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第189話

「む?カール、なんか面倒臭そうなのが来たぞ?」とドモンは訝しげな顔。


夜道を煌々とライトで照らしながら、派手な馬車がゴブリンの村へと到着した。


「お待ち下さい危険です!」

「ワシが確認してきますから待ってくだせぇ!」

「うるさい!!」


何名か聞き覚えのある声。

派手な衣装を着た爺さんがズカズカと歩いてドモンの元へと近づく。

予想通り、カールの義父だった。


「な、なぜこんなところに?!」とカールは当然驚いた。

「なぜだと?貴様・・・」義父は怒り心頭。ゴブリン達を含む他の皆は唖然としている。


義父はハァと一度大きなため息をつき、ドモンを抱きしめた。


「よくぞ・・・よくぞ戻った我が息子よ」

「いや息子じゃねぇから!何だよ気色悪いなジジィ!突然来たと思ったら・・・」


ドモンは悪態をついたが、義父はそれでも涙を浮かべていた。




ドモンが死んだと一報を聞いた時、カールは騎士を殴ったが、義父はその騎士をその場で処刑しようとし、周りの人間に止められた。

そして怒りの矛先はカールへと向かっていた。


犯人や奴隷商等の処遇は他の者に任せ、大至急ファルを呼び寄せて、部隊長を含む護衛を数名引き連れ王都を出発。

途中すれ違った護送中の犯人達に「楽に死ねると思うな。貴様らの家族もだ。目の前で泣き叫びながら息絶えるお前達の家族の顔を想像しながら、ゆっくりと王都に向かうがよい」と捨て台詞を吐き、震え上がらせた。



「そんなはずはねぇ。ドモンはそう簡単にくたばるような男じゃないはずです」と御者台のファル。

「当然だ。疑う余地もないわ」と義父が窓越しに答えた。


「ですがナスカ・・・ナナや、ヨハンやエリーが心配でして・・・」

「・・・カルロスめ・・・あのような連中を野放しにしておるとは・・・」


一緒に馬車に乗る部隊長も苦々しい顔をしていたが、流石にそれは気の毒だと感じていた。


なにせ奴隷商達が暗躍していたのは王都内であったと予測されたためだ。

下手をすれば自分達も責任追及されかねない。そう思い、冷や汗を流していた。



カールの領地まであと一日半というところで、一行は空から鳴り響く奇妙な鐘の音を聞いた。


完全に勘ではあるが、義父はその気配を感じ取る。

この禍々しい空の色に恐ろしい鐘の音。


「な、何なのでしょう?これは一体・・・」焦る部隊長。

「帰ってきたのだあの男が。恐らくではあるがな」そう言いながら冷蔵庫からワインを取り出し、グラスに注ぐ義父。


その手は震えている。恐怖なのか歓喜なのかはわからない。

義父はただ、あのカードをめくった時と同じ気持ちだと考えていた。


『きっとそうなるのだろう』と思いながら、信じられない気持ちと何故かそれを期待する気持ちに心が震える。



数時間後、馬に乗った騎士が伝令を伝える。

「しょ、詳細はわかりかねますが、恐らくはドモン様が蘇り・・・お戻りになられたとのことで、カルロス様はそのお迎えにご出立なされました!」

「そうであるか。では王宮の方にも伝えよ」

「はっ!!」


去っていく騎士を見ながら、フゥと全員が深い息をつく。


「もう急ぐことはあるまい。今晩はここらで休み、明日の早朝屋敷の方へと参ろう」

「は、はい!ではそ、そちらの草むらに馬車を・・・うぅ」


義父の言葉に返事をしたファルだったが、急に涙が溢れてしまい言葉が詰まる。

義父は用を足してくると草むらの奥に入り、しばらくした後、目を腫らし戻ってきた。



全員ほとんど眠れずに過ごした夜が明け、空が白みがかった頃に再出発。

早朝ではなかったものの、皆が働き始める時間に義父達はカールの屋敷へ到着。

ナナ達と顔を合わせようとしていたが、ちょうど入れ替わるように出発していたので断念。


屋敷の中は残った貴族達や騎士達、使用人である侍女達が大忙しで右へ左へと動いていた。

義父の顔を見て皆驚いていたが、今はそれどころではないと挨拶もそこそこに走り去っていく。

そんな義父の元へ子供達がやってきた。


「もう泣くんじゃないわよ、だらしないわね」

「うぅぅぅ・・・」

「大体カルロスがいけないのよ。ドモンもドモンよ!帰ってきたらとっちめてやるんだから」

「ドモンさんは命を捨ててまでサンドラを救ったんだ。グス。悪く言わないであげてよ・・・うぅぅ」


男の子達は泣きながら、女の子達は怒りながら義父の元へ。

本来であればしっかりとした挨拶をしなければならないはずだけれども、この時ばかりは仕方ないと義父も皆を許した。



「ほう、ドモンが買った物が冷蔵庫に保管されておるのか」

「はい!戻るまで開けるなとドモン様のメモが付いておりまして、まだ中身は見ておりませんが」


義父達が遅めの朝食を取るということで、慌てて義父が寛いでいる部屋へとやってきたコック長がドモンの荷物の話をした。


「どれ、案内せい」

「え?あ、あの・・・」

「早くしろ!」

「は、はい!」


子供達も顔を見合わせ、まさかという顔。

コック長は青褪めている。


「フッフッフこれか。どれどれ・・・」

「さ、流石にドモン様にお断りをしなければまずいかと・・・存じ・・・上げます」

「ふん!息子の物を父親が確認して何が悪い。黙っておれ」

「あーあ、私知らな~い・・・」


俯くコック長と呆れる女の子。


「これは随分立派な魚であるな」

「新型馬車のお陰で海のものを内陸まで新鮮なまま運べるようになり、その内一般の食卓にも上がることでしょう。まずは王都の方が優先されるかと思いますが」


「では一足早くこれを焼いて試食することにする。その内出回るのであれば、これは今食べてしまっても良かろう」

「え・・・えぇ?!」


なんと余計なことを言ってしまったのかとコック長が頭を抱える。


「絶対にドモンは怒ると思います・・・」とカールの息子。孫として忠告だけはしておいた。

「食べ物の恨みは恐ろしいと言いますよ?特にドモンの恨みは」と女の子も一緒に忠告した。


義父はドモンが「てめぇこのクソジジイ!」と怒っているのを頭で想像し、クックックと笑みを漏らす。

それもまた面白いとやはりこの魚を食べることにした。



義父と部隊長が一匹ずつ、子供らは全員で一匹、噂を聞きつけた貴族達が皆で四匹。全部で七匹。

なんとドモンが買ってきたホッケの残りを全て消費する暴挙。

一緒に荷物の中にあった米や醤油も用意し、義父以外は皆もうどうにでもなれとバクバクと食べ始めた。


「くはは!!これはドモンなぞには勿体ない!私が食して正解だ!」一口食べるなり義父は高笑い。

「こ、これが将来一般家庭にも出回るというのか・・・信じられん。とてもじゃないが・・・」部隊長のフォークが思わず止まる。


「これもまたドモン殿の功績であるな」

「新型馬車に無限の可能性が感じられるな・・・」

「世界は変わるであろうな。その価値観も全てが」


貴族達が競うように頬張りながら語り合う。

「彼奴を息子にすると言った私の心情も理解できるであろう。それだけの価値があるのだ」と義父も鼻高々。


「功績と言えば、屋敷の風呂の方もドモン殿が改造したのですよ。まだサウナとやらは出来てはおりませんが」

「風呂だと?」

「湯沸かし器というものを付けた大風呂でございます。皆で一緒に入って語り合うもよし、ひとりで贅沢に楽しむのもよしで。フフフ」

「あれは最高よ!ドモンが戻ったら女性専用のお風呂も作って貰う予定なのです」

「なんと・・!!」


貴族達の風呂自慢に女の子も乗っかる。

一日に何度も風呂に入る者も現れ、脱衣所にはすぐに飲み物が飲めるように冷蔵庫も置かれる始末。


「その新しい風呂も今すぐに準備せい。彼奴め、次から次へと・・・フフフ」


魚と米をムシャムシャと食べながら、ニヤリと笑う義父。

ドモンの一大事だと王都を飛び出した時の心情と今の心情の違いに、更に笑いがこみ上げてきた。





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