第154話
「違います違います!!よろしくお願いいたしますはこっちの事じゃないです!!いやぁ!!」
後ろからサンの両足を抱えてドモンは草むらへ。サンは両足をパタパタさせている。
もちろんナナもドモンの冗談であることはわかっているので、お肉を頬張りながらウフフと笑っていた。
何事もなくすぐに戻ってきたふたり。
そしてサンは後悔して落ち込んでいた。まだその勇気はなかった。
「あ、そういえば・・・異世界のスケベな本を買ってきたわよイヒヒ」とナナ。
ピクリと騎士と御者の眉毛が上がる。
「もうそれがとんでもないのよ!ね?ドモン?」
「いやぁ俺は散々見慣れてるから・・・」
「でもきっとみんなは驚くわよ!とんでもないスケベなことやってたり、とんでもないところで裸になっている・・・肖像画?」
「写真な」
「そうそれ!とにかくみんなに裸を見せちゃってるの!私もあれには勝てないわ!」
ナナの話に顔を真っ赤にするサンとジル。
ただ興味が無いわけではなく、むしろ興味津々だ。
自分達以外は人がいないこともあって、皆でその秘密を共有したい気分であった。
「も、持ってきていいわよねドモン?」
「お、おう・・・」
ゴクリと唾を飲む一同。
しばらくすると、馬車の方からナナの叫び声が聞こえた。
「あれ??た、大変よドモン!!」
「どうした?」
ナナが本を数冊抱えて走ってきた。
「消えてるの!」
「え?!」
スマホの中の画像と同じ様に、本に印刷されている写真も消えていた。
文字だけが悲しく印刷されたスケベな本。
皆はそれに対して単純に残念がっていたが、ドモンは誰よりも焦っていた。
大慌てで本が入っていた箱を確かめにいく。
「く、くそ・・・」
全ての本の画像が消えていた。
カップラーメンの蓋に印刷されている料理の画像でさえも。
実はサン達が食べ方がわからなかったのもこのせいであった。
出来上がりの姿が本当にわからなかったのだ。
ドモンが以前買ったカップラーメンは、画像が印刷されていない安物だったため気が付かなかった。
モーターの作り方、エンジンの仕組み、味噌や醤油の作り方、その他諸々。
文字だけは残っているが、『図1』等は真っ白に。
「何が何でも俺達の邪魔をして笑ってる奴がいるんだな・・・」
それが神か悪魔かの仕業かはわからない。
他の皆は相変わらず呑気にスケベな本について語り合っていたが、ドモンだけがその『何か』の存在を警戒していた。
「あ、でも文字だけは読めますからなんとなく内容はわかるかもしれません。ええと・・『そそり立つ肉棒を咥え恍惚とした表情を見せた由美は、仰向けになって大きく脚を開き、濡れそぼった・・・』御主人様、あの、肉棒ってなんでしょう??」
「つ、つくねだ!ひき肉を串にくっつけて焼いたやつ!!!」
「ああ!!サン駄目よ!!めっ!!」
「ふぴっ!!ごめんなさい????」
サン以外の全員が顔を真っ赤にした。
そんな事をやりつつ、夜も更けていく。
「ドモン様、ひとつ提案と言いますか、ご相談があるのですが」と騎士。
「うん」
「馬車に荷物を積みきれないのです」
「だ、だよな・・・途中で俺もそれに気がついていたよ・・・」
二台の馬車のそばに積み上がったダンボール。
ドモンもその自覚はあった。
「街まで何度か往復せねばなりません」
「ちょっと欲張りすぎたな。ごめん」
「いえいえ!それは仕方ありません。ですがこれらを置いていくわけにもいかないので、ゴブリン達の村を経由して一度街の方へ戻って、何台かの荷馬車を連れて戻ろうと考えておりますがいかがでしょうか?」
「うん。そうするしかないよな。このままじゃ酒を運ぶだけで馬も精一杯だろうし」
「はい」
最後の最後、ウオンの全面協力の元、ドモンはとんでもない量の買い物をした。
欲張りすぎた自覚はあった。
冷蔵庫にもクーラーボックスにも入り切らなかった食料もある。
「とりあえず食料だけは腐らすわけにはいかないからなぁ。店や屋敷の冷蔵庫になるべく早く入れたい」とドモン。
「食料だけなら馬車二台でなんとか運べると思います。他の物は量も多いんですけど、重さでお馬さん一頭ではちょっと苦しそうです」サンの言葉に御者も頷く。
「うーん、じゃあサンとジルとナナで一度街まで食料を急いで運んでくれるか?俺は荷物番としてここに残るから」
「だ、駄目よ!!ドモンは結界魔法も何も使えないじゃない!こんなところにHP60のおじさん一人置いていけないわ!」
「だから70ちょいはあるっての・・・」
ドモンの考えにナナが即反論。
しかしそれも当然の話。機転が利くとはいえ、冒険者でもなく、ここではただの無力なおじさんなのだから。
「じゃあサンとジルとで・・・」
「ごめんなさい御主人様・・・街に行くのがまだ怖いというのもあるのですが、一度村の方に戻らなければならないのです。兄も心配していると思いますし」と申し訳無さそうな顔のジル。
「うーんそうかぁ。だからといってここにナナだけ置いていくのもな・・・」
「では私が馬車の方を操作しましょうか?馬車をお借りしても宜しければの話ですが」と騎士。
「うん、そうしてもらおうか?ここに俺がサンとナナと残る感じで、ジルは騎士の人と一旦帰るみたいな感じになるのかな?」
「私も一晩くらいは一緒にいたいのですけど、次の馬車を待つと帰るのが何日か先になってしまうので・・・んぐ」
残念そうなジル。
悲しい顔をしながらご飯を口いっぱいに詰め込んで、サンに注意をされていた。
「では食事を終えたら早速出発したいと思います。晴れている今なら月明かりでゴブリンの村までは進めると思いますし、そうすれば明日中には食料を届けられると思いますので」
「そりゃ急な話だな。だけど実際問題、そうしなければ食料が無駄になっちまうもんなぁ」
「用を済ませてすぐに戻りますので、その時にまた異世界の土産話をお聞かせください」
「わかった。じゃあ今夜からしばらくは三人で新婚旅行気分でも味わうよ」
騎士とそうドモンが会話した瞬間、サンとナナの目の色が変わった。
そんなつもりはなかったし、そんな意識もしていなかったのに、急激に膨らんでいく期待。
ついにドモンとサンとナナだけの旅が始まる。邪魔する者は何もいない。