンちょうだい!!」
「こ、これナナ!」
手を上げパンを催促するナナを注意するヨハン。
「ハハハ仕方あるまい。私とナナの分のパンを寄越せグラティア」
「は、はい!」と騎士が代わりに返事。
義父が助け舟を出し、無事ナナもパンを手に入れた。
何気なくカールもこそっとパンを奪う。
パンを手に入れた者達がそれぞれガブリとかぶりついた。
「マヨとサウザンアイランドドレッシングとかいうやつをかけてパンに挟んでみて欲しい・・・」
あまりの美味さに何故か沈痛な面持ちなグラ。
「ああ、その組み合わせでハンバーガーにしても美味いぜ」
「なるほど結婚式の時のあれか!!それは美味そうだ」
「今は作れぬのか?」
ドモンの一言に反応するグラとカール。
昨日の肉でまだ腹が減っていないというのは何だったのか?
「牛肉は流石にないよ。ひき肉を作る機械は買ったけどな。これでハンバーグのようなひき肉料理が簡単に作れるようになった」
「でかしたドモンよ!」
「いや、その機械は屋敷の分まで買ってないぞ?案外高かったんだよ」
「なんと・・・」
がっかりとしたカールに「まあ鍛冶屋か隣街の道具屋だかに機械を見せて、量産出来るかどうか聞いてみようとは思ってるけどな」とドモンが答えた。
「フフフ・・・まあ貴様が忙しいと言う理由も少しわかってきたわ」と義父。
「だろ?だから王都なんて行ってる場合じゃないってのに」
「それとこれとは話は別だ。ゴブリン達のためにも行かねばならぬであろう?」
「もうわかったよ。行けばいいんだろ行けば!すごくスケベな店連れていけよなジジイの奢りで!」
五秒後、ドモンはナナの大きなお尻の下敷きとなった。