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第191話

ドモンは小さな頃何匹かのひよこを貰い、家の物置で餌をやり育てていた。

嵐の日にはひよこ達が不安な夜を過ごしてるのではないかと、毛布を持って駆けつけ一緒に眠る。


そんなひよこ達もやがてニワトリになった。


ドモンの目覚まし時計はニワトリ達の鳴き声。

祖母が朝ごはんの準備をしている時にニワトリ達に餌をやり、「いってきま~す」と鳥達に手を振り出かける。



晩御飯にからあげを食べた翌日、ドモンの目覚まし時計達は鳴き声をあげなかった。ニワトリ達の餌を持ち、物置で呆然と立ち尽くすドモン。



そんなドモンに一緒に住んでいた従兄が「昨日食べただろ。おじいちゃんが昨日鶏の首を鎌でハネてたぞ。バッタバタ羽根広げて暴れて、ドモン助けて!って言ってるみたいだったよアハハ」と笑った。


ドモンは自分がひよこを貰ってこなければ、もしかしたら殺されることはなかったのではないかと考え、何日も泣いた。




ある日ドモンは水たまりにカエルの卵を発見する。

こんなところではすぐに干上がってしまうと、慌てて掬い上げて水槽に入れて庭に置いた。

卵はやがてかえり、おたまじゃくしとなる。


そのたくさんのおたまじゃくし達がカエルになって、いつか旅立っていくことを夢見るドモン。

が、ある雨の日、学校から帰るとおたまじゃくし達は全て死んでいた。


水槽の蓋が網になっており、外に置いていたために水量が増してしまい、水が上までパンパンに張られてしまった。

おたまじゃくし達はもう足が生えたカエルになりかけで、水から上がり呼吸をしなければならなかったのだ。


ドモンはきっちりと蓋をして学校へ行ったため、全てが窒息死。少し蓋を開けていればと、後悔の嵐。


ドモンは泣いて、カエル達がどれだけ苦しんだのかを想像し、湯船に水をパンパンに張って潜り、自ら蓋をした。

当時は薪風呂で、蓋も木で出来た重い物。


ドモンは同じ目にあって死のうと思ったのだ。


だがドモンは死なない。

肺に溜まるほど水を飲み込んでも、もう自力で出ることが出来なくなっても死なない。


もしくは死んでまた戻ってきていたのか?



その頃からドモンは、自分のせいで誰かが苦しんでいたり死んだりするのが苦手だった。

誰かが傷つくくらいなら自分が傷つけばいい。


だからドモンはいつも言う。「やられたのが俺で良かった」と。



そんな話をしたドモンに「ドモン、それとこれとは訳が違うのよ?」とナナが説得するも、ドモンは頑なに拒む。

ドモンはたとえそれが罪人であっても、自分が関わったとなると、それがドモンの痛みとなる。


「獣を捌いた時にドモンが嫌がったのもそういう事だったのか」

「まあそんなとこだ。命を頂くってことはそういうことだとはわかってるんだけどさ・・・正直今日の今日まで忘れてたんだけどね、ニワトリのことは。カエルは今でもはっきりと覚えてたけどなぁ・・・」


グラにドモンが答えながら、タバコに火をつけ頭をかく。

実のところドモンは『もっと酷い経験』があったが、トラウマだけを残し記憶から消し去っている。


「ふん!くだらぬな。貴様の甘いその判断で、また新たな犯罪者や犠牲者が生まれるやもしれぬぞ?」

「それはそうかもしれないけど、頼むよジジイ。また美味いもの食わせるからさ」

「貴様がそこまで言うならば、まあ同じ目に合わせようというのだけはやめてやろう。ただし罪は償わせるがな」

「悪いな。じゃあジジイには米を炊いてやろう!ゴブリンのみんなの分まではないけど、同じくらい美味い麺料理作るから許してくれよな」


嬉しそうにドモンは馬車へ米を取りに行く。



「・・・本当にそれで宜しいのですか?」とカールが神妙な顔。

「仕方あるまい。ただ・・・あのゴミ共も死んでおけば良かったと後悔はするであろうがな」と低く小さな声で義父は答えた。


後に犯人達は地下牢へと閉じ込められ、陽の光を二度と浴びることなく一生を終えることとなった。

繰り返される拷問に「もう殺してください」と嘆願し続ける毎日。

寝る時はロッカーのような箱に閉じ込められ、無理矢理立ったまま眠らされる。食事も立ったままで、一日で座れるのは唯一拷問を受ける時のみ。


犯人達の家族も国外追放となり、二度とこの国の地を踏むことはなかった。




「そういや貴様の国の米は美味いものだな。噂通りであったわ」と、せっせと米を炊く準備をしているドモンに話しかけた義父。

「え?なんだよ!屋敷にあった米食っちまったのかよ!」口を尖らすドモン。


「まあ全部食ってないなら少しくらい良いけどよ。魚で飯を食べるのをエリーも楽しみにしているんだから」

「む?そ、そうであったか・・・」

「本当に楽しみだわぁ!ずっと前に一度食べたきりだし、もう何度も夢を見ていたくらいだもの。ウフフ」

「ド、ドモンよ・・・ちょっと来い・・・」


ドモンとエリーの言葉に額から汗を一気に吹き出した義父。

まさかエリーが楽しみにしていただなんて全く思わず、全てを消費してしまった事を今更ながら後悔した。


「助けろドモンよ・・・」

「何がだよ」

「屋敷にあった魚をだな・・・全て食べてしまったのだ」

「な、なんだってぇぇ!!!」


ドモンの叫び声に全員が振り向く。

不思議そうな顔をして振り向いたエリーと目があった義父が、気まずそうに下を向いた。


「金ならいくらでも出そう。なんとかしてもらえぬか?」

「無理だよ。素直に謝ってこい。っていうか俺にも謝れよ!開けるなって書いていただろ」

「貴様の物は私の物のようなものだろう」


「エリー、ジジイから話があるって。なんとも残念なお知らせだ」

「こ、これ!!」


義父の態度を見てあっさりと見捨てたドモン。


「あーエリー殿・・・そのだな・・・」

「いかがなされたのですか?」

「その~・・・大変申し訳無い!ドモンが買ってきた魚を全て食してしまったのだ!私と屋敷の者達や子供達とで」

「え・・・」


子供を引き合いに出して、なんとか罪を少しでも軽くしようとする義父の交渉術をドモンが鼻で笑う。


「どうしてぇ・・・?」


ポロポロと涙をこぼすエリー。

これはドモンにも想定外で、そこまで楽しみにしていたのかと驚いた。


「ど、どうしてそんな事をしたのよおじいちゃん・・・酷いじゃない!私も楽しみにしてたのに!」ナナが真っ赤な顔で怒り出す。

ヨハンが「これエリー!ナナ!立場というものを弁えなさい!」と怒ったことで、義父はますます立場を悪くした。


義父はチラリとカールとグラの方を向き、さり気なく助けを求めたが、そのカールとグラも魚を楽しみにしていたため、ジトっとした目で軽く睨み返し、そそくさと何処かへ行ってしまう。


「ううううぅ・・・が、我慢するわヨハン。私が我慢すればいいの~!うう~」胸に飛び込んで涙するエリーを抱きしめるヨハン。

「やや・・・これは困った・・・」オロオロするだけの義父。


「女を泣かせるなんて最低だなジジイ」自分の事は棚に上げるドモン。

「いやはや、まさかこんな事になるとは思っていなかったのだ」

「反省したか?」

「大変申し訳無い」と義父は深々と皆に頭を下げた。


それを見届けてからドモンは馬車に戻り、立派なホッケの開きをひとつ持って戻ってきた。


「あるよエリー。こんな事もあるかと思って、今回たっぷり買ってきたんだ」

「うぅドモンさん!」「ドモン!!」


エリーと一緒にナナも大喜び。

義父はへなへなと崩れ落ち、地面に片膝をついた。


「大体、エリーの好きな物とか前に来た時に聞いてたんだろ?」

「あの鶏団子の鍋と焼いた魚だったな・・・本当にすまぬ。自分の事しか考えていなかったのだ」

「女のことを泣かせるわ存在忘れるわって、もう男として最低だぞクソジジイ。よく反省して、もう二度と俺の前で偉そうな口を・・・」

「うわぁぁぁぁん!!!うぅーー!!」



長老の家から響くサンの泣き声。

義父に向かって説教をしていたドモンであったが、サンを長老の家に寝かせていたことをすっかり忘れていたのだった。





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