第172話
「きゃあああああああ!!やめて!!殺さないで!!ギャアアア!!」
森の中に響く女の叫び声。
「おい、今なんか遠くから女の叫び声聞こえなかったか?」
「ああ、俺が様子を見てくる」
辺りを見回す犯人達。
同じ様に叫び声を聞いてしまったサンを含む女の子達もキョロキョロと辺りを見回し、ガタガタと体を震わせていた。
その少し前、ドモンはナナに作戦を伝えていた。
「木を隠すなら森の中じゃないけれど、悪人を相手するにはこっちも悪人になればいい。それが一番近づきやすい」
「だ、だ、だからってなんで私が殺されなきゃならないのよ!イヤよ!」
「本当に殺すわけ無いだろバカ。殺されて死んだふりをしろ」
「死んだふり??」
説明をしながら、残っていたトマトを潰してナナの頭や顔、そしてシャベルや服に汁を付けて赤く染めていった。
「俺が犯人達の元へ潜入するから、ナナは陰から様子を見て、俺が危なそうだったら水魔法を放ってくれ。やっつける必要はない。驚かすだけでいいんだ。ファイヤーボールが俺らに当たったら危ないからな。『騎士達が来た!』と言えば奴らも慌てるだろう」
「なるほどようやく意味がわかったわ」
「奴らに聞こえるくらい派手な叫び声を上げてくれよ?」
「うんわかった。この辺で死ねばいい?」
ナナが地面に非常口のマークのような感じで寝そべり、死んだ真似をする。
「そんなとこだな」と返事をしながら、その横に死体を埋める穴を少しだけ掘るドモン。
「そろそろいい?」
「ああ、しばらく動かないように頑張るんだぞ?バレたらおしまいだ」
「わかってるわ!任せておいて!」
そうしてナナは叫び声を上げ、ドモンは肩で息をするふりをしながら穴を掘り続けていた。
そこへ犯人の一人が剣を持ち、警戒しながらやってきた。
「何をしている!」と犯人。
「・・・・見たのか?」ドモンが振り向きもせずに小さく囁いた。
傷だらけの顔でゆっくりと振り向きながら、ジロリと犯人をドモンが睨むと、犯人はビクッとしながらナナの姿を見て「な、何も見てねぇよ」と視線を外した。
「何にも見てないならそれでいいんだ。それにしてもお前もこんなところで何をしていた」
「・・・・」ドモンの言葉に黙る犯人。
「どうもお前は俺と同じ人種のような気がするぞ?」
「な?ば、馬鹿言え・・・俺らはそんな事してねぇよ・・・」
「俺ら?他にも仲間がいるんだな?あとお前・・・もう一度聞くぞ。何も見ていないよな?」
誤魔化しながらその場を立ち去ろうとする犯人について行くドモン。
シャベルをズルズルと引きずりながら、犯人を睨みつける。
「何にも見てねぇって言ってるだろ!ついてくるんじゃねぇ!!」
「そうか。それなら良かった。危なく余計な穴を掘らなきゃならなくなるところだった」
「・・・!!」
血の気が引いた顔の犯人の後ろを歩きながら、ドモンはタバコに火をつける。
そのままドモンはもう一人の犯人やサン達と合流した。
サンは目を見開き、猿轡をされたままウーウーと叫んで涙を流す。
「だ、誰だてめぇ!!」
「やめろ!!だ、大丈夫だこいつは・・・」
「なんだお前ら、人攫いか?やっぱり俺と同じ穴のムジナじゃねぇかクックック」
ドモンの言動に驚きを見せながら、もう一人の犯人もドモンの赤く染まった服を見て何かを察していた。
「奴隷として売り飛ばすのか?」サンの前にしゃがみ、顎をくいっと持ち上げながら、ドモンはウインクをして合図。
「ああ、そんなところだ」
「いくらで売れるんだ?」
「この三人なら金貨十枚以上は固いだろうな」
「はぁ~良い商売だな。まあ俺はなぜかさっきのあの女が金をくれたよ。でかい穴掘らねぇとならないのが面倒だけどな。それほど儲かるなら俺も売れば良かったな」とドモンがタバコの火を手で弾く。
「おいおい・・・」
ヤレヤレとしながら酒を飲む犯人達。
追手を巻くために敢えて一度森に入り、休憩して酒盛りをしていた最中だった。
「金貨十枚かぁ。もっと安くなるなら俺が買ってやってもいいぜ?」とドモン。
「冗談じゃねぇ。こんな上玉、安売りしてたまるかってんだ」
「顔はいいが、さっきの女ほど抱き心地は良さそうに思えねぇんだけどなぁ。おいお前らどうなんだ?しっかり奉仕できるか?それなら俺が買ってやるぞ?俺の下半身への奉仕だけどな。へっへっへ」
「おい旦那、だから金貨十枚未満じゃ売らねぇってば」
犯人と交渉しながら、また女の子達の顎をひとりひとりくいっと持ち上げ、ドモンがじっと睨みつける。
小さな女の子達はガタガタと震えながら頷き、サンは派手にお漏らしをした。
サンだけ嬉しそうな顔をしないように必死に堪えつつ。そんなサンのおでこをピンと指で弾くドモン。
「あの女いくら持ってたかなぁ?」とドモンが金貨の入った袋を出す。
「なんだよ、結構持ってるじゃねぇか」と犯人。
「おー金貨20枚はあるぞ?じゃあ13枚くらいで三人売れよ」
「15枚だな。それ以上はまけられねぇ」
「チッ・・・甘い顔見せたら随分ボッてくれるじゃねぇか?お前ら」
「そう言われても俺らだって危険な橋渡ってるんだぜ?」
犯人がまたヤレヤレとしながら、ドモンの斜め後ろに目で合図を送る。当然ドモンはそれを見逃さない。
ドモンはサンの目に反射して映るもう一人の犯人を観察し、剣を振り上げてることを確認。
すぐさま右の方へゴロゴロと転がって、振り下ろしてきた剣を避けた。
「くそ!!」
もう一度犯人が剣を振り上げた瞬間、茂みの中から「ウォーターボール!!」という声が聞こえ、犯人のそばにザブンと水が落ちる。
「騎士達だ!!逃げろ!!」とドモンが叫ぶと、条件反射で犯人達は大慌てで自分達の馬車へと走ったが、周囲を見渡しても騎士らしい姿を発見できず、その十数秒後に騙されたことを悟り、また慌てて元いた場所へ戻った。
草むらは当然もぬけの殻・・・ではなく、ドモンだけがタバコを吸いながら、地面に胡座をかいてニヤニヤと笑っていた。




