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第182話

「お似合いでございますカルロス様!」

「そうか?ハハハ」


ドモンからせしめたユニシロのパーカーを着てポーズをつけるカールを、騎士が手放しで褒め称える。


「帽子がついているのが嬉しいな。この色も良いだろ兄さん」

「確かにその色はグランに合っているな」


得意げにパーカーのチャックを上げ、ニヤニヤと笑うカールとグラ。


「そちらの方は献上させていただきます故に、どうか・・・どうか俺をお守り下さい」

「どうする兄さん?」

「ああ、それとこれとは話が別だ」


賄賂でなんとか助けてもらおうとするドモンだったが、なんとも冷たい返事が返ってきた。


「そんな酷すぎる!詐欺師!スケベオヤジ!嘘つき!女ったらし!変態!浮気者!」

「全部貴様のことではないか」


ドモンの文句を鼻で笑うカール。


「そうだグラ!貴族の金を騙して使い込んだとして俺を牢にぶち込んでくれ!」

「牢から出た日に百倍叱られるだけだろ」


グラはヤレヤレ。

パーカーを着てのヤレヤレがちょっと格好をつけていた。


「わかった!やっぱ俺は死んでいたってことにしよう!俺はもう向こうへ帰る!」

「先程一台目の馬車が発車したところだ。数時間後にはゴブリンの村に到着するだろう。ナナ達もきっと到着してる頃だ。諦めろ」

「し、親友が死ぬかもしれないんだぞ!」

「貴様は死なんから安心しておけ。また川を泳いで風邪を引かぬようにな」


片付けたバーベキューセットやビーチベッドを積み込む騎士と御者が、地面に四つん這いになってうなだれているドモンを気の毒そうな顔で見ていた。



ズルズルと引きずられるようにドモンが馬車の中に突っ込まれ、馬車がゴブリンの村へと出発した。

カールとグラと騎士は馬に乗り、馬車の前と後ろを護衛のようにパカパカと走る。


「その代わりといっちゃなんだが私達が護衛してやる。それに貴様が逃げないように見張らなくてはならんからな」とカールは冗談を言っていたが、護衛というのは実は嘘ではなかった。

犯人達の仲間が大勢で襲ってくる可能性もなくはない。


先程まであれだけふざけあってはいたが、本当は今も少し油断すれば涙が溢れそうになる。

二度とあんな事はさせない。その一心で周囲に向かって目を光らせていた。




ドモンが出発してしばらくした後、先発した馬車がゴブリンの村へと到着。

その馬車にドモンは乗っておらず皆がっかりしたが、ドモンの無事を知らせるとゴブリン達から歓喜の声が上がった。


一緒に迎えに来たヨハンとエリーも抱き合って喜ぶ。

サンもナナと一緒に少し怒っていたはずが、その一報を聞いた時、ただただ安堵しジルと抱き合って大声で泣いた。



「逃げたわねドモン」


腕を組み、肩幅程度に脚を開き、ナナは道の真ん中で仁王立ち。

額に青筋を立てながら、道の先の遠くを見つめている。


「ナナってば!もう本当に許してあげなさいよ・・・」

「駄目よお母さん。ここで甘い顔をしたらあの人絶対にまた浮気するし・・・また無茶するんだから」


ナナはドモンの浮気だけじゃなく、すぐに無茶をすることにも腹を立てていた。


あの時一緒に逃げていたら。

あの時すぐに自分だけ戻っていたら。

もしあの時・・・


ドモンのそばにいると常に後悔の連続。何度そんな思いをしたか。


もちろん帰ってくるのは嬉しい。

だけど手放しで喜んで迎え入れては、きっとドモンはまた同じ事をする。

反省だけはしてもらわなければならない。


皆が喜びの声を上げ続ける中、ナナは道の真ん中に立ったまま、まだ道の先を睨み続けていた。



「あぁ~もう少しゆっくり進もうよ・・・」

「ドモン様落ち着いて下さい」


馬車の中にはドモンと護衛の騎士がひとり。

護衛ではあるが、ドモンが何かおかしなことをしないようにするための見張りでもある。


「ハァ・・・とりあえずまた酒でも飲むか」

「今はお控え下さい」

「頼むよ!この通り!」

「頭をお上げください。そして今はちょっと・・・」


騎士にそう諭されドモンはしょんぼり。

ただそんな事で諦めるドモンではない。


「仕方ない水でも飲むか」とラベルを剥がした透明のウォッカをラッパ飲みで口にひと含み。

コップに一杯入れて「異世界の水だよ。一気に飲むと健康になる」と騎士にも差し出した。


素直にガバッと口の中に入れた騎士は思わず吹き出しそうになったが、ドモンが瞬時に手で騎士の口を塞ぐと、96度のアルコールが口の中で爆発するように拡散した。


「イッヒッヒ」

「ガハッ!!ゴホッ!!何をなさるのですか!!ああぁぁ!!」

「舌が痺れるだろ?目が回るだろ?ほら・・・本当の水を飲め」と缶酎ハイのストロングを渡すドモン。


「ぐはぁ!!これも酒では?!」

「そんなことはないよ。もう一口飲んでみろ。美味いぞ?」

「ぶふぅ!!やはり酒でしょう!!確かに先程のものと比べれば美味い酒ではありましゅが・・・」

「そうだろうそうだろう。じゃああと一口だけ飲んでいいぞ?」

「あ、あとひとくちだきゃでしゅよ?フゥ・・・」


騎士と一緒に酒を飲みながら、すすきのでのスケベな話をするドモン。

酔った騎士は大興奮で何かを元気にしながら、ドモンと一緒に酒を飲み続けた。



そうして馬車はゴブリンの村へと到着した。

馬車の目の前にはナナが仁王立ち。


「随分おしゃれな格好をしているわねカールさんとグラさん」

「こ、これはドモンに貰ったのだ・・・」カールがナナの迫力に圧倒される。

「なあナナ、やはり怒っているのか?ドモンは大変な目にあったのだぞ?」グラは約束通りドモンを庇った。


「やはりってことはあなた達はドモンに何か聞いたのね?」これぞこの世の全ての男性から恐れられている『女の直感』

「ぐ・・・!!」墓穴を掘ったと気がついたグラ。


「ナナ、ドモンは辛い思いをしてそれを癒やすために・・・」

「癒やすために何をしてたのよ?」

「・・・・」


カールはもう無理だと悟った。

こうなった女には土下座をしてでも謝るしかない。

これはどの世界、どの時代でも一緒である。


馬車の後ろのドアがガシャンと開き、騎士がヨロヨロと出てきた。

その様子に一番驚いたのは仲間の騎士。


「隊長~おっぱいが!おっぱいがおりまぁす!」

「おぅしでかした!そのおっぱいをつかまえて先っぽを出せぃ!ワッハッハ」

「おっぱいの先っぽが出る前に、私めの先っぽが出てしまいそうです隊長~」

「ガハハ!よぅしその調子だ!どれどれ見せてみろ・・・なんだお前、凄いじゃないか!」

「お褒めにいただき・・・いただ・・・オロロロロロ!!!」

「よくやった!」


呆気に取られるここにいる全ての人。

ナナとカールとグラを先頭に、ゴブリン達やヨハンやエリーやサン、騎士と御者達が立ち尽くす。


その瞬間、下半身丸出しでゲェゲェと吐いている騎士の横をナナがすり抜け、酔っ払ったドモンの前に立つやいなや、右手を大きく振り上げ涙を浮かべ・・・ドモンに抱きついた。


「ナナ、ただいま」

「おか・・おかえり・・・おかえりなさい!!!うぅぅぅううう!!!!」


結局ナナは叱ることが出来なかった。

どんなに怒っていても、どんなにドモンが悪いことをしても、ドモンは約束通り、ナナの元へと帰った。

その事実が嬉しくて。


ドモンがそんなナナをギュッと抱きしめ返す。

またナナの目から涙が溢れる。



それを見ていたサンが走る。ドモンの元へ。

追いかけるようにジルも走る。ドモンの元へ。

ヨハンもエリーも駆け寄った。


そしてドモンは真っ先にエリーの胸に顔から飛び込んだ。





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