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第171話

「もう・・御主人様のバカ」


ドモンとナナが馬に乗って村を飛び出す少し前。

サンは村を出て散歩をし、愚痴をこぼしながら頭を冷やしていた。


ただどうせ散歩をするなら、珍しい木の実や果物、なんなら例のキノコでもないかとキョロキョロしながら歩く。

サンの宝物を手に握りしめながら。

その宝物に時折口づけをして「駄目ですごしゅ・・・ドモンさんたら」と頬を染めていた。



そこへパカパカガラガラと馬車の音。

もう見つかってしまったという思いと、すぐに迎えに来てくれた嬉しさがごちゃ混ぜとなって、複雑な表情をしながら振り向くサン。


だがそれはドモンではなかった。御者台には見覚えのない屈強な男。


「どこから来たんだい?お嬢ちゃん」

「え?あ、あのゴブリンの村から・・・」


馬車を操作しているその男が話しかける。


「逃げてきたんだな?そりゃ危ねぇや。街まで連れて行ってやるから乗りな!」と言いながら、幌馬車の荷台から降りてきたもうひとりの男。

「いえ・・・そういう訳ではありませんのでお構いなく」


「いいから乗れって言ってんだよ!ほら!!!」

「痛い!!は、離して!!んぐっ!!」


サンの口を塞ぎ、無理矢理荷台に乱暴に押し込むと、馬車は大急ぎで出発。

「痛い!!」と言いながら周りを見ると、12~3歳くらいの女の子がふたり縛られて、猿轡をされ泣いていた。


サンはすぐに人さらいだと気がつき、手に握っていたものをひとつ、馬車の外へポイッと放り投げた。

『御主人様!』と心で祈りながら。





「ナナ!ちょっと来てくれ」慌てて戻ってきたドモン。

「どうしたのよ?」とナナがテントから出て、グラを探すドモンについて行った。


「大きな声を出すなよ?サンが多分拐われたと思う」

「え!・・・えぇ??」


深刻そうな顔をして突然そう告げたドモンに、思わず大きな声が出そうになったがなんとか抑える。

グラは温泉から出て着替え、そのそばでゴブリンの女性達と涼みながら談笑をしていた。


「グラちょっと!」

「どうしたんだ?息を切らして」

「ちょっと来てくれ。大至急だ」


温泉の傍に突き刺さっていたシャベルを引っこ抜き、肩に担ぎながら話を始めるドモン。

何でもいいから武器になる物をと思ったが、ドモン自身焦りに焦っていて、もう何をしているのかがわからない。

振り回せるものなら何でもいいと思っていたのだ。


「サンが拐われたらしい」

「何だと?!」

「シッ!ここで大騒動にするな。もし身代金目的ならそばにいるかもしれないし、騒動になれば口封じをして逃げるかもしれん」

「・・・・なぜ拐われたと分かる?どこかにおるのではないか?」


グラの質問に答える前に一度立ち止まり、タバコに火をつけたドモン。


「道にタバコの吸い殻が落ちてたんだよ」

「それがどうした?」

「俺がサンと初めて逢った時の銘柄の吸い殻だ。もちろん向こうで買ってきたやつだから俺以外に吸っている奴はいない」

「・・・・」

「サンはカバンの中に宝物を入れてると言ってた。きっとこれがそうだ」


そう言ってグラにその吸い殻をよく見せた。


今吸ってる銘柄とは別の、以前に吸っていた銘柄。

今回戻ったらタバコがやけに値上げされていて、今回は安い銘柄に変更した。

ドモンは軽すぎるタバコじゃなければ何でも良いタイプなので、カールからの貰い物のタバコも平気で吸える。


「すぐに騎士達を手配・・・」

「だから待てって。グラはこの村の周辺の捜索して、いなければ後から騎士を連れて追いかけてきてくれ。俺とナナが先に馬で行く。犯人を見つけたら道に目印を置いておくから、そのそばを探ってくれるか?」


「貴様は無茶をするな!どこへ向かったか分かるのか?」

「先に向かったとしたら俺らの街の方向だな。吸い殻の位置と馬の足跡の付き方から推測して。無茶はしねぇよ。したところでどうにもならないからな。それよりも一応金貨を貸してくれ。身代金を要求された時用の」


「くそ!こんな事になるとは・・・俺の油断だ!」と言いながら、懐から金貨の入った袋をドモンに渡す。

「それは俺もだ。じゃあ頼んだぞ?ナナ、話は聞いていたな?」

「ええ。私、馬の準備してくる!」


グラとの話を聞いたナナが返事をするなり馬車の方へと走っていった。

ドモンは受け取った金貨を確認して、袋をポケットに突っ込む。


「い、いかがなされたのですか?」と不安そうな顔の長老。

「ああ、ちょっとな。大丈夫だから大人しく待っていてくれ」

「ひぃ!は、はい!!」


振り向いたドモンの目は真っ赤になっており、長老はその禍々しさに卒倒しそうになるのを必死で耐えた。


「準備が出来たわドモン!」

「わかったすぐに行く」


ドモンが返事をしながら上着のポケットにトマトをいくつか詰め込んだ。


「そんなものどうするのよ?!ぶつけるの?」

「目印に使うんだよ」


そう言ってグラの方に向かってトマトを掲げる。

グラはすぐにピンときて、親指を立ててドモン達を見送った。



「乗って!」

「今は尻を押し付けてる場合じゃねぇからな?」

「わかってるわよ!しっかり掴まって!」

「よしいいぞ!あっちだ!」


ハイヨーと勢いよく馬を走らせるナナ。

片手にシャベルを持っていたため危うく落ちそうになったが、ナナの体になんとかもう片方の手でしがみついて事なきを得た。


ドモンは道の先を注意深く観察する。

今はこの新しく付いた馬車の跡だけが頼り。

ほんの少しの異変も見逃すつもりはない。


ドモンはパチプロ時代、0.1ミリの釘の変化も見抜いた。

それも横の台と比べるのではなく、前日記憶した同じ台の釘との比較。

ドモンの頭には数百台の釘が記憶されていて、それと比べていたのだ。


パチンコで食っていくには当然必要なスキルであり、当時のジグマと呼ばれるプロはみんな同じ事をやっていた。

その時のことを思い出しながら、ドモンは道についているいくつもの馬の蹄と車輪の跡から、一番新しいものを選別して観察する。高速で移動する馬上で、ナナにしがみつきながら。



「ここだ!静かに止まれナナ!」

「わ、わかったわ」


そっと馬を止めドモンが降り、落ちていた吸い殻を拾い上げた。これもドモンが吸っていた銘柄のタバコ。

車輪の跡が道からそれている事も改めて確認。


「ナナはここで待機していてくれ。見つからないように覗くなら俺ひとりの方がいい。俺は足音が出ないんだ」

「気をつけてよ?本当に」

「ああ、すぐ一度戻るから」


そう言ってシャベルを置いて、森の中へと忍び込むドモン。

数分ですぐに戻ってきたドモンを見て、ナナはホッと安心した。


「見つけた。ただ・・・」

「えぇ?!サンだけじゃないの??」


道の真ん中にトマトをひとつ投げつけ矢印を書き、目印を付ける。


「ナナ、馬を木につないできてくれ。すぐに紐を解けるようにしておいて、いつでも逃げられるようにしておけよ?」

「わ、わかったけど、グラさん達を待ってからの方がいいんじゃないの??私達で勝てそうなの?」

「多分そこまで待てない。逃げられるかもしれないからな。そして恐らく俺らだけでは勝てない。なんとか引き止めて時間を稼ぐしかない」

「どうやって引き止めるのよ、勝てないくらい強そうなんでしょ??」


不安そうな顔で馬を繋いだナナ。

タバコに火をつけたドモンが空に向かい、大きく煙を一度吐く。


「ナナにはここで死んでもらう」

「え???」


そう言ってシャベルを担いでナナの腕を引っ張り、森の中へと入っていった。





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