第160話
今度は男達と風呂に入りながらドモンは思う。
自分の思うままになる事とならない事。その差は何なのか?
全てが思うままに都合よく物事が進むならば、こんなに怪我をしたり暴行を受けたりするはずがない。
どっちにしろ、幸福と不幸の差がドモンの場合あまりに激しすぎる。
まるで誰かに弄ばれているような感覚。そんな事を考えながら、気持ちの良い夜風を受けて深くため息をついた。
「私も一度くらいは経験しときますか」
「こんな機会はあまりないですからな。まあここだけの秘密ということでハハハ」
ザックが何度もすべり台を滑り「ウオオオ!!」と声を上げて喜んでいるのを見て、御者と騎士もすべり台へ。
自身が思うよりも速く感じたらしく、御者は大きな叫び声をあげ、騎士は歯を食いしばって目を瞑り、ドボンと落ちた。
それを見てザックが爆笑している。
「あんまりはしゃいで滑りすぎるとお尻を擦りむくぞザック」
「確かに少しだけヒリヒリしてきました」
「どれどれ見せてみろ?ああ、こりゃもう手遅れだワッハッハ」
「えぇ?!」
その結果、兄妹揃ってお尻に薬草を塗ることになった。
薬草はザックが持ってきていたもので、すり潰してペースト状になっている。
ゲームに出てくる薬草は、一体どうやって使っているのかが不思議だったが、ドモンはそこでようやく納得した。ずっと食べて怪我を治しているものだと思っていたのだ。
そしてザックがなぜ薬草を持ち歩いているのかと言えば、魔物にポーションが効かないためであった。
以前店で話し合っていて、ドモンが『今日からみんな俺の事は魔物だと思ってくれ』と発言した時、皆別の意味で必要以上にドキリとしたのは、ドモンにポーションが効かなかった為だ。
その考えが頭に浮かんでは必死に打ち消し、たまたまそういう人間もいるのだと全員が思うようにしていた。
「サーン!もう少し優しく塗ってよ~!!」
「優しく塗っています。あんなにはしゃぐからですよ?」
「・・・サンの方がはしゃいでいた気がするんだけど・・・イターイ」
お尻を出してテントの中にうつ伏せに寝るジル。
真横にちょこんと座ったサンが、ザックから受け取った薬草を塗っている。
「もう~うるさいなぁジルは。じゃあ御主人様に塗ってもらいましょう。御主人様~!」
「え?え?ヤダヤダ!擦りむいたお尻なんて見せられないよ!!」
「だめ。だってもう御主人様来たもんウフフ。御主人様、ジルのお尻に薬草を塗ってあげてください。私がやると文句ばかり言うから」
「どれどれ・・・いやこれは誰が塗っても痛いはずだよ。真っ赤だお尻」
「うぅ・・・」
恥ずかしさで違う意味で真っ赤になっていくジル。
「俺が塗っていいのか?」
「え・・・えぇ・・・誰が塗っても一緒なら、もう御主人様が思い切って塗ってください」
「じゃあそのまま膝を立てて四つん這いになって」
「え?」「えぇ?!!!!」
ジルよりも大きな声で驚きの声を上げたサン。
「その方が塗りやすいし、というかうつ伏せの時点でもう全部見えてるから今更だろ」
「ヒィィ」
「ほら早く」パチンとうっかり腫れてるお尻を軽く叩いてしまい、「あぅぅ!!」と絶叫しながら、ジルが慌ててお尻を突き出した。
「あら?こんな内側まで擦りむいちゃって。はいヌリヌリと」
「ハァアアアン!!恥ずかしいぃぃぃ!!!」
「よしハイ終わり。乾くまでの間、少しうつ伏せのままお尻を出していろ。下着はまだ駄目だぞ?薬が取れてしまうからな」
「まだ駄目なのですかぁうぅぅ」
両手で顔を覆い隠し、羞恥で失神しそうなところを必死に堪える。
向こうのテントでは、ナナに薬草を塗られたザックがうっかり元気になってしまい、騎士と御者にゲラゲラと笑われていた。
「お許しください!ドモン様にはご内密に・・・くぅ」と謝罪していたが、全て丸聞こえである。
「ご、御主人様!サ、サンもおくすり塗ってください・・・」
「サンは擦りむいてなかっただろ」
「うー!ジルばっかりずるぅい!!グス」
「ジルがこんなになってるのを見て何がズルいっていうんだよアハハ」
ドモンが買ってきた子供用のネグリジェを脱ごうとしながら、ワガママを言いだしたサンの元へナナがやってきた。
「もう、サンは何をして欲しいのよ?たまにわがまま言い出すんだから」
「お、奥様!いえ!あの・・・」
「正直に言ってごらん?ドモンに甘えたいの?」
「あの・・・えっと・・・」
実はサンにもよくわからなかった。
ドモンからされて嬉しかったことは、お尻を叩かれて躾をされたこと、みんなの前で服を破かれたこと、普段優しいドモンが意地悪なことを言ってきたり、実際に意地悪してきたりすることなど。
何故嬉しく思えるのかがよくわからないまま、ずっとそれらを欲していた。
「要するにドモンに辱められたいわけね?」
「は、辱め・・・ふーふーふー」
「あら?図星みたいよドモン」
サンの反応を見てナナが笑う。ドモンは困った顔。
横にいるサンの顔を見て、ジルまでなんだか気持ちがムズムズ。
「まあサンの気持ちもわからなくはないわよ。きっとジルだってこの日のことがもうずっと忘れられなくなるんだから」
ナナの言葉にドキッとするサンとジル。そしてドモンも。
ナナ自身もそうだったのだ。ドモンに押し倒された時のこと、そしてドモンがしたイタズラや意地悪なことが忘れられない。
「わ、私は引っ込み思案の恥ずかしがり屋で、そんなことはなかったんですけど、うぅ・・・」
「それは私もよ?大きな胸が目立つのが嫌で、街を歩く時はいつもコソコソしてた」
共にドモンに出会って劇的に気持ちが変化していた。
ナナの胸が大きいことは店の常連しか知らなかったくらい、それまでナナは隠して生きてきた。
「どうしてこうなってしまったのかはわかりませんが・・・私はそうしたい・・・御主人様に辱められたいのです・・・うぅぅ」
ジルは今、痛いほどサンの気持ちがわかっていた。
もう一度、ドモンに薬を塗ってもらいたくて気持ちがたまらないのだ。
「それはね・・・長老さんも言っていたんだけど、ドモンがそうしたいってことを私達がしてあげたいと思ってるのよきっと」
「・・・・」
ナナの言葉に言葉をなくすドモン。
全てはドモンが思うままに。
「それが私達はとっても嬉しいし、興奮するようにドモンに調教されたのよ。ね?ドモン」
「いや、ちょ、調教って」焦るドモン。
「調教!」「調教!!」
調教という言葉の響きになぜか大興奮するサンとジル。
ジルは思わずドモンに向かってお尻を高く突き上げ、ナナがパチンと叩いた。
サンも真似をして、ドモンに叩かれ大満足。
「でもねドモン、やりすぎたら分かっているでしょうね?」
「は、はい・・・」
ナナに釘を刺されドモンはしょんぼり。
「やっぱり思うままにならないことも多いなぁ」とぶつぶつ文句を言いながら、狭いテントに四人がギュウギュウ詰めになって並んで眠りについた。