第198話
「ほう、サウナとはそういった物であったか」
「うんそうなんだよ」
二十分以上こってりとドモンは絞られ、女性陣は皆のぼせてしまい、一度テントへと避難して談笑しつつ水分補給。
ドモンと義父は温泉の縁へと腰掛け、足湯のような形で温泉を楽しみながら語っていた。
「フフ見てあれ。本当に親子みたいね」ナナが二人の背中を見ながら笑う。
「カルロス様と一緒にいらっしゃる時よりも仲良くされているように見えます」とサンも同意。
「おふたりはとても似ておられるのですよ。血は繋がっておられなくても、魂の繋がりがあると申しましょうか」
長老の言葉に頷く女性達。
女好きで浮気性。自分の事は棚に上げがちで他人に説教をし、自分には甘い。
勘も鋭く、達観した目を持っている。それでいてやんちゃなところもある。
お互いに女を泣かせておいて、「女を泣かせるのは最低だ」と説教しあっていた。
「ホントだわ!ふたりともおっきいおっぱい大好きだし!そっくりね!」
ナナが笑いながらそう言った瞬間、離れていて声は聞こえていないはずなのに、ドモンと義父が同時に振り向く。
「実は御主人様に王族の血が流れているとかあるのかなぁ?」とジル。
「ドモンに限ってはそんな事ないわよ。あったとしても悪魔の血ね。いい悪魔だけど!ウフフ」
「・・・・・・」
ナナの言葉に黙ってドモンの背中を見つめる長老。
そんなドモンは身振り手振りで必死になってサウナの説明をしている。
「こう階段のように座るところが二段になっていてよ、上の方がずっと熱いんだよ。だけど俺なんか根性があるから平気な顔で上の段に座るけど、ジジイみたいな見掛け倒しが下の段に座ってヒイヒイ言いながら、五分で外に出てぶっ倒れてるんだ」
「どっちが根性なしだ!たわけが!」
やんややんやとサウナの説明はまだ続く。
「そしてケーコの・・・向こうの世界の俺の女の弟が『熱波師』ってのやってんだよ。タオルで熱い風を浴びせる仕事なんだ」
「ふむ。そういった職人が居るのだな?」
「そう。そいつはエレガントなんちゃらって変な名前で、サウナ好きの中では結構有名人らしい。めちゃくちゃ熱くて気持ちのいい風を送ってくれると評判だ」
「フフフ、面白そうではないか」
ドモンの話で、義父はもうサウナに入る気満々である。
「明日からそのサウナとやらを屋敷で作り始めるとして、いつ完成するのだ?」
「ん?何言ってんだよ??俺だって疲れてるんだから、しばらくはゆっくりさせてもらうつもりだよ」
「で、二~三日で完成するのか?街中の大工を呼び寄せればもっと早く出来るであろう」
「まだ作らねぇって言ってんだろ!明日はゴブリン達が街に行くし、それどころじゃねぇだろうに!」
突然ワガママを言い出す義父に怒るドモン。
今回ばかりはドモンの方が正論である。
ゴブリン達を街へと派手に迎え入れて、街の人達に危険はないと認知させ、街を案内したり屋敷か店で寛いでもらおうとドモンは考えていた。
「工事の指示ぐらいはゴブリン達を迎え入れながらも出来るであろうが!無能のバカ息子が!」
「なんだとこのイカレジジイ!!」
突如始まった取っ組み合いの大喧嘩。
しかしドモンが勝てるはずもなく、掴まれ温泉に沈められ、馬乗りになられ酷い目に。
「奥様!御主人様が大変です!」サンが裸でテントを飛び出し、「大変!!」とナナ達も一緒に飛び出す。
が、すぐに「ぐはぁ!やめろ分かった!降参だ!!」という義父の声が聞こえ、女性陣が到着した頃には義父の方がぐったりしていた。
「なんということをするのだ貴様は・・・」
「そ、そんなデッカイもんブラブラぶら下げてるからだろ」
股間を押さえる義父の姿を見て、大体の状況を把握した女性陣。
「ふたりとも何をやっているのよ仕方ないわね」とちゃぽんと温泉に浸かり、ドモンの顔を拭くナナとサン。
サウナの件で揉めていたと知り「明日は流石に無理よおじいちゃん。それにドモンの火傷もまだ完全に癒えたわけじゃないから、休ませてあげないとね」とナナが義父を諭した。
また和やかなムードとなった温泉。
その中で義父と長老だけがドモンの底知れぬ力を感じていた。
「ド、ドモン様・・・本気で掴んだりは・・・」
「してねぇよ。軽く爪を立てただけだ」
長老は一度ドモンにそれを食らっている。
爪が食い込み、もう身動きも取ることが出来ない。
一瞬にしてドモンの餌となる恐怖と快感。
ナナやサンは『ドモンの爪は鋭くて怖い』というだけの印象。
その奥にあるものまでは感じ取ってはいなかった。
義父は情けなくも、自身の股間でそれを感じ取った。
死への恐怖。破滅と快感。何もかもすべてが終わる。
生かすか殺すかはドモンの気分次第なのだと。
ハァハァと肩で息をする義父。
ジルはふらふらとドモンの前へ裸で立ち、抱きついて懇願する。
なぜかこんなになってしまった義父が羨ましくて、我慢が出来なくなってしまったのだ。
ドモンの爪の跡を体に刻まれたい。その衝動が止まらない。
「御主人様、私にもしてください・・・」
「突然何を言い出すのよあんた!」慌てるナナ。
「ち、違います!そういう意味ではなくて!!・・・私も体を鷲掴みにしてもらいたかっただけです」
「危険ですよ!」「止めた方がよい」
長老と義父が同時に止めたが、その瞬間ドモンの右手がすっと伸びてジルのお尻を掴んだ。
「え・・????」
「ドモンやめて!やめたげて!!」
「御主人様、ゆっくり・・・ゆ~っくりと放してください・・・ね?サンにしてもいいですから」
自分の体に何が起きたのかを把握できないまま、目玉がくるんとひっくり返り、ジルは白目を剥いて温泉に沈んでいった。
たとえ腕を斬り落とされようが戦い続けることが出来ると自負していた義父が一瞬で白旗を上げ、強い精神力を持つ長老ですらすぐに我を忘れてしまったほどの力。
ただのゴブリンには当然耐えられるはずもない。
ドモンは両手で顔を隠し、ハァハァと息をしながらフラフラとテントへと戻っていく。
手の隙間から見えたその目は、真っ赤に染まっていた。