第199話
裸のままごろりとテントに転がるドモン。
のぼせたのと義父と大暴れしたのとで、温泉で疲れを取るはずがすっかり疲れてしまっていた。
それを見たサンがすぐにやってきて、ドモンに服を着せていく。
ナナは温泉に残り、ドモンに無茶をした義父に少しだけ説教。
そのついでにドモンを鍛え直すという話について詳しく聞いた。
「うむ。奴を根本的に鍛え直すという意味もあるが、やはり心配なのだ。彼奴は戦う体が出来ておらん」
「・・・・まあそうね」
「またいつ命を狙われるかもしれぬ。・・・彼奴は自分が死なないと思っておるようだが、此度は完全に殺されておったのだろう?奇跡的に生き返ったとはいえ」
「うん・・・思い出しただけでも寒気がするわ。目の前で家族が燃やされ息絶えるところを見せられたのよ?」
温泉に入っているというのに体が震えるナナ。
「だからせめてなんとか自分の身だけでも守れるようにしてやりたいのだ」
「そうね」
「だが・・・彼奴は強さも持っておる。今回殺されたのは不意打ちのようなものだったのだろう?まともに相対すれば、いい勝負にもなったのではないか?」
「ドモン様の『アレ』ですね」と長老が横から会話に割って入る。ジルはまだ失神したまま長老に抱かれていた。
「そうだ。あの爪だ。まるで身体の中に手を突っ込まれ、心臓を握られているかのような恐怖であった。鋭い剣を突き立てられたとしてもあの様な気持ちにはならぬわ」
「私もたまに寝ぼけたドモンに掴まれて動けなくなるのよ。ギロチンに首を突っ込まれてるような感覚なのよね」とナナはヤレヤレ。
そして皆それが快感だったことは黙っていた。
先に戻ったナナが着替えを終え、義父が運んできた失神したままのジルに服を着せる。
ドモンはまたサンと一緒にグースカと睡眠中。
義父も着替えを終えて一足先に広場へ。
最後に長老がテントに入り、ナナに手伝ってもらいながらドモンから借りたスーツを試着した。
このスーツはいわゆるどこかの国のロイヤルファミリーが公務で着ているようなもので、ゴージャスかつエレガントなものである。
試着をした長老が広場に現れると、ザックが試着した時よりも大きな歓声が上がった。
「うおっ!長老、随分と立派じゃないか!これならば街の者達も皆見直すと思うよ」グラが拍手で迎え入れる。
「これだけの物はなかなかないぞ。それにその装飾品の精巧さと美しさよ。女性の美しさを何倍にも引き立たせておる」義父もウンウンと頷いた。
カールは心臓がバクバクと音を立てている。
ドモンはこの衣装を「カールの奥さんのものだから」と言っていた。
当然現時点ではお金を出せば買えるというものではない、唯一無二の物。
「私はなんと幸運な男なのだ」
ジャックの母親が病に倒れドモンが助けを求めていた時、手を貸したのは正解だったと心の底から思うカール。
恐らくあの時助けをドモンが得られなかったならば、恐らくこの街やこの国、もしくはこの世界を見限っていただろうとカールは考えていた。
「長老さん素敵よ!羨ましいわぁ!」
「いえいえ私はそんな・・・それよりもエリー様の服も購入したとドモン様やナナ様がおっしゃられていましたよ?」
「ウフフ!約束守ってくれたのね!ありがとう楽しみだわぁ~」何故か長老の手を握り感謝するエリー。
試着もせずに買ったエリーの服。
サイズが合わず、全ての服がとてつもなくスケベな感じになってしまうことはまだエリーは知らない。
ドモンは結局サンを抱き枕にして朝まで就寝。
サンは夜中に目が覚めたものの、目の前にドモンの顔があり心臓が止まりそうになった。
悪いことだとは思いつつも、寝ぼけたふりをして何度かキスをしたサンは、その度に天にも昇る気持ち。
気がついた時にはドモンの爪が背中とお尻に食い込んでおり、もう身動きは取れなかった。
これをそっと外すことが出来るのは慣れているナナだけ。
そのナナも寝ぼけてなぜかサンを後ろから抱えるように眠ってしまい、サンの背中から脚までプニプニまみれに。
「じぬぅ~・・・体と頭が溶げぢゃうぅぅ~」
その後、一睡も出来ずに朝を迎えたサン。
天国のような快楽も、度を超えれば地獄だと知り、大人の階段をまたひとつ上った。
ドモンがテントから出るとサンが温泉のそばで裸になって下着と服を洗っていて、ドモンがどうした?と聞く前に「仕方なかったのです。女の人はみんなこうなると思います」とへの字口で答えた。
ドモンも裸になり、出発前の最後の温泉。
「服を干したらお背中流しますねー」とサンが裸で駆けていくのを見つめるドモン。
ナナはテントでまだ寝息を立てている。
戻ってきたサンが「お待たせしましたぁ!あ、少しだけ体を温めても宜しいでしょうか?」とドモンの横にチャポンと入った。
「やっとお家に帰れますね御主人様。ホントは一度帰ってますけれども」
「死体でだろ?」
「御主人様の下の世話もみんなでしたんですよウフフ」
「死んでたのに?」
サンはそれを思い出し笑顔を見せていたが、ドモンにはその心当たりがあり、やっぱりこの世界と繋がりがあるのかなぁと考えていた。
「ゴブリンの皆さん、受け入れられると良いですね」
「まあそれに関してはかなり風向きが良くなってきたと思う。ジジイが一緒だからな」
「あ!なるほど!!王族の方と一緒であれば!!」
「そうそう。俺が言ったって信用はなかなかされないけれど、王族が肩を並べていりゃ認めないわけにもいかないだろ」
パシャパシャとお湯を跳ねさせながら喜ぶサン。
まるで自分の事のように喜ぶ姿にドモンの目も細まる。
「あとサウナのこともあって、帰ったら忙しそうですね御主人様。その後王都の方にも・・・」
「まあそれはそうだけど、忙しいのはサンもだろ」
「私ですか?私は平気ですよ。少しでも力になれるように頑張りますので」
「いやそうじゃなくて」
サンがキョトンとした顔をする。
「結婚式するんだぞ?料理を何にするのかも決めなければならないだろうし、衣装の用意だってあるだろ」
「あ・・・あぁっ!!!!!!!!」
「下手すりゃ来週にでもサンの名前はクレタ・サンだ。ん?サン・クレタだっけ??ナナの時もよくわからなかったんだよなこれ」
「ハッ!ハッ!ハッ!な、名前が・・・ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・」
色々とありすぎて、結婚式のことを完全に忘れてしまっていたサン。
両手で頬を抑え、歓喜に打ち震える。
「ジジイもゴブリン達もいるし、ちゃちゃっと料理決めて明日にでもやっちゃうか?なんちゃって」
「・・・・・」
「ん?どうした?あ・・・一応きちんとプロポーズした方が良かったか・・・ごめんな」
「・・・・・」
ふるふると首を振るサン。言いたいことは山ほどあるというのに、言葉が出ない。代わりに出るのは涙だけ。
「・・・頂いています」
「ん?何を?」
「何度も何度も・・・私はその言葉を頂いています・・・屋敷から連れ出してくれた時も、命がけで助けてくれた日も、亡くなってからも、戻ってきてからも、私の宝物を渡してくれた時も!!」
「そっか」
「お慕いしてます!大好きです!愛してる!・・・・・ドモンさん!!」
わあああ!!と泣きながら抱きついたサンを抱きしめ返しながら、「俺も好きだぞサン。結婚しよう」と返事をすると、泣き声はよりいっそう大きくなった。
その様子をテントの中からニコニコとナナが見つめていた。