表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/786

第193話

米の炊きあがりとうどんの茹で上がりを待つ間、長老へ挨拶をしてくると義父が席を立った。


「ジジイ、わかってるとは思うけど失礼のないようにな」

「・・・わかっておる」


今までどんな目にあったのかなどはドモンから聞いていた。

その責任も感じており、義父は神妙な顔つき。


場合によっては法を整備し直さなければならない。


ただしそれもこのゴブリンの長老との会談による。

立場上それに値するかどうかの判断も、情に流されることなく冷静に下さねばならないのだ。



「ゴブリンの長老よ・・・改めて挨拶をしたいのだが」義父が入り口の布をくぐり、長老の家の中へ。

「ハゥゥ!!・・・え?あぁぁ!!み、見ないで下さいませっ!!」「きゃああ!!」「ああ!!」


洗浄機体験中の長老が思わずしゃがみ込み、ジルとサンも驚きの声を上げた。


「す、すまぬ!は、はっきりとは見ておらん故に安心してくだされ!」

「と、とにかく中へ入って閉めてくださいまし・・・」

「ああ」


後ろ手で慌ててさっと布を閉じた義父。

視線は斜め下に向け、目は伏せたまま。


「その・・・挨拶とドモンが世話になった礼を兼ねてだな・・・覗きに来たわけでは・・・いや言い訳は無用だ。突然勝手に押しかけ申し訳ない」

「いえ、それは疑ってはおりません。こちらこそはしたないところをお見せいたしまして、大変に失礼いたしました」


義父と長老が挨拶している間にそそくさと下着を穿くサンとジル。

「席を外します。何か御用があればお呼び付け下さいませ」とサンが頭を下げ、ジルを連れてドモン達の元へと戻っていった。



チラリと長老を見た義父が「そなたも下着を着けてくだされ」とまた目をそらしたが、長老は「私は構いません。もうこの歳ですし、それに・・・ただのゴブリンなのですから」と微笑んだ。


「いやいやそなたはまだ若い。それに色気も十分過ぎるほどあり、私も冷静でいられる気がしないのだ」

「まあ!お世辞がお上手なのですね」

「ほ、本心であるぞ・・・」


義父の腕に手を添え、上目遣いで長老が顔を覗き込む。

女性特有の甘い香りが義父の鼻をくすぐり、大きくそれを吸い込んでフゥと息をひとつ吐いた。


まだまともに挨拶も済ませていない。

済ませてはいないが、義父の覚悟はもう決まった。


ドモンの言うとおりであった。この者達を守らねばならぬと。



「えぇ?!王族の御方でございましたか!これは大変失礼いたしました!」



その場で正座をし、三つ指を立て頭を下げる長老。


「お、おやめくだされ!こんなところをドモンなぞに見られてしまえば、私がどやされてしまうからな」

「ドモン様とはどのようなご関係で?」

「娘婿が領主のカルロスであり、その友人として紹介され・・・いや、これも正直に話せばなるまい。私ははじめドモンを討伐しに参ったのだ」

「そうでございましたか・・・」


義父の言葉に正座をしたまま、悲しそうな顔を見せた長老。

その長老の前に片膝を付き「それは私の間違いだったのだ」と長老の肩に義父は手をかけた。


「彼奴の貴族への取り入り方に異常を感じ、私の家族が洗脳されていると思ったのだ。まるで悪魔か何かに・・・」

「・・・・」

「心配なさるな。私はそこでドモンにコテンパンにやられましてな。まあ今となっては恥ずかしい限りだが、すっかり惚れ込んでしまい、もう一人息子が増えたと思っておるくらいなのだ。もう悪魔だろうがなんだろうが関係ないわハッハッハ」

「まあ!お心が広いのでございますね」


「だから勝手に俺を息子にすんなエロジジイが。また鼻の下を伸ばしてみっともない」

「うおっ!」


ドモンに後ろから突然声をかけられ驚く義父と長老。


「ド、ドモン様!王族の御方にそのような口を聞いては・・・」焦る長老。

「ハッハッハ良いのだ。バカ息子が今更まともな口を聞いては、この綺麗な月も驚き空から落ちてしまうのでな」

「まあ・・・」


年の功とも言えるなんとも素敵な表現にうっとりする長老と、明らかに良いところを見せようとしている義父に舌を出すドモン。


「飯出来たぞふたりとも。長老はパンツ穿いて、ジジイは伸ばした鼻の下を元に戻してさっさと来い」


下着を穿いて着衣を直した長老に、ごく自然に腕を差し出す紳士な義父。

長老もそれにすぐに気が付き、腕を絡ませた。


「あーあ、こりゃジジイと俺が親子どころか兄弟になっちまいそうだな」

「む?どういう意味だ?」

「・・・・」


しばしの間。


「ド、ドモン、まさか貴様、ナナやサンが居るというのにもう・・・」

「わ、私がドモン様にお情けを頂いたのでございます!ドモン様をお責めにならないでくださいまし・・・」


ハァとため息をつきながら頭を抱える義父。

自分の事は棚に上げてもう一度「このバカ息子が・・・」と苦笑した。

実は本当に自分の息子なのではないだろうか?と思えてしまったためだ。


「まあ飯ついでにあのキノコでもふたりで食って、一緒に温泉にでもしっぽりと入ってこいよ」

「よ、宜しいのですか?ドモン様」

「良いんじゃないか?それでジジイの嫁にでもしてもらえ。俺よりも早く世界をひっくり返せるぜ?王族がゴブリンの嫁を貰ったらな。イヒヒ」

「こ、これ!」「そ、そんな滅相もございません!」


ドモンの言葉に驚く義父と長老。

もちろんドモンの冗談であるということはわかってはいたが、少しだけそれはいい案かもしれないと義父は思った。

長老は恐縮しきり。


「ですがいつか・・・百年後、いえ千年後にでもそのようなことがあれば・・・私は・・・私達は、うぅぅぅ・・・」

「だとよ?ジジイ」

「うむ」


ドモンの言葉にまた長老は未来を見出し、涙を流す。

義父は長老と一緒に歩きながら、王や皆にどう説得をしたら良いのかをただただ思案していた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

cont_access.php?citi_cont_id=985620636&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ