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第165話

女性陣と入れ替わりでドモン以外の男性陣が温泉へ。


「これはすごいな・・・エリーが少し若返ったように見えていたが、ドモンが言う通り『魔法の湯』なのかもしれないな」

「し、信じられん・・・!」


服を脱ぎながら、温泉の全容を眺めながらヨハンが感嘆の声を上げ、グラは絶句する。


温泉はドモンの指示通り、大きめの石で湯船を囲みつつ、温泉の中にも敷き詰められ、旅館にある露天風呂のようにきれいに整えられていた。


「しかしグラさん、男同士で風呂に入るのは流石に勇気がいるというか・・・ハハハ」

「ドモンが言うにはそれが『裸の付き合い』と言うんだそうだ。俺も初めは抵抗があったが、一度慣れてしまえばどうということもない上に、なかなか楽しいものだぞ?」


少しまごついているヨハンや御者達に説明をしながら、さっさと服を脱ぐグラと護衛の騎士達。

騎士達も屋敷の新しい風呂は体験済みで、もうすでに慣れていた。

屋敷の別棟に、新たに騎士や御者など専用の大風呂も作る予定となっている。


ちなみに屋敷の中に女性用の風呂も用意されることになったが、こちらはドモンの意見を聞きたいということで、ドモンが帰還するのを皆が待っている状況。



「風呂に入る前に体を一度流すのだぞ?風呂の中にタオルを入れぬのも当然のマナーだ」


得意げに説明するグラだったが、当然全てドモンからの受け売りである。

ただ得意げに語っていた割に、まだ風呂の熱さには慣れておらず、結局「アチチチ!あっつぅ!!」と湯船に入ったのはグラが最後であった。


「いやぁこれはなんとまあ・・・」ザブザブと温泉で顔を洗うヨハン。

「何なんだこの湯は?!」グラも顔を洗った。


お湯に触れた感覚はヌルヌルとしているのに、その湯で擦った肌がサラサラになっていく。


「こりゃあ長老もあの色気になるわなぁ。グラさん聞いたか?あの長老、ドモンよりも歳上だって」

「えぇ?本当かそれは?!ってことは兄さんよりも歳上なのか・・・」


「なんでもドモンが言うには、この湯を朝に数滴顔に塗って伸ばせば、一日肌に艶が出て若返るんだそうだ」

「まあ確かに・・・随分と艶は出ているな」


そう言ったグラがヨハンの頭をじっと見て「おい!」とヨハンが自分の頭をペチンと叩くと、騎士と御者達がゲラゲラと笑った。

そこへサンとジルがお盆の上に何かを乗せて、皆の元へとやってきた。


「皆様~、御主人様が珍しいお酒をご用意してくださりました」とサン。

「なんでも、このお盆をお湯に浮かべて飲むそうです」とジルが続ける。


「御主人様の国にあった温めて飲むお酒だそうで、原料は御主人様の国のお米から作ったお酒らしく、名前は『日本酒』と言うそうです。この小さな入れ物に入れながら、少しずつ飲んで欲しいとおっしゃられていました」


サンとジルが説明を済ませ、お銚子二本とお猪口を五つほど乗せたお盆をふたつ、温泉に浮かべて去っていった。



「温かい米の酒とは珍しいな」とグラ。

「まあドモンが用意したならまず間違いはないか」とヨハンが皆のお猪口に酒をお酌していく。


少しずつ飲めと言われていたが、ショットで飲むように一気に飲み干してしまったグラ。


「ぐはぁ!くぅ~!」

「キツい酒なのですか?」


飲むなり声を上げたグラに、騎士がお猪口を手に持ったまま質問。

あまりにキツい酒を飲んでしまうと、護衛の仕事に支障が出てしまうかもしれないと警戒した。


「いやこれは・・・キツいというか温めてあるからだな。もうこれは飲んでみろとしか言いようがない。ただ俺のように一気に飲むものではなかった」


それを聞き、ちびりちびりと飲む一同。

まだ昼過ぎで、太陽の光が木々の隙間を通して燦々と注ぐ中、湯に浸かりながら皆空を見上げる。


「はぁ・・・」

「これは最高ですね」

「昼もいいけど、夜は星が見えて最高だろうなぁ。ドモンが温泉が恋しいと言っていた訳がわかったよ」

「買い出しに行ってとんでもない宝を見つけたなあいつは・・・」


ほろ酔いで赤い顔になりつつ皆で語る。

そこへ「皆様、湯加減の方はいかがでしょうか?」とザックがやってきた。


「少し熱いけど俺は気持ちいいよ。ええとザックさんと言ったかな?」とヨハン。

「お、おやめ下さい!呼び捨てで結構でございます!ドモン様に私が怒られてしまいます・・・」


「一緒に入ったらどうだ?」とグラ。

「わ、私がですか?!滅相もございません!!私は魔も・・・ゴブリンですし」

「ザックよ、こんな時ドモンはなんと言うか考えてみろ」

「・・・・はい」


グラのその言葉にザックも服を脱ぎ、申し訳無さそうに温泉に入る。

すぐにヨハンにお酌をされ、お猪口を持つ手がガタガタと震えてしまった。


「ドモンが世話になったな」とグラ。

「ち、違います!!お世話になったのは私達の方でして、私達にとっては救世主のような御方でございますよ!!」大慌てで否定するザック。


「ドモンが救世主だって?そりゃ俺も鼻が高いなハハハ」と笑うヨハン。

「いえ本当に・・・ドモン様、そしてその御家族や関係する方、それに俺・・・私達とこの様に接してくれる方々、皆さん・・・」


言葉が詰まる。

ゴブリンにとっては夢のような出来事であり、これまでは考えられるはずもない事。



イジメや差別なんて言葉では生温い。

人と出会うだけで、ただ虐殺され逃げ続けていたのだ。



ザックの言葉が詰まったことで、逆にその気持ちが全員によく伝わることとなった。


「すべての人を理解させるのはまだ難しいだろうが、俺もドモンに協力することを約束する。そして今まで本当にすまなかった」

「いえ!そんな・・!う・・うぅ・・」


グラの心からの謝罪を受け取ったザック。

殺されていった親や友人達の顔が頭に浮かんだが、その顔は皆嬉しそうに笑っている。

今までは頭に浮かぶその顔も、ずっと苦しそうで悔しそうな顔をしていたのだ。


あの時ゴブリンの皆を説得して、殺されてもいい覚悟でドモンの前に向かう選択をして本当に良かったと心から思うザックであった。




その頃ドモンは何を作ろうかと頭を悩ませていた。

この人数に米を出してしまうと一気に消費してしまうし、食材も大量に減ってしまう。

しかし盗撮した謝罪のために、女性陣を大いに喜ばせなければならない。


「う~ん、女が喜ぶもの、女が喜ぶもの・・・女女女・・・」

「ちょっとドモン!あんた何考えてんのよ!妙な声出てるわよ!」


「え?そりゃスケベなこと・・・じゃなくて、みんな合わせて70人前近く料理をするには食材が足りないし、さっきのことで女達には特に詫びないとならないだろ?だから悩んでるんだよ」

「・・・荷馬車もそろそろ到着するみたいだからもっといるわよ?ふあ・・・」


危うくナナに怒られそうになりかけたドモンだったが、なんとなく手を繋いだ結果、思いの外ナナが嬉しそうな顔を見せ、なんとか誤魔化せた。

ナナは突然ドモンが恋人のように手を繋いできて、何故か心臓のドキドキが止まらなくなった。


「ちょっとゴブリン達に食材がないか聞いてこようか」

「待ってドモン、手を離しちゃイヤ」

「でもずっとこうしてるわけにもいかないだろう」

「もう少しだけ!ね?いいでしょ?」


ふたり、赤い顔をしながら手をつないで長老達の元へ戻ると、サンがむぅっとした顔で二人の前へとやってきた。ジルはキョトンとした顔でついてくる。


「馬車の中で何をなさっていたのですか・・・う~」

「ほ、本当になんにもしてないわよ!手を繋いで歩いてきただけ。サ、サンもやってごらんなさいよ。ねえドモン、少しだけサンと手をつないで歩いたげて?」

「え?」

「じゃあ仕方ないな」


サンの誤解を解くために、なぜか今度はサンと手をつないで散歩することになったドモン。

サンとも恋人のように手をつないで歩き始めると、サンの顔がこれ以上ないくらいに赤くなっていく。

馬車の周りを一周して戻っただけだけれども、なぜかサンは着替えることとなった。


「あれ?サンどうしたんだ?馬車に走っていっちゃった」

「し、仕方ないわよ。気持ちはわかるわ・・・」

「手なんていつも繋いでいるだろうに」

「ドモンの方から繋いでくるなんて珍しいからよ・・・もう!私も着替えてくる!」


取り残されたドモンとジル。

なんとなくジルとも手をつないで長老の前へ向かうと、ジルまで赤い顔をして着替えに行ってしまった。



実はこれもドモンが持っていた特殊な能力であったが、ドモン本人も全く知らず気づかず、唯一ゴブリンの長老だけが手をつないでスキルを調べた時に、少しだけ感じ取ったドモンの力であった。




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