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第200話

「良かったわね、サン」

「きゃあ!!」


ドモンの正面に回り、もう一度しっかりと抱きつこうとしていた矢先にナナに話しかけられ、心臓が止まりそうになるほど驚いたサン。大慌てでドモンの右側へと戻る。

そんなサンを見てまた笑いながら服を脱いで温泉に入り、ナナはサンとは反対側のドモンの横に座った。


「ドモンさんだって!イヒヒヒ」ナナがニヤニヤする。

「あれはそのその・・・あぁぁぁ・・・」


「ふたりきりの時にサンが興奮するとそうなるんだよ」

「あぁやめてください御主人様!うぅ・・・」

「御主人様じゃなくてドモンさん・・でしょ?」

「奥様~うぅ」


ふたりにからかわれ、サンの顔は真っ赤。


「でも結婚するんだからいいじゃない。ね?ドモン」

「そ、それはその・・・ふたりの時、いえ、奥様と三人の時だけはお許しいただけると嬉しいですが・・・皆様の前では今まで通り御主人様とお呼びさせていただこうと思っています。そこはけじめとして」


自分の意見を言ってウンウンと自分で頷くサン。


「私達はいいわよそれで」

「そうだな。みんなの前で急にドモンさんって呼ばれるのもちょっとだけ気恥ずかしいし良いんじゃないか?」


ドモンもウンウンと頷いた。


「っていうか私達だけの時はドモン!って呼び捨てで呼んじゃえばいいのよ」

「無理無理無理ですぅ!!」

「夫婦になるんだからいいじゃない。ちょっとなんか言ってみてよ。ドモンに命令する感じで。『ドモン、私のご飯まだ?』とかって」

「それ、お前の今の願望だろ」

「わかっちゃった?エヘヘ」



ドモンとナナはそう言って笑い合っていたが、自分のそんな言葉遣いを想像して顔面蒼白になるサン。

両親が亡くなってからは、そんな言葉遣いを許されたことがなかったためであった。


ほんの冗談のつもりであったが、様子がおかしいサンを見て二人は目を見合わせる。

そしてすぐにその理由を察した。



「サン・・・私、サンはもっと甘えてもいいと思うの。あとわがままもね。慣れていないのかもしれないけれど、これから少しずつ練習してこ?」

「前に俺も同じようなこと言ったけど、もっと頼りにしてくれても良いんだぞ?結婚するなら尚更だ」


二人の言葉にふるふるとサンは首を振る。

サンにとっては甘えもわがままも、そこから追い出されてしまう行為と心の奥底に刻まれている。

変な話、オナラで音を出すことすら許されなかったのだから、当然と言えば当然であった。


「じゃあ今だけよ。今だけ練習のつもりで言ってごらんなさい?『ドモン、ジュース持ってきなさい』とか『ドモン!ご飯早く作りなさいよ!』とか」

「またナナの願望じゃねぇか。でもまあちょっと本当に言ってごらんサン。何でもいいからさ」

「うぅぅ~」


二人の言葉に頭を抱えるサンだったが、意を決し言ってみることにした。

先ほど出来なかった続き・・・ドモンに抱きしめてもらおうと思ったのだ。


「ドモン!抱きなさい!」

「え??」「えぇ?!」


ついに言い切った・・・と肩で息をしてるサンの両ワキを抱え上げ、ドモンが正面からサンを抱く。


「え?あの・・・ちょっと・・・へ?え?え?あのちが・・・」

「ほれ」

「えう???」


あんぐりと口を開いたナナの横で、文字通り抱かれてしまったサン。


「くひ・・・ドモンさん違っ・・・違うんですぅぅ!!こういう意味では~~!!」

「ぐぎぎぎぎ・・・ふたりともあとで覚えておきなさいよ!特にドモン!」

「え?違ったのか?でもまあ結婚するんだしいいだろ。それにナナはもうサンを抱いてもいいって言ってたじゃないか」

「今わたしの目の前でする必要はないじゃないのよ!!」


そのまま意識を失ったサンがテントの中で目を覚ますと、すでに着替えを済ませたツヤツヤ顔のナナが機嫌よく片付けをしていた。

ドモンは広場に戻って朝食作りへ。サンも乾かした服を着て、鼻歌交じりでテントの片付け。当然顔はツヤツヤのピカピカ。



「サンも案外大胆なのね」

「う~命令口調なんて生まれて初めてでしたから、間違ってしまいました・・・抱きしめなさいと言ったつもりだったんです・・・」

「まあ結果的に良かったじゃない。名前も自然に呼べたし、心も体も近づけたみたいだしね」

「・・・はい。でも奥様に申し訳なくて」


「そういえばサンもその『奥様』になるのよね?こういう時どうしたら良いのかしら??」

「い、いえ私はこれからも変わりなく、そうお呼びしたいと思います」

「・・・ねえ、私のこともナナって言ってみてよ。呼び捨てで」

「!!!!!」


ナナの言葉にドサッと畳んだテントを落としたサン。

それは流石に想像もしていなかった。


「ナ・・・ナ・・・無理ですぅ!!」

「いいじゃない!それにサンの方が歳上なんだからその方が自然よ」

「だって・・・でもぉ・・・う、うわぁぁん!!」

「あーごめんごめん!ほら泣かないの!」


困って泣いてしまったサンをぎゅーっと抱きしめながら、やはりサンは14歳くらいじゃないかとナナは感じていた。

寝ぼけたドモンが言っていた通り、屋敷にいる間サンの時は止まっていたのか?


そんなナナも自分の異変に気がつくのは、もっとずっと先のことになる。




「さて朝飯食ったら出発なんだけども・・・正直まるで腹が減っちゃいねぇからどうしたもんかね?」

「確かにまだ腹に肉が溜まってるよ俺も」


ドモンの横で腹を擦るグラ。


「私達は簡単に野菜でも取れれば十分でございます」と長老。

「サラダか。まあ俺らもそうしようかな?長老、俺らの分もある?」

「育てている物の他、食べられる野草なら豊富にございますよ。すぐにご用意いたしますね」

「悪いね。じゃあそれを美味しく食べられるようなものを用意しておくよ」


長老とドモンの会話を聞いて顔を見合わせるゴブリン達。

ただの野菜かと思っていたが、『美味しく食べられる』と聞いて皆飛び跳ねるように森の中へ。特に子供達は張り切っていた。



「えー野菜だけなのー?」


片付けを終えたナナが広場にやってくるなり、エリーからそう聞かされ口を尖らせる。

あれだけ肉を食べたというのに、それでもまだ肉を欲するナナ。


「ねぇ昨日のお肉残ってないの?」

「お前・・・本当にあれ全部食べられたのかもしれないな」

「だから私が全部食べるって言ったじゃないのよ」

「もうないってば・・・んじゃお前のサラダだけ鶏肉入りにしてやるよ」


ドモンがナナにそう言った瞬間、その場に居た全員の視線がドモンに集中。

今度はドモンが口を尖らし、「ヨハン、鍋にお湯沸かしておいて」と言いながら、自分用に買ってあった2kgの冷凍鶏肉を馬車まで取りに行った。

先程片付けた物を持って、ツヤツヤにこにこ顔でついていくサンとナナ。



「今日は忙しくなるから朝から働きたくなかったのに」

「忙しいって長老さん達を連れて行くだけじゃないのよ」

「お土産配ったり荷物整理したり挨拶したりもしなくちゃならないんだよ。さっきもサンに言ったけど、この前帰った時は死んでたんだぞ俺は」

「そうだったわねエヘヘ」


頭を掻くナナに冷凍の鶏肉を持たせる。


「結婚式の準備にサウナ造り。そしてその後王都にも行く。それに俺は隣街の道具屋に行きたいんだよ」


サンに様々なドレッシングを持たせて溜め息を吐くドモン。

やらなければならないことを改めて頭で整理すると、何もかも嫌になって酒を飲んで逃げたくなる。


「あ!」「む?!」


何かを察知したサンとナナが、ドモンの右腕と左腕にガシガシと絡みつき、連行するように広場へ連れて行った。


「ドモンが逃げたら今度は私も逃げちゃうんだから。もう追いかけないわよ?」

「わ、わかってるよ・・・てかなんでわかったんだ??」

「あんたの考えてることなんてもうお見通しなのよ。ね?サン」

「ウフフそうですね」


ズルズルトボトボと引きずられるように歩いていたドモンだったが、その顔は随分と幸せそうに笑っていて、サンとナナもそれに釣られるように笑顔を見せていた。





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