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第151話

「あ!戻ってきなすった!お帰りなさい!お嬢さん達、ドモン様と奥様がお戻りなさったよ!」


御者の叫び声でドタバタと馬車から飛び出すサンとジル。

荷物が次々とやってきて、馬車に積み込みながら片付けをしていたのだ。


「おかえりなさい御主人様!」とジル。

「ご、御主人様~!!うわぁぁん!!」サンはドモンに飛びついた。


「おおジル、サン!待たせたな。無事帰れたよ」

「良かった・・・うぅぅ・・・って、お、奥様はいかがなされたのですか??」


安堵で泣き出したサンだったが、ナナの様子がおかしいことにすぐに気が付き、不安げな顔を見せる。

ナナはぐったりとうなだれながら、ドモンに肩を支えられていた。


「向こうでなんだか色々あって、元気を無くしちまったんだ。最初ははしゃいでいたんだけども・・・」

「・・・・」

「奥様・・・」


「サン、悪いけど大至急買ってきた新しいテントを少し離れた所に建ててくれないか?少し休ませてやりたいんだ。スケベなことするわけじゃないぞ?・・・多分」

「は、はい!」


サンが大慌てで馬車へと走っていく。


「飯はどうなってる?ジル」

「休憩の時に御主人様が送ってくれたおにぎりを食べたので、まだ晩の食事は取ってないです。サンがなるべく待っていましょうって」

「そうか。じゃあ一緒に食べるからもう少しだけ待っててくれるか?米も炊くよ。皆に伝えてくれ」

「わかりました!」


荷物の積み込み作業をしている騎士と御者の元へジルが走って報告に行った。


騎士は想定以上の荷物に、一時間以上馬車の中で悪戦苦闘中。

焼肉のタレだけでダンボール一箱、酒に至っては店の人達に頼み、ウイスキー、日本酒、焼酎、ビールなど、ありとあらゆる酒をダンボール20箱以上買ってしまった。

カレールーに関しては結婚式でも出す予定で、ありったけの在庫をそのまま買ったのでもう数えてもいない。


服も軽トラを借りなければならないほど買ったのだから、どう考えても馬車2台に積み込みきれる量ではない。

生鮮品は冷蔵庫に入れるなどの仕分けもしなければならず、てんてこ舞いの状況だ。



だがしかし、今はナナの事が最優先。

完全に意気消沈しており、目の焦点も合っていない鬱状態。

今、目を離すことは出来ない。


サンにはああ言ったが、場合によっては例のキノコを食べるつもりのドモン。

テントにしばらく近づかないように皆に知らせ、ドモンがナナをテントの中へ寝かせた。


「ごめんなさい・・・ドモンごめん・・・うぅ」

「だからどうしちゃったんだよ?ナナが謝ることなんて何もないだろ」


ナナは両手で顔を塞ぎ、ドモンと目も合わせられずにいる。


「みんなの言葉を見てショック受けたのか?あんなの気にすんな」

「違う・・・」

「ケーコのことか?あれもいつも俺が怒らせてたから・・・」

「それもそうだけど違うの」


ナナがまた苦悶の表情を見せた。


「私、あの人達と変わらないわ・・・」

「だからナナは違うってば」


「ドモンが苦しむ姿を見ると・・・!いつの間にか嬉しい気持ちになってたのよ!私そんなつもりじゃなかったのに!うぅ!人をいじめて楽しむなんて、あの人達と私は一緒なの!!」


ハァハァしながら告白し、涙を流すナナ。が・・・


「なんだよ、俺と同じじゃねぇかハハハ」

「え?!あ、あれ???」

「好きな人にいたずらしたくなっちゃうなんてよくあることだよ。あの書き込みだって、本当はナナの気を引きたかったからかもしれないぞ?」

「そ、そうなのかな?」

「きっとそうだよ」


ドモンは適当に誤魔化しナナを宥め、久々に向こうの世界のタバコに火をつけた。タバコもたくさん買った。


ナナの性格が少し変わったのはドモンも確かに気がついてはいたが、ドモンにとってはいつものこと。

ただ、付き合っている最中に自分が変わったことに気がついた女性はナナが初めてで、それが不思議に思えるのと同時に嬉しくも思えた。


「まあ前にも言ったけどさ。俺はナナがナナらしくいてくれることが一番嬉しいんだよ」

「うん・・・でもお尻パンパンのお仕置きはしばらく控えるわ」

「お?絶対だな?イヒヒ」

「な、なによ・・・」


お~い!とサンを呼び、ナナの横に座らせたドモン。

後ろ手に手を組ませ、その両手に少し大きなグラスを持たせて、缶チューハイをなみなみと注ぎ込んだ。


「ご、御主人様・・・こぼれちゃいます・・・」

「絶対にこぼすなよ?それは異世界の貴重な酒だからな」

「ひっ・・・」


固まるサン。


「な、なにしてんのよ!!」

「ナナも動くなよ?」


目でナナを牽制するドモン。


「ではサン、こちょこちょこちょ・・・」

「アヒィィィ!!おやめイヒヒ!!やめてぇ!!アハハハ!!」


「苦しいか?」

「苦しいです御主人様!こちょこちょいやぁ!グラスを置いてください!」

「そうかそうか。じゃあ・・・こちょこちょこちょこちょ・・・」

「ヒャハハハ!!死ぬぅ!!イヤアアアア!!ヒヒヒヒヒ!!もうもれ・・・ヒィィィィ!!!」


くすぐり地獄に耐えきれず、白目をむき始めたサン。


「な、何やってんのよあんたぁ!!いい加減になさい!!」


ナナがドモンを突き飛ばし、サンからグラスを受け取り救出。

そしてすぐにドモンを膝の上に乗せ、力強くパーンパーンとお尻を叩いた。


「うわぁ!しばらくお仕置きしないって言ったのにぃ!」

「あんたがあんなことするからでしょ!!」

「ナ、ナナを元気づけようと思って・・・」

「だからってサンにあんな酷いことをすることないじゃない!!見なさいサンの顔を!あんなに幸せそうに・・・あれ??」


テントの中をコロコロ転がりながら、恍惚とした表情を見せるサンにナナが驚く。


「あー御主人様ーあぁー奥様ぁ~」

「ちょっとサン!しっかりしなさい!」


「じゃあ俺お米炊いてくるからあとよろしく~!その酒飲んでもいいぞ。安もんだから」

「あ!こらドモン!待ちなさい!!」


スタコラと逃げ去るドモンの背中を見ながら、ナナはドモンとサンに感謝した。


サンもナナの異変に気が付いており、ドモンの作戦に敢えて乗ったのだ。

サンからナナがグラスを受け取った時、サンは片手でグラスを持っていた。

つまりいつでもグラスは置けたし、もう片方の手でドモンの手を防ぐことも出来たはず。


「それにしたって強引なんだから!」


元気を取り戻したナナが、グラスの中の酒を飲む。


「美味しいわ!サンも少しだけ飲んでみる?異世界のお酒よ?」

「じゃあひとくちだけください」


こうして缶酎ハイのストロングを飲んだふたりはその後全身着替えるはめになり、テントをキレイに掃除することとなった。





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