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第188話

大きな鍋三つに水を入れ、それぞれを火にかける。

湯が沸くまでしばしの休憩。


「そういえばドモン、向こうの温泉でこちらの温泉の設計を考えておったというのは本当の話なのか?」とカール。

「ああ、冗談じゃなくそれは本当に考えていた。向こうに似たような温泉宿があって、かなり参考になると思うんだ。長老もちょっとこっちに来てくれるか?」


タバコに火をつけながら薪に使う予定の枝をひとつ掴み、地面に大体の予定を書いていくドモン。


「男湯をふたつ、女湯をふたつにして真ん中に壁を置く。一応周りから覗かれないように全体を囲ってからな」

「ふむ」


「そのそれぞれふたつの内のひとつの温泉を内湯、つまり建物の中に置く形にする。屋敷の風呂みたいな感じだな。洗い場や脱衣所も作ってさ」

「更に外と内と分けるというわけか?」とグラもドモンの描いた絵を覗き込む。


「そうそう。その内湯から外に行くドアを作って出られるようにすればいい。露天風呂はこちらってドアに書いてさ」

「なるほど。そうなると、まずは入り口の時点で男と女を分けるのだな?」


カールがウンウンと頷き、長老はドモンの説明に目を輝かせる。そしてゴブリン達も。

ドモンが言う温泉宿の全容が見え始め、皆大興奮。


「で、だ。その露天風呂から壁をちょっと迷路のように入り組ませて道を作り、一番大きな真ん中の温泉に繋ぐんだ。そしてそれを混浴とするつもりだ」

「そ、そんな事は可能なのか?!」とカールが驚く。

「まあ案外平気なもんだよ兄さん。それに女も嫌なら混浴に来なきゃいい話だ」経験者のグラが得意げに説明した。


「向こうの温泉がそんな感じの混浴だったんだ」


そうドモンが説明した瞬間、ナナがドモンを睨みつけた。


「あんた!ケーコさんと混浴の温泉にずっと行っていたのね!」

「お、俺じゃない。ケーコがその宿を勧めてきたんだよ・・・でも本当にいい湯だったし、参考にもなったんだから。火傷にも効くって書いてあったんだ」

「・・・本当ね?」

「はい・・・」


ドモンに詰め寄るナナをヨハンが宥める。


「混浴でケーコさんを抱いたなんて事ないでしょうね?他の人も温泉に入っていただろうし」

「な、ないよ!そもそもそんな余裕もないってば!」


ドモンが温泉に行ったのは、すすきので散々遊んだあとのことなので、これは完全に嘘。多少の余裕はあった。

ナナにはそれを絶対に知られる訳にはいかない。


「まあいいわ」

「ホ・・・」

「ホッとしたわね今あんた!何やってたか全部わかってるのよ!」

「わぁごめんなさい!!人がいない時にしました!」


咄嗟に謝ってしまったことで、ドモンは結局全てを白状することになってしまった。

火傷のこともありお仕置きはなかったが、お詫びの品として、今回買ってきた手動のミシンを献上することとなった。

ドレスを作ってくれた王都の仕立て屋へのお土産のひとつ。



ドモンとナナがそんなやり取りをしている間、カールと長老が話をまとめ、工事の内容や日取りなどを決めていた。

ドモンから大工道具を貰ったゴブリンの子供達が張り切っており、カールも目を細める。


叱られ続けたドモンはぐったりとしながら馬車に行き、寝かせてあった練った小麦粉とナナへの献上品を持って戻ってきた。


「ナナ様すみませんでした。はいこれ」

「ウフフ!よくわからないけどなんか凄そう!まあ今回はこれで許したげる」


ホッチキスのようなミシンを高々と掲げるナナ。


「使い方はわからないから説明書読んでね。じゃあヨハン、エリー、料理の手伝いまた頼むよ」

「ああ任せておけ」

「何をすればいいの?」


「パスタを作る要領で、粉を振りながら薄く伸ばして2~3ミリの幅に切っていくんだ。伸ばすのにはこれを使って」


買ってきた麺棒を渡したドモン。

これは一本だけしか買っていなかったので、ヨハンが生地を伸ばし、エリーが切っていくことになった。


エリーはナナと反対に、こういった細かい単純作業が大得意。

以前マカロニ作りをした時もすぐにコツを覚え、ちゃっちゃちゃっちゃと作りながら「楽しいわぁ」と喜んでいた。

ドモンは細かい作業は得意だけれども、持続力がなく飽きっぽいので、単純作業は苦手だった。ナナは全てが苦手。


「じゃあ俺は汁の方をナナと作るから任せたよ。ナナ手伝え」

「何をすればいいの?」その口ぶりはエリーそっくり。

「さっきのスライサーでこの肉を全部切ってくれ。怪我すんなよ?」

「はーい任せておいて!」


単純なナナはすっかり上機嫌。

ドモンはふたつの鍋に出汁とめんつゆを入れ、大量の汁を作る。

長老達と温泉宿の話をしていたカールとグラの元へこの匂いが届き、スーハースーハーと息を荒くしていた。


「すっかり私はこの匂いの虜であるな。最初に肉じゃがとやらの匂いを嗅いだ時は、少し鼻につく匂いだと思っていたのに、今ではもう・・・スーハー」カールの鼻の穴が拡がった。

「さっき少し肉を食ったというのにまた腹の虫が・・・」とグラはお腹を擦った。


ナナがスライスした薄切り肉をドサドサと鍋に投入すると、美味しそうな匂いが更に数倍に膨れ上がる。

普通にヨダレをダラっと垂らしてしまったザックの顔を慌てて拭くジル。



「肉の他に・・・なんか大切なことを忘れてるような気がするんだよなぁ」



ドモンが味見をしながら首を傾げる。

猪肉が美味いこともあって味はこれで十分。

ネギがあれば嬉しいところだけれど、あいにくこの場にはなかった。


ナナが自分で切った肉を次々と鍋に投入していく。

ふと見るととんでもない肉の量となっていて、ドモンが慌てて止めた。


「なんでこんな事になってんだよ?!」

「だってこの肉を全部切ってくれって言ってたじゃない」

「ちょっと待てちょっと待て!!馬車の冷蔵庫に入れてたやつ全部入れちゃったのか???」

「そうよ?」


ドモンは大きな猪肉の塊をふたつナナに手渡していて、それを全部切れと言ったつもり。

ナナは冷蔵庫に入れていた六つの肉の塊も持ってきて、全てを鍋に投入したのだ。


ひとつの肉塊で7~8キロはある。それを八つ突っ込んだ計算。


「お、お前・・・お前分かるだろ普通・・・」

「ド、ドモンが全部入れろって言ったじゃないのよ!」


力が抜け、思わず片膝をつくドモン。


「猪肉はまた獲ればよろしいですのでお気になさらずに・・・」と長老が気を使ってくれたが、「いや流石にここまで肉を入れると、汁がただの肉味になっちゃうんだよ」とドモンが頭をかく。


ビッチビチに肉が詰まった鍋を恐る恐る味見をしてみるドモン。


「ん?あれ?多少獣臭さはあるけど・・・もうちょい出汁や醤油を足せばいけるかもしれん。まあ・・・結構美味いのかも?」

「ほ、ほら御覧なさいオホホ!良かったじゃない!」

「食い切れるのかって問題もあるんだよナナ。ここは次から次へと客が来る店じゃないんだぞ?」


「わかったわよ!食べるわよ!私が責任持って食べればいいんでしょ食べれば!!」

「食えるわけ無いだろこのバカおっぱい!お前一人分くらいの肉が入ってんだぞ!!」

「なによ!浮気者のスケベジジイのくせに!!やっぱり許さないんだから!!」


「もうやめなさいふたりともぉ!夫婦喧嘩ばっかり!」とエリーが怒ってようやく収拾がついた。


ナナは夫婦喧嘩というワードに何故かやけに反応し、「私ったらまた、ふ、夫婦喧嘩をしちゃったわ!夫婦喧嘩を・・ね?ドモン!ウフ」と興奮しながらドモンに抱きついた。

本当に単純である。



そんなドモン達の元へ、来るはずのない客がやってきた。




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