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第162話

出発してから数時間。

荷物を積んだ分だけやはり速度は落ち、まだゴブリンの村は見えてこない。

昼過ぎに一度休憩を取り、再出発。


元々ゴブリンの村で一泊して温泉に入る予定なので、それほど急いではいない。

ドモンはナナの太ももを枕にしながら酒を飲み、ウトウトしていた。


「ジル、もうそろそろ着きますか?」とサン。

「うん、向こうの山の麓だよ。ほらあの森」とジルが指を差す。


この調子だと、あと二時間ほどで到着する。

ナナはドモンとおしゃべりをしたかったが、なんだか少しだけ苦しそうな顔をしていたのでそのまま寝かせることにし、左のこめかみにある傷跡を優しく撫でていた。


ドモンの手をよく見ると、小指が妙な形に曲がっている。

ナナはそれが何度も折られていたためだと気が付き、その手も撫でた。

ドモンは幸せそうに微笑みながら寝ていて、それがまたナナを悲しくさせた。



ガタゴトと音はするけれど、当然新型馬車は揺れておらず、馬車は快調に、だがゆっくりと進む。

高く昇った太陽。

まだ暑さは残るけれども、窓を開けると時折涼しい風が入ってくるのが気持ちいい。



「風鈴が鳴らないなぁ」とドモンの寝言。



ドモンは自分が育った祖父母の家の夢を見ていた。

詐欺にあって騙され、家も土地も奪われた祖父母の家。


ある日学校から帰ると、黒いスーツを着た柄の悪い男達が土足で家に上がり、祖父や祖母となにやら言い争いをしていた。

その時、小学生のドモンをその男達が思いっきり蹴り飛ばしたことで祖母が泣き、祖父はついに観念して判子を押し、土地と家を手放すこととなった。



その家の窓辺で風に揺れる風鈴を見ながら、サイダーを飲んでいる夢をドモンは見ていた。



騙される方より騙す方になりたいだなんて思わない。

でももう騙されるのは嫌だ。


そうしてドモンは詐欺師の手口を学んだ。騙されないようにするために。

だが気がつけばそれを都合よく利用して、いつしかドモンは詐欺師と呼ばれるようになっていた。


ミイラ取りがミイラになったのではなく、これじゃミイラがミイラ取りになっただなとドモンは笑う。

ニコニコと笑顔で寝ているドモンの目から、一筋の涙が流れ落ち、ナナは思わずドモンの頭をギュッと抱きしめた。


「ふがふが・・・く、苦しい!!ぶはっ!!」

「ご、ごめんなさい!つい・・・」

「いやまあナナのおっぱいで死ねりゃ本望だよ」

「今日もまた・・・泣いてたよ?」

「ん?ああそうだったか」


ドモンとナナのいつものやり取りに、サンもようやく慣れてきた。

ドモンは当時の事を笑い話のように話していたが、ナナとサンの心には深く刻まれている。


「自分みたいな人がひとりでもいなくなるようにって、御主人様は願っているの」

「だから私達にも優しくて、あの時サンのことをあんなにも叱ったのね」

「うん・・・御主人様は優しいの」


ジルだけに聞こえるような小声で語るサン。

馬車はガタゴトと進み続ける。



「あれ?あれってもしかして??」

「どうしたサン」


起き上がったドモンが窓越しに話しかける。


「先に出発した馬車だと思います」とジル。

「あらま、追いついちゃったのか」

「あっちも荷物があるから更にゆっくりだったのね」


ドモンに後ろからしがみつきながら、ナナも御者台につながる窓から先を覗いた。


「それにしたってあんなに前に出発したのにハウゥゥッ!きゅ、急になにすんのドモン!」

「ナナがおっぱいをぎゅうぎゅう押し付けてくるからつい我慢できなくなっちゃって」

「あらごめんね。ほらドモン、おいで?」

「お・く・さ・ま!!うーっ!!」


御者台の真後ろでなにやら始めそうな雰囲気のふたりに怒るサン。


「仕方ないじゃない。ドモンが我慢出来ないって言うんだもの」

「奥様が無意識にそうさせてるんです!御主人様のと一緒です!」

「そんなことないわよ」

「あるよ!」「あります!」「あると思います・・・」


サンに反論したものの、全員に即否定されて驚くナナ。

ナナは自分の胸の破壊力を理解していない。


一人の男の人生を壊そうと思えばすぐに壊せるほどの破壊力。

ドモンも本来ならば今頃檻の中だったはずである。


「まあとにかく今はスケベなことは後回しだ。温泉でジルとズッポシしなきゃだし。それよりも荷馬車に追いついたら一旦止めてくれ」

「え?!」「えぇ?!!」「ちょっとドモン!!」

「あれ?向こうの世界から帰る前にサンやジルを抱いてもいいって言ってたよね?それにジルからは出会った時に抱けって言ってたしさっきも・・・」

「あれはた、例え話よ!!」「そ、そうですよ・・・でもまあ・・・」「次はサンって・・・うぅ」


ギャーギャーと騒ぐ女性陣に「冗談だってば」とドモンが笑っているうちに、馬車は荷馬車に追いついた。

ドモンが降りてきたのを見て、荷馬車も停止。


「おーい大丈夫か?」

「はい、順調です。荷物があるのと隊列を組んでいるので少し速度は遅くなってしまいましたが、この調子で行けばあと一時間もあれば到着するかと」

「それよりもワシ達にまで豪勢な食事をありがとうごぜいました。昨日の晩はたらふく食ってぐっすり寝やした」

「いやいや、こちらこそ大変な仕事押し付けちゃって悪いな」


ゴブリン達の荷物を受け取って先に村へ向かおうと思っていたドモンだったが、一時間もすれば到着するということで、一つの箱だけを受け取り先に進ませてもらうことになった。



「ドモン、これは何なの?」

「ゴブリンの子供達へのお土産だよ。中身は着いてからのお楽しみだ」


ナナとドモンの会話を聞きながら、ジルが「本当に優しいね」とサンに向かって囁くとサンはニコっと笑った。


馬車がゴブリンの村に到着すると、ドモン達を予想外の人物が待ち受けていた。




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