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第167話

「無理無理無理!!む~りだってば!!」


ドモンのそんな様子にキョトンとする一同。

ゴブリンの男達が抱えてきたのは、全長2メートルはある猪。

何か物にその大きさを例えるならば、大体電話ボックスくらいの大きさ。


太い棒に足を紐で結び、かご屋のように棒を肩に背負って四人がかりで運んできたのだ。


「ムーリー!!」

「アハハ!ドモンが無理って言うなんて、なんだか珍しいわね」


腰を抜かしたドモンにナナが大笑い。

ゴブリン達もドモンの意外な姿に驚きを隠せず、ヨハンやグラにまで笑われた。


「だって俺・・・都会っ子だもん。すでにお肉になっていれば料理は出来るけど、解体は出来ないんだよ・・・」とドモンはしょんぼり。

話を聞けばナナも冒険者として、下手くそだけれども一応解体が出来ると聞きドモンも驚いた。それにはヨハンやエリーも驚いていた。


「ドモン様!僕出来るよ見ててー!」とドモンから貰ったナイフで解体を始めようとするゴブリンの男の子。


「待ってぇ!命を頂く為の大切なことだってのはわかってるんだけど、俺にはまだ無理みたいだ~うぅ~」

「ご、御主人様こちらへ!皆さんごめんなさい!あとはよろしくお願いします!!」


辛そうなドモンの手を引き、サンが慌てて馬車の中へ連れて行った。


「うぅぅ~」

「大丈夫ですか?御主人様・・・」


馬車の中の椅子に座ったサンの膝枕に頭を乗せ、お尻にしがみついて情けなく震えるドモン。

男の子が躊躇なく血抜きを始めた様子が頭にこびりつき、もう離れない。


小さな頃に見た何かが頭の中にフラッシュバックするが、それが何かはわからない。

何かは分からないが、それがドモンのトラウマであることは確かであった。


「大丈夫ですよ?怖くなくなるまでサンがずっとそばにいますから」

「うぅ~ん」

「ごしゅ・・・ドモンさん・・・」

「う~ごめん・・・」


見たことがないドモンの情けない姿に、サンの感情は突如爆発した。

サンにしがみついているドモンを無理やり仰向けにし、覆いかぶさるようにドモンの唇を奪う。


「ああ~好き!好きよ好き!大好き!どんなあなたでも全て愛おしいの!」

「サ、サン?!」

「ふーふーふー!食べちゃいたい!」

「うわぁ?!」


ドモンの頭を膝枕から下ろし、ドモンの上に跨って服を脱がせるサン。


「ジタバタしちゃだめ!めっ!言うことを聞いて!!」

「う、うわぁぁ!!」

「サン!何をしているのよ?!」


ドモンの叫び声を聞いて、ナナが馬車に飛び込んできた。


「誰も邪魔しないで!うー!」

「どうしたのよ?しっかりしなさいサン!」


ナナがサンを羽交い締めにして、ようやくサンが落ち着きを取り戻す。


が、弱っているドモンを見たナナが、今度はドモンに襲いかかった。

ドモンはまた叫び声を上げ、次はジルと長老もやってきて、同じ様にドモンに襲いかかる。



その様子はまるで餌に群がるカラスのよう。



自業自得。

無理矢理女性を手に入れてきたドモンの、完全に自業自得である。


元の世界でもドモンは同じ経験をしたことがあった。


車の事故で脚に障害を負い、身体も心も弱っていた時の事。

見舞いに来た女達がかち合い、ドモンの奪い合いとなった。

それは幸せな、ハーレム的なモテ方などではなく、今回のような餌の奪い合い。


結局ドモンは全員から逃げて別の女性の元へと逃げ込み、その後その女性からも逃げ、気があって面倒見が良い優しいケーコの元へと転がり込んだ。

ドモンはケーコの餌になることを選んだのだ。



ケーコがドモンを痛めつけ、弱らせ続けていた理由はそこにあった。

当然、ケーコは無意識である。

ドモンを愛しているためだったはずが、自分のものにし続けるためにドモンを弱らせ続け、そうすることで満足感を得ていたのだ。ただし理性が罪悪感と嫌悪感も与えてくる。



異世界に来てからもまずナナがそうなり、サンもこれからそうなろうとしていた。



馬車の中のおかしな様子に気がついたザックやヨハン、そして騎士達が止めに入り、ようやく騒動は収まった。

その様子を見ていたグラは唖然呆然。

みんな馬車から出され、最後にタバコを咥えたドモンが出てきたが、その手はガタガタと震えていて、普段のあのふてぶてしい態度のドモンはどこへやら。


「だ、大丈夫かい?ドモンさん」心配そうな顔で近寄ってきたエリーにドモンは一瞬ビクッとしたが、唇を震わせながらニコリと笑って返す。

「しっかりしろドモン。猪肉の処理はもう全て終わったぞ」とグラがドモンの肩を支えた。



ドモンはそんな自分を客観的に見て、なぜか可笑しくて仕方なかった。そしていつものようにドス黒い何かを必死に抑え込む。



「ドモン様ごめんなさい・・・ドモン様が獣の血が苦手だって僕知らなくて」と男の子。

「こっちこそゴメンな。どうしても苦手みたいなんだ。自分の血なら平気なのになぁ」とドモンが男の子の頭を撫でる。


「具合の方はいかがですか?」とゴブリンの女性達にも心配され、「ああ、もう平気みたい。心配かけてすまないな」とドモンは頭を掻いた。

長老の様子もおかしかったため、ゴブリン達は何があったのかを聞きたかったが、ドモンの顔を見てそれ以上詮索するのを皆やめた。



「さあこの肉を使って鍋を作ろう。ぼたん鍋って言うんだ。ヨハン、手伝ってくれる?」

「ああ任せとけ。でもしっかり作り方を教えてくれよ?俺は何もわからねぇからなハハハ」


ふぅと深呼吸をしたドモン。

ナナ達はまだボーッとしている。


大きな鍋に水と酒とみりん、味噌や生姜を入れて味を整えていく。

それを見たヨハンが真似をして、別の大きな鍋を作る。


「この中に薄く切った肉と長ネギ、あと食べられそうな野草があったら入れてくれ。どんな味になるかはわからないけど、それもまた楽しいからさ」

「はい!」


ゴブリンの女性や子供達が野草を取りに森の中へ、騎士達が切れ味の鋭いナイフで肉を薄切りに。ヨハンは更にもうひとつ鍋を作りはじめる。

その間、ドモンは大学いもとかぼちゃの煮物を持って、ナナ達の元へ。


「ナナ?サン?ジルと長老も、これ食べてみてよ」ドモンが微笑む。


「ドモン・・・ゴメンね。私また・・・」

「ご、御主人様!うわぁぁん!」

「いいからほら、食べてみてくれ」


ぐったりしてるナナと混乱しているサンにドモンが食べさせた。


「ん!!あ、甘くて美味しい・・・美味しいよドモン!」

「美味じいですぅぅぅ!うわぁぁぁぁん!!」


モグモグと口いっぱいに詰め込みながら、ナナとサンがドモンに抱きつく。


「ごめんなさいドモン様、こんな私なんかにまで」

「本当になんと申したら良いのやら・・・」


気まずそうなジルと長老も味見。


「すごい!あ、あの芋がお菓子になっちゃった?!」

「まあ!かぼちゃがどうしてこんな味に??あの不思議な調味料のおかげでしょうか?口の中が幸せですドモン様・・・」


ジルと長老はあっという間に明るい顔になり、元気を取り戻す。

それに釣られるようにナナとサンも徐々に元気を取り戻していった。



ニコニコとドモンは皆に笑いかけ、ほっと胸を撫で下ろす。


胸を撫で下ろしながら、自身の身の上に起きていることを少しずつ頭で整理していく。

『自分が弱っている時に女性達に襲われている』とドモンは今回のことで確信した。



入院していた時もそうだし、先日倒れた時も例のキノコを食べさせられて、ナナとサンの二人に襲われたが、それも今回のようなことだったのではないか?

集団暴行にあって怪我をしたあとひとりで出かけた時、ナナが怒り、ほぼ裸のような格好で追いかけてきたのもそうだったのかもしれない。


ドモンに好意を持つ女性達が徐々に暴力的になっていく理由は、自分の獲物を弱らせるためなのではないか?


弱らせて、自分の手元に置いておく。ドモンはそう感じていた。

ドモンが捕食者のような立場の時は、彼女達は自らドモンの餌となり、ドモンが弱ると立場が逆転する。

鷹はカラスを襲うが、鷹自身が弱った時、今回と同じ様にその立場は逆転するのだ。


自分自身の事を捕食者だと思ったことはないけれど・・・とドモンは考えていたが、ふとナナを初めて押し倒した時の自身の言葉を思い出し、ドモンは寒気がした。




『いただきま~す』




しっかりと言ってるじゃねぇか・・・と、ドモンは苦笑い。


ご飯を食べる時、無意識に手を合わせていただきますをして食べ始めるような、そうしなければならない、そうしなければなんとなく気持ちが悪くなるといった感覚。

きっと弱ったドモンを襲った女性達も同じで、それをするのが当たり前だと思っているのでは?とドモンは推測する。



なぜこれらの現象が起きているのかは結局さっぱりわからなかったが、とにかくこれからはなるべく弱っているところを見せられないとドモンは気を引き締め直し、タバコに火をつけた。


「おお~いドモンよ!鍋が出来たみたいだ。そろそろみんなで『いただきます』しようぜ!!」


ヨハンの声にドモンはドキッとしたが、ドモンは弱気になることなく「ああ今行くよ!」と返事をして、精一杯の笑顔で振り向いた。





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