第178話
「死んでタイムリープして誰かの命を救うとかじゃなく、死んだらウオンで買い物が出来るって、なんだか割に合わない気がするんだけど」
ぶつぶつと文句を言いながら、ドモンはまたおもちゃ売り場へ。
編み物のおもちゃが人気だったので、似たようなお役立ちグッズがないかを探しに来た。
だが電池が必要なものばかりで、結局編み物系のおもちゃをまた買うことになった。
その代わりと言っては何だが、100円ショップでネイルや口紅などを大量購入。
ホッチキスのような形の電気を使わない手動ミシンや、手動のミキサーも結局いくつか購入。どちらも案外安かった。
しゃぶしゃぶ肉も作ることが出来る冷凍肉の手動スライサーもいくつか購入。これは高くついたが、きっとこれで料理の幅は大きく広がる。
便利グッズや火傷に効く塗り薬や飲み薬、新たにキャンプグッズやこの際だからとBBQセットも購入。炭は贅沢に備長炭。
下着や着替えも何着か購入。
ただ流石に女物を買う勇気はないので今はパス。買うとしたら事務所に行ってまた店長らに頼むことにする。
「ややや!やはりドモンさんじゃないですか!また来られたのですか?!」
大量の買い物をしていたところ、先日の警備員がそれを発見して走ってやってきた。
「ああ、この前はありがとう。向こうでちょっと死んじゃったらこっちで生き返っちゃってさハハハ」
「も、もう何でもありですね・・・今回はおひとりで?」
「そうなんだよ。で、ほら、重たくなる物の他に女物とか買いづらい物をまた代わりに・・・」
「ああはいはい!かしこまりました。では事務所の方までご案内致しますね」
「ありがとう」
挨拶を済ませドモンは事務所へ。
「おおどうでしたか?あの時は無事戻られましたか?」
「無事戻ったはいいんだけど、悪い奴らに火をつけられて殺されちゃったんだよ。ほら俺の顔見てよ」
店長に顔を見せるドモン。
「ええ?!大丈夫・・・ではなかったんでしたね。で??」
「で、気がついたら自宅のベッドで目を覚ましたんだけど、怪我はそのまんまなのよ。ようやくそれが癒えてまたここに来たってわけ」
「折角ご自宅に戻られたのに、ここに来てはまた異世界の方に飛ばされてしまうのでは?!」
「もう俺の家はあっちだからハハハ」
店長とドモンがそんな会話をしているところへ責任者も合流。
また同じような会話が続いた。
そして色々と買い揃え、荷物と一緒にドモンは屋上へ。
自動ドアの向こうへせっせと荷物を投げ、お別れの挨拶をして自動ドアを出た。
が・・・
「や、やべぇ!!に、荷物が崖の前にたまって動けねぇ!!」
外に投げた荷物を移動する者がいなかったため、崖の前の出口のところへダンボールが大量に積まれていて、ドモンは崖とダンボールの間に挟まってしまったのだ。
「ぐ、ぐは!!し、死ぬ!!!また死んじゃうって!!!」
何度も助けを呼んでみたが当然誰も来ない。
六芒星に手を当ててウオンに戻ることも考えたが、振り向いて手を当てることも出来ずにいた。
「ぐぐぐぐ・・・んならぁああああああ!!!」
ドモンは最後の力を振り絞り、ダンボールをひとつひとつぶん投げ、ぶっ倒し、ようやく脱出に成功。
ダンボールの中に入っていた中華鍋や圧力鍋、テフロン加工のフライパンやBBQセット等が、ゴォォン!!ガシャーーン!!ゴオオオォォーーン!!と派手な音を鳴らした。世界中を恐怖のどん底に陥れているとも知らずに。
「ハァハァハァハァ・・・壊れてませんように・・・」
肩で息をしながらとりあえず一服しようとしたドモンが、胸ポケットに手をやるとタバコが入っていないどころか、自分がパジャマ姿になっていて驚いた。
しかもナナとおそろいの、いつも家で着ている寝間着だった。
「あれ?どうなってんだこれ??元の俺の服はどこ行ったんだよ!スマホ入ってんのに!!財布も!!」
ちょっと高めのビーチベッドを買い、それで酒を飲みのんびりと寛ぎながら、先日盗撮したエリーのおっぱいを見ようと思っていたドモン。
「くっそぉぉぉ!!エリーのおっぱいや、サンとジルの○×▲や、ゴブリンの娘達の■△●があああ!!!」
他の人には絶対に聞かせられないような卑猥な言葉を、大声で叫んで悔しがるドモン。
「俺の恋人はお前だけだよ・・・」と切ない顔をしながら右手を見ていた。
一方その頃。
「た、大変よみんな!!!ちょっと来て!!!」部屋に戻ったナナが大声で叫んだ。
「い、いかがなされましたか奥様」とサンに続いて、ヨハンとエリーもナナの部屋へとやってきた。
「ベッドの中に服が入ってたんだけど・・・これ多分ドモンのよね???」
「えぇ?!」驚きの声を上げる一同。
今まで見たこともない服で、はっきりとはわからない。
ただ異世界の服であることは明らかだった。
「ナナ、ポケットの中を確認したらわかるんじゃないの?」とエリー。
「わ、私が見ます!」とサン。
「私が見るわよ!!」とナナ。
服をふたりで引っ張り合いながらポケットを探っていく。
「ご、御主人様のタバコですぅ!!」タバコを掲げ、キャッキャと飛び跳ねるサン。
「あ!これドモンの!!」スマホを出し、みんなに見せたナナがものすごい笑顔。
「メモがあります!御主人様の字です!間違いありません!!ええと『買う物 スケベな本(小説とマンガ)、スケベなおもちゃ(エリーとナナ)、脱げないスケベなパ・・・パンツ(サン)、面白いかつら(ヨハン)』・・・と書いてありました・・・」
喜び勇んでメモを読んだサンの声が徐々に小さくなっていった。
ナナがプッと吹き出す。
「あ、これは異世界のお金が入った財布ね」
財布の中身を確認したナナ。
お金の他に様々なチケットが入っていたが、全て二枚ずつであり、しかもどう見ても新しいものであった。
レシートを見ても『大人2名』という文字が目立つ。
「ま、まさかドモン・・・ひ、人があれだけ心配している時にぐぎぎぎぎぎ!!!」
「お、落ち着けナスカ!そうとは限らないだろう・・・」
怒れるナナを宥めるヨハン。だが十中八九ドモンが浮気していたと全員が確信していた。
そしてカピカピになった紙がポケットからいくつか出てきて、クンクンとナナが匂いを嗅ぐ。
「ドモンの匂いじゃないわ・・・ドモンだけの匂いじゃない!」
「き、気のせいよナナ・・・」エリーも宥める。
恐らくあとで捨てようとして突っ込んだまま忘れた大量のティッシュのゴミ。
関係ないが、左脚に障害を抱えることとなった車の事故の時、革ジャンのポケットにゲーセンのパチンコで取ったスケスケのスケベなパンティーを十数枚突っ込んでいて、持ち物を調べた警察官やそれを届けられた母親を大いに困惑させたことがある。ドモンの悪い癖だ。
そして今回もそれと同じことをドモンはやってしまった。
最後のトドメとして、恐らくそれで拭いてカピカピになってしまったと思われる、くしゃくしゃに丸まった女物のパンツが一枚出てきたのだ。
「あんの男~!!許さないわ!絶対に許さないんだから!!もう私が殺してやるぅ!!」
「お、奥様落ち着いて・・・それに御主人様はどうせ死なないですし、それに死んだらまた・・・」
こうしてスマホの壁紙を『盗撮したエリーの生おっぱい』にしていたことだけはバレずに済んだドモンであった。
「うお!なんか寒気がした・・・やっぱりもうこの時期、夜は随分と冷えるな。仕方ない服を着よう」
全裸でスケベな漫画を読んでいたドモンは「自分で着るの面倒だなぁ~サーン!ナナー!やって~!」と文句を言いつつ、渋々服を着ていた。
ティッシュもパンティーの話も悲しいかな実話である・・・
カピカピティッシュで浮気がバレるとかリアルドモンはアホ過ぎ。