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第174話

犯人達は捕らえられ、王都へ送られる事となった。

そこで厳しい取り調べを受け、恐らく犯行に関わったグループは一網打尽となった後、厳しい処分が下されるだろう。


ここで斬られ、あっさりと死んでおけば良かったと思うほどの・・・。


グラもナナも騎士達も、どれだけこの場で斬りつけたかったことか。

だがドモンは上半身を炎に包まれ叫びながらも、「捕まえろ!」と犯人達の方を見た。


それがこの犯人達の事か、人攫いの犯行グループ全体の事かはわからない。

とにかくドモンのその命令を受け、騎士達は殺さずに捕らえた。唇を噛み締めながら。

草むらで情けなく股間を押さえて転がってる犯人も捕らえた。



ナナは崩れ落ちたドモンの亡骸にしがみつき泣く。

叫び声も泣き声も上げることが出来ず、息が出来ない程の嗚咽。


グラは怒りと悲しみの中、それでも冷静に「ナナ!蘇生するぞ!手伝え!」とドモンに心臓マッサージを行った。

ナナは膝枕にドモンの頭を乗せ、上から覆いかぶさるように人工呼吸を行う。

しかしドモンは帰ってこない。


そもそもドモンの顔は皮膚が溶けるほど焼けただれ、すでに原型を留めておらず、口もくっつき開かない状態であった。

なので人工呼吸は届くはずがない。



一方その頃、ゴブリンの村は騒然としていた。

グラが大慌てで騎士達を集め村を飛び出していったという事もあったが、直感で何か良からぬことが起きたと感じ取った。

特に長老はそれが顕著で、ドモンの身に何かが起きたのではないか?といった事まで感じ取っている。


そこへ騎士達に連れられ、サン達が帰ってきた。


「ご、ごめ・・・ごめんなさい!私のせいで・・・」とサンが泣きながら震える。

「でも私達はそのおかげでドモン様と奥様に救われました!」「泣かないでください!」と一緒に救出された女の子達がサンを気遣った。


女の子達はその道中、ゴブリンの村の事やドモン達の説明を受け大体の事情は把握しており、ゴブリン達にきちんとした挨拶を済ませ、村へ入っていった。

まだ震えている女の子達の身体に毛布をかけ、長老が自分の家へと案内をする。


が、その長老が女の子達以上にガタガタと震えていることにサンが気がついた。


「ちょ、長老さん・・・あの・・・」

「だ、大丈夫でごございます。ドド、ドモン様はきっと・・・!」


サンが話しかけたが、長老は唇が震えていてうまく話せない。

なんとか心を保とうとしたが、すぐにそれは限界を迎えた。


「ままま魔王様!ドドドドドドモン様をおおお救いくだだださささいいいぃぃぃ」


その場に跪き、両手を胸の前で合わせ天に祈る。

長老のその様子を見たサンも嫌な予感がして、唇が震え始めた。


「ご、御主人様に、な、何かあったのでしょうか?!」サンも跪き、震える長老の腕にしがみつく。

そこへナナが現場に繋いでいた馬に騎士が乗り、何があったのかを伝達しにやってきたが・・・到着するなり崩れ落ち、職務を全う出来ずにいた。


全員がそれを見て嫌な予感を頭に浮かべ、必死になってそれを頭からかき消している。


「サン大丈夫だったの?で、ど、どうなったの?」とヨハンにしがみつきながらやってきたエリー。

「ド、ドモンとナスカはどうした?」とエリーの肩を支えるヨハン。


「お・・・奥様の方はご無事です・・・」


安心させるために放った騎士のその言葉で、皮肉にも皆、ドモンに何かがあった事を知ってしまった。

「ああ・・」ザックが膝から崩れ落ち、ジルはまだ状況を飲み込めずにいた。


「ごしゅ・・・ドモン様のお怪我の具合はどうなのですか?」とジルが勇気を振り絞って騎士に聞く。

その言葉によって、まだ最悪の事態は避けられているのではないか?と希望を持った一同だったが、騎士がうつむきながら首を横に振ったことで絶望に変わった。



「はっ!はっ!はっ!はっ!」サンは呼吸を乱しながらキョロキョロと周りを見渡し、太い紐を探す。

すぐにドモンの後を追いかけようと考えたためだ。


ついさっき、助けに来てじっとサンの目を見つめていたドモンの顔が頭をよぎる。


初めて屋敷にやってきた時のドモンの顔も思い出す。

綿菓子をくれた時、一緒にマカロニを作った時、冗談を言って笑うドモン、ふと寂しそうな顔を見せるドモン。

次から次へを頭に浮かぶドモンの顔。


ヨハンやエリー、ザックやジルや長老、騎士や他のゴブリン達が泣き崩れたのを見て、サンの思考回路は完全に飛んだ。



「御主人様がお戻りになるまでにお片付けをしないと。今日は何のお酒をお飲みになられるのでしょうか?」

「・・・・」

「お疲れになっているでしょうから、脚や腰を揉んで差し上げなければなりませんね」

「サン・・・」ヨハンが歯を食いしばる。


「あ、御主人様達がお戻りになられましたよ!お迎えに行かなくちゃ!」


ドモンの亡骸を乗せた馬車が到着し、サンが嬉しそうに駆け寄っていった。

それを見たエリーが、うわああああ!!と大声で泣き、その声によって実感が湧いたゴブリン達が次々に失神してその場に倒れていく。


ドモンに膝枕をして抱きかかえ、憔悴しきっているナナがサンの方を向く。

涙はもう出尽くした。


ドモンはいびきをかくことも寝言を言うこともなく、そしてスケベなこともしてこない。


「御主人様はお眠りになられているのですか?」とサン。

「サ・・・・ン・・・・・」


ナナはサンのその笑顔に殺意が湧いたが、それは違うと自分の頭をかきむしる。

そんな事をすればきっとドモンは怒る。


でもこのドモンは怒らない。怒ってはくれない。


もう枯れたはずの涙がまた出てきた。

ナナはゴクリと唾を飲み、サンに向かって言い放つ。


「サン、ドモンは死んじゃったの。死んじゃったのよ?」


サンはそんなナナの様子を見てキョトンとした顔をしていた。





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