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第190話

「なんと!!大風呂と言っておったが、これ程のものなのか!」


屋敷の風呂を見て思わず声を上げた義父。


「7~8人が同時に楽しむことが可能でございます。騎士達は十人以上で仲良く語り合いながら楽しんだようですが」

「それ故に騎士達用の風呂も別棟に作っておるのですよ。これよりも更に大きな『大浴場』というものを」


一緒について来た貴族達がまた自慢するように説明。

王宮にも当然こんな物はなく、義父は驚愕していたが、立場上必死にそれを隠し平静を装っていた。


「・・・なるほど、以前彼奴が話しておった例の温泉宿の原型というわけか。では早速入ってみるぞ。貴様達も一緒に入るが良い」

「わ、私達もご相反に預かっても??」

「ドモンがそのようにして楽しめと言っておったのだろう?ならばまずは試さねばならぬ」

「は、はい・・・では失礼して」


脱衣所で堂々と裸になり、年齢に全く似合わない筋骨隆々で立派な体を晒すカールの義父。

ドモンが見れば泣きながら逃げていくほどの何かを悠然とブラブラとさせながら、すぐに浴室内へ。

誘われた貴族ふたりも大慌てで服を脱ぎ、浴室へと飛び込んだ。


「これがドモンが作った湯沸かしか・・・」

「はい。少しぬるくなっているようなので早速火を入れてみましょうか」


カチリと火をつけ貴族はまた得意げな顔。

カールの時と同じ様に義父がお湯の出口に手を当て、「むぅ・・・!」と声を出した。


「こちらの桶で湯を浴びてから湯船の中にお入りください。それがマナーだとドモン殿が言っておりまして」

「うむ。皆で入るのだから綺麗にしろというのだな」

「はい」


ザバザバと湯を肩からかける義父。

もうこの時点で心地良い。


「くふぅ・・・」


躊躇なくお湯に身を沈めた義父は、目を瞑り、声を漏らす。

普段体を洗うためだけに入っていた風呂とはまるで違う心地良さに驚きを隠せない。


「体がほぐれ・・・疲れが抜けていくようだ・・・」義父はずっと目を瞑ったまま。

「確かに・・・ふぅ」

「これに先程申してましたサウナとやらをドモン殿が作るようでして。それはまた格別だと言っておりました」


そして貴族達がサウナの説明をするも、本人達もいまいちよくわかっておらず、「まあそれは直接本人に聞いてみよう」とニヤリと笑った。


「今はまずドモン殿が開発した給湯器という、蛇口から湯が出る機械を取り付ける準備をしております」

「なんだと?!」

「体を洗うのにも便利ですが、冬場はこれから色々と楽になるでしょうな」

「あの者の頭は一体どうなっておるのだ・・・」


貴族達の話を聞き、義父は早くドモンに会いたくなった。

会って文句を言ってやりたい。

勝手に自分達だけで楽しみおって・・・と。



義父達は昼過ぎに出発。

ナナ達が向かったゴブリンの村まで、場所を知っている騎士に先導をさせる。


風呂に入っていて出発が遅れたことと、もうかなり日が落ちるのも早くなってきたということもあり、途中で夜になってしまった。

しかし王都で取り付けた特製のライトを取り付けているため、夜道も怖くはない。

なんとしても今日中に会おうと、止まらずにぐんぐんと進んだ。


ゴブリンの村へ入る目印を見つけた騎士が「ここです!こちらの森の中へどうぞ」と、ファルが運転する馬車を脇道に誘導。

馬車の窓から遠くに明かりを見つけ、義父の心臓は高鳴る。


ぎゃあぎゃあと騒がしく喧嘩をしているドモンとナナの声が耳に入った瞬間、義父は皆の制止を振り切り、もう走り出していた。



心配をかけさせ、ここまで王族である自分の足を運ばせ、文句の一つも言ってやらねばあるまい。

いや、叱ってやる。平手打ちの一発や二発は覚悟しておけ!と。


命がけで救い出しただと?ふざけるのも大概にしろ!

これだけ世界を変える力を持つものが、命をかけるなど言語道断。

そんなものは騎士の役目であろう。馬鹿者めが!!


次々とドモンへの不満が湧き出す義父。


ドモンが面倒臭そうな顔で、への字口になっているのが見えた。

義父の怒りはどんどんと増す。

どんどんと増し、早足になり、ドモンの目の前に立った瞬間出た言葉がこれだった。


『よくぞ・・・よくぞ戻った我が息子よ』


義父は自分でもなぜこうなったのかよくわからない。

わからないが、それでいいと思い、思わず涙が溢れ出た。

だがやはり言いたいこともある。



「殺されただなどと・・・何をやっておるのだこの馬鹿者が!!」と義父がドモンの両肩を掴み、前後に揺する。

「たまたま、またちょっと死んだだけだって。よくあるよくある」とドモン。


「ないわ!!」

「ないわよぉ!」

「よくあってたまるかそんなもの!」


ナナとエリーとカールが一斉に否定し、周りの者達も改めて呆れる。

それも「また」とドモンは言った。

それを聞いた義父が、大きなため息をひとつ吐く。


「命を粗末に扱うでない。貴様はそうなのかもしれんが、普通はあり得ないことなのだ。それで全てが終わりになるのだぞ?」

「何言ってんだよ。はじめは俺を討伐しに来たくせに」

「まだそれを言うか!このわからず屋のバカ息子が!」

「息子じゃねぇってさっきから言ってるし、どっちみち俺は死なねぇの!」


ドモンに命の大切さを語る義父だったが、暖簾に腕押し、ぬかに釘。


「そんなに命は大切だって言うなら、俺を燃やした奴らは助けてやってくれよ」

「!!!!!」


「また始まったわ!!このバカ・・・」とナナが頭を抱える。

「ドモンよ・・・ハァ・・・」グラもため息を吐く。


ナナとグラは、ドモンがどれだけ苦しみ抜いて死んでいったかを目の前で見ていた。

到底犯人達を許せるはずもない。


「いや無罪放免で放り出せとまでは言わないよ。ただ、俺と同じ目に合わせるような真似だけはするな」

「・・・・」

「苦しむのは俺だけで十分だ」

「ならぬ」


義父やカールは、ドモンがそう言い出すのではないかと心の何処かで予感していた。


「なあ頼むよジジイ。そりゃ俺じゃなくナナが燃やされて死んだってんなら少しは考えるよ。でも俺はいいんだ。こうして元に戻ることが出来るしな」

「ドモンさんだって同じよぅ!もっと自分を大切にして!」と怒るエリー。


「俺に関わった誰かが死んでいくのを見るのはもう懲り懲りなんだよ。くだらないと思われるかもしれないけれど」


ドモンは他人に対する痛みに敏感であり、自分に対してはとことん鈍感である。

というより、他人が痛み苦しむくらいなら、自分が身代わりになれるならなりたいといつも思いながら育ってきた。



皆にそう説明している最中にドモンは何かを思い出し、それをゆっくりと語りだした。





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