第155話
クーラーボックスに一週間以上はたっぷり食べられるほどの食材を残し、残りを馬車へ積み込む。
ジルや他のゴブリン達の服を積み込むと、ジルが乗る席がなくなり、騎士と一緒の御者台に並んで座ることになった。
「御主人様!また・・・また会えますよね?」
「ああ、すぐに会えるさ。俺達も帰りに村に寄るし、それに温泉には何度も通うつもりだからな。みんなとしっぽり入らねばならん。もちろんジルともな!」
「こらドモン!」
御者台から叫んだジルに片手を上げながら、そう言ってニッコリ笑うドモン。
当然のようにナナに怒られた。
「ウフフ!楽しみにしています!じゃあ奥様!サンも!気をつけてね!」
「はーい!ジルこそ気をつけてね!騎士様よろしくお願いいたします!」
馬車に駆け寄り、ジルと騎士に挨拶を済ませるサン。
「頼んだわね。あとお願いなんだけど、ひとりはゴブリンの村の護衛に・・・」
「ええそれはもちろん!二度とあのようなことはさせるつもりはありません。この命に代えてでも!」
ナナの言葉に深く頷く騎士。
その意図はしっかりと伝わっている。
「じゃあ御者も気をつけてくれ。今度夜道でも走れるようなしっかりとした照明を作るよ」
「そりゃぁ嬉しいですね。是非お願い致しまさぁ」
今の馬車はランタンのようなものを御者台の前方にぶら下げているだけだった。
これに関してはドモンも失敗をしたと後悔した。
「では行きます!ハイヨ!」
「ハイヤー!」
パカパカと馬が走り出し、徐々に馬車の音が聞こえなくなっていった。
「さて、しばらくは三人だけだな」
「そ、そ、そうね!ふぅ暑いわ・・・もうすぐ秋だというのに」胸元をパタパタと扇ぐナナ。
「みんなお腹は膨れたか?」
「は、はい!サンはもうお腹いっぱいです!少しお腹が出てしまったかもしれません。服がキツいです」
ドモンの言葉になにか様子がおかしいふたり。
「んじゃ片付けでもして洗い物をしよう。ナナ、結界魔法はかけてるんだよな?」
「かかっているわよ!私じゃなくて騎士の人が私よりも強力な魔法をかけてくれたから、虫も近寄ってこないでしょう?」
「言われてみれば虫がいなかったな。さすがナナとは違うな」
「わ、私だって結界魔法は得意だってば!ちょっとだけ騎士の人の方が強力だっただけよ」
「ふぅん・・・怪しいなハハハ」
焚き火の前でおしゃべりしながら片付けをし、サンが桶に水魔法で水を入れ、ジャブジャブと洗い物。
「そうだサン!これ使ってみてよ。スポンジと食器洗剤。油汚れがよく落ちるから」
「え?洗剤があるのですか?!」
「確か屋敷にもあったと思うけど、こっちの方がよく落ちると思うよ?」
「かしこまりました!」
泡立ててジャブジャブと食器を擦ると、「わぁぁ!御主人様!本当によく落ちます!た、楽しい!!」とニコニコのサン。
「ニオイもいい匂いね」とナナも少し手伝いながらクンクンしている。
ちなみにナナは洗い物が苦手だった。
すぐに胸がビッチャビチャになってしまうからだ。飛び出し過ぎ注意。
「石鹸で思い出したけど、ボディーソープとシャンプーも買ったんだったな」
「なにそれ?」
「体用の石鹸と、髪の毛専用の石鹸みたいなもんだよ」
「へぇ!」
サンとナナはそう返事はしたものの、実際の物を見ていないのであまり実感が湧いていなかった。
「じゃあ早速使ってみようか?風呂に入って」
「は?ここで?髪を洗ったり体を拭くんじゃなくて??」
「ちょっとした簡易風呂のようなものを買ったんだよ。サン、大きな鍋でたっぷりのお湯をいくつか沸かしてもらえる?」
「は、はい!」
ゴソゴソとダンボールを漁るドモン。
その中から四角い形のビニールプールを取り出した。
子供用ビニールプールよりも大きくて丈夫な、海外で売られているビニールプール。ちょっとした小さなすべり台も付いている。
電動ポンプが使えないのと、足踏みポンプだけじゃ辛いのを見越して、自転車用の空気入れも買った。先端のアジャスタを変えれば使えるということも店員に聞いていた。
「なになに!何よこれ!?」
「水を入れて遊ぶものなんだけど、それをお湯にすれば風呂になるってわけよ」
「す、すごいです・・・」
ドモンの左右でキョトンとするふたり。
出来上がりの写真も消えてしまっていたので、それでもまだよくわかってはいない。
火にくっつかないように焚き火から少し離れた薄暗いところでドモンがシュッシュ!と空気を入れると、少しずつ少しずつ膨らんでいく。
「どうなるの?!ねえ!ドモンってば!!」
「御主人様!サンが代わります!」
「何よサン!ズルいわよ!私がやるぅ!!」
「奥様は見ていてください!サンがやる!」
大変な労働だというのに、まさかの空気入れの奪い合いに。
結局サンとナナが交代交代で空気を入れることになった。
「す、すごい!!すごいすごい!!」サンがぴょんぴょんと跳ねる。
「ありゃ?これは思ってたよりも随分でかいぞ」とドモンが頭をかいた。
「ふぅ!ふぅ!ねぇドモン!横のこれは何??」と言いながら、ナナが空気をせっせと入れ続ける。
「ああ、これはすべり台だよ」
「すべり台って?」
「こっちにはないのかな?お尻でシューって滑ってお風呂にドボーンって入れるようになってるみたいだな」
「わああ!!!奥様もう代わってくださぁい!サンがやるぅ!!」
そうしてついに出来上がったビニールプール。
異世界の森の中にはあまりにも不釣り合いな見た目で、ドモンだけが思わず吹き出した。
「こ、これに水とお湯を入れていくのですね?私の魔法だけで溜まるかなぁ?」
「私も手伝うわよ。このぐらいならなんとかなると思う」
「間違ってファイヤーボールだけは勘弁してくれよ?これだけ苦労して一瞬で灰になるとか嫌だからなハハハ」
サンとナナが交代交代水魔法を放ち、3分の2ほど溜まったところでストップ。
次に大きな鍋でお湯をドンドンと沸かして中へ入れていった。
「おお?かなりいい湯加減になってきたぞ!」
「本当に?!もう入れるの??」
「大丈夫だと思う。さあみんな裸になれ」
「あ!」「あ!」
目の前で出来ていくビニールプールに気を取られ、風呂に裸で入るということがスッポリと頭から抜け落ちていたサンとナナ。
それも外で、絶対に誰にも邪魔されることもなく、自由に。
ゴクリと唾を飲み込むふたり。
ドモンはまだそんな意識はなく、単純にお風呂に入れることを楽しみに服を脱いでいる。
「わ、私は遠慮しましょうか?奥様」
「・・・ううん、もうサンも結婚するんだし・・・いいの。それにちょっと向こうで色々あって、ドモンには今すごく喜んでもらいたいのよ。サンにも手伝ってもらって」
「それってもしかして・・・」
サンの言葉にコクリと頷くナナ。
サンの顔があっという間に真っ赤になった。
「サンが嫌ならいいのよ?」
「いえ!そんなことはありません!ただ急だったものですから心の準備が、ふーふーふー」
「おーい何してるんだ?ボディーソープで体をまず洗うぞ~」
「はいはいちょっと待ってねドモン!今洗ってあげるわよ」
ネグリジェ代わりにしようとしていたワンピースをスポンと脱ぎ捨て、裸になって草むらを走って駆け寄るナナ。
サンも覚悟を決め裸になりドモンの元へ向かう。
しかし緊張によって右手と右足が同時に出てしまい、ギクシャクしながら歩いていた。
「ほらサンおいで。今日は俺が洗ってやるよ。これ気持ちいいんだ」とボディーソープを泡立てるドモン。ナナはそんなドモンを後ろから洗っていた。
「ひゃ!!ふぁあああ!!」
ドモンの前に後ろ向きに立ち、体を洗われたサン。
ぬるんぬるんと体中を擦られて、すでに意識が飛びそう。
ナナもふたりに洗われ、「おほ!!おっほぉぉおおおお!!」という、なんとも下品な声を上げた。が、周りには誰も居ないので、気兼ねをする必要もない。
それに気がついた女性陣は、存分にスケベな嬌声を上げ続けた。
まずはドモンとナナが一緒に湯に入り、夜空の星を見上げる。
すると不思議とスケベな気持ちも無くなっていき、この開放感をただただ堪能していた。
サンはドキドキしながらすべり台へ。
サンももう恥ずかしさが消え、階段の上から「御主人様~奥様~!わぁい!」と裸で手を振る。
「では行きますよ~」とすべり台を滑ろうとするも、まったく滑らず困惑するサン。
「ああナナ、ちょっとだけシャンプーを入れたお湯を上から流してやって。そしたら滑るから」とドモン。
「じゃあいくわよサン」とナナがお湯を流した瞬間、サンがドモンのそばにすっ飛んできて、大股開きでひっくり返った。
「ぶばぁ!・・・うわぁぁん!!!!」
「ごめんごめんサン!大丈夫?!一気に流しすぎちゃった!」
「おーびっくりしちゃったかアハハ。ほらおいで、顔拭いてやるから」
ドモンが赤ちゃんを抱っこするようにサンを横向きに抱え、ビチャビチャになった顔をタオルで拭く。
そこへとんでもない第二波が襲いかかる。巨尻大爆弾。
「ぶべっ!!こらナナ!!」
「バッハァァァ!!あー楽しいっ!これ!!」
「うぅ~サンもやるぅ~」
星空降る森の中に、ザブンザブンという音が何度も響く。
全裸の女神と天使がキャッキャと戯れつづけ、情緒も何もあったものではない。
「ほらお前ら、もう何もかも俺から丸見えだぞ」
「ドモン以外誰もいないから平気だもーんアハハ」
「サンもですぅ!キャキャ」
飽きもせず延々と滑り続けたため、サンは疲れて朝まで眠りこけ、ナナはお尻を擦りむいてしまい一晩中うつ伏せでヒィヒィと悶絶。
散々裸を見せつけられたドモンは悶々としたまま、夜が明けた。