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第144話

「こんな物買ってどうするのよ?」と、お菓子を食べつつコーヒーを飲むケーコ。

「甘~い!これがコーヒーなの?!砂糖とミルクをたくさん入れてもこんな味にならない気がするんだけど??」ナナはミルクコーヒーに驚いている。


画用紙を額縁の大きさに合わせて切り、金貨を均等に10枚並べ、画用紙に薄っすらとコーヒーを塗り『汚し』を入れていった。


「何をやろうっての?」

「金貨をそのまま持っていったって怪しまれるだろ?だから古くから家にあった物に見えるようにしてんだよ」

「あーなるほど」

「お前の父親亡くなっただろこの前。亡くなった父が祖父から受け継いだとかなんとか言えばいいんだ」


ドモンの相変わらずの適当なやり口に辟易するケーコ。

ケーコもまたドモンに翻弄され続けてきた経緯がある。


ケーコに頼み、駐車場で額縁に砂埃をかけさせ、擦って傷を入れていく。

そうして10枚ずつ金貨が入った額縁が三つ出来上がった。


「この三つをこのまま持っていって換金すればいいのね?」

「いやふたつだ」

「じゃあどうして三つ作ったのよ」

「『ひとつは手元に残しておきたい』と言えば信憑性が上がるだろ?人間の心理なんてそんなもんだ」


ドモンの説明に頷くケーコ。


「いいか?まずは三つとも見せて、やっぱりふたつだけにするとひとつ引っ込めるんだ。よく見ろ。ほら、これはお前のおじいちゃんの形見だ。手放すのは惜しいだろうけど、背に腹はかえられない。ひとつだけでも残したお前はえらい。おじいちゃんもきっと喜んでいるよ」

「・・・・わかったわ」

「駄目よドモン!そんな大切な物を売っちゃ・・・」


ドモンの洗脳に巻き込まれるナナ。


ドモンは昔から『そう思い込ませること』が得意だった。

買おうかどうか悩んでいる物があったりすると、横から「後で後悔する自分が見えたなら買った方がいい」だの、「お金は後で手に入るけれど、この品はもう二度と手に入らないかもしれない」だの言われ、気がつけばドモンのそばにいた客までもが慌てて買うことがある。


ドモンにとってはほんの冗談のつもりだが、それは立派な洗脳だ。犯罪に利用することはないが。


今日はインスタント麺で安く済ませようという時、「百円足すだけでこんな美味しいラーメンもあるぜ?百円ってお前の時給で言えば4~5分働いた程度だぞ?それで幸せになれるならそっちの方がいいだろ。そこから更に百円足せば生麺タイプの有名店のラーメンも買えるけど」と余計なことを言われ、気がつけば口車に乗せられ豪華な食事へとドモンに変更させられる。


時に理論的に、時には感情的に、情に訴え心を揺さぶり、甘えて母性本能もくすぐる。悪魔の手口。



「お前のおじいちゃんの形見、本物であるなら売るけども、そうじゃないなら記念に持って帰ってまた飾っておけばいい」

「うん。じゃあ行ってくるわ。またここに戻ってくるから待ってて」

「ごめんなさいねケーコさん・・・そんな大事なものを」

「いいのよ。仕方ないわ」


そう言って去っていくケーコを見つめるナナ。

「頼んだぞ~」と呑気に手を振るドモン。



「なんでお前まで騙される必要があるんだよ」

「騙すって何をよ?」

「あれは形見なんかじゃなくカールから預かった金貨だろうに」

「あ、あれ??そういえばそうだった・・・今目の前で額縁に入れるの手伝ってたはずなのに」


ククク・・・と笑いながら「素直で感情的で天然な奴ほど引っ掛けやすいんだよなぁ。お前らはそっくりだ」とドモンがボソッと呟く。

「もう!健康保険の説明の時とかもそういえば騙されたんだった!あんたは詐欺師よ詐欺師の悪魔!もう~」とお菓子をつまみながら赤い顔をするナナ。



「今のうちにゲームセンターでも行ってこようか」

「なあにそれ?」

「遊べる機械が並んでいる場所だよ。そこで時間つぶしでもしよう」

「わかったわ。行ってみよ?」


ゲームセンターに着くなり「うるさいわね」と耳を塞ぐナナ。

今まで感じたこともない騒音がナナの鼓膜を揺さぶる。


「ドモン!このガラスケースに入ってる可愛いふわふわは何なの?お人形?」

「そうだよ。お金を入れてこの掴むやつを操作して、うまくその穴から落とせば貰えるんだ」

「えぇ?!これって貰えるの???」

「まあなかなか取れないんだよ。それを楽しむ遊びだ」


色々と見て回り、白いふわふわのハートの枕の前で足が止まったナナ。

ガラスに張り付くように中を見て「うぅ~ん」と悩ましげな声を出す。


「ほらナナ、やってみろよ」

「ヤダヤダヤダ!!出来ない!!ドモンがやって!!」


仕方なくドモンが操作し、枕を上まで持ち上げたが、ポロッとこぼれ落ちてしまった。


「ああ~!何をやっているのよドモン!あぁ~も~う!!あと少しじゃないのよ!!」

「そういうもんなんだよ。あと少し!とか頑張れ!とか落ちるな~!って言いながら遊んで、上手く行けば貰える遊びなんだから。ナナもほら、やり方わかっただろ?やってみろよ」


「で、出来るかな?」

「失敗したら失敗したで楽しいから」


ドモンに説明してもらいながら操作するナナ。

ドキドキとしながら光るボタンをポチッと押す。


「し、しっかり掴むのよ!!も、持ち上げて!!そう!!」

「ウフフ」


コスプレした金髪巨乳美女が大はしゃぎしてる様子に、また人が少し集まってしまう。

店員も様子を見にやってきた。


「ああ!揺らしてはダメ!落ちちゃう!ああ~~!!!」


床にへたり込んで落胆するナナ。

それを見た店員がニコニコと枕を穴のそばへと寄せてくれた。


「これで取りやすいですよ?どうぞやってみてください」

「うぅ~無理よドモン・・・私には無理」

「今度こそ取れるかもよ?もう一回やってみな?」


ドモンが百円玉を渡す。

ナナは一回につき銀貨一枚だったのだと勘違いし驚いていたが、銅貨10枚と同じと聞き少しホッとした。


「もう少し右かなぁ」と、もう取らせる気満々な店員。それを周りの人達も優しい目で見ている。

「い、いくわよ・・・」とナナがボタンを押す。


アームが枕を持ち上げたと思った瞬間、すぐに横に転げ落ちてしまったが、そこに穴があって見事に枕をゲット。


「おめでとうございま~す」と、カランカランと鐘を鳴らす店員。

周りの人もパチパチと手を叩き微笑んでいる。

ナナはまだその実感はない。


店員が商品の枕を取り出し袋に入れ、ナナへニッコリと手渡した瞬間、「う、うそ?!」とナナが嬌声を上げた。


「や、やったわ!!ドモン!!」

「おお良かったな。それはもうお前のものだぞ」

「嬉しい!!うわぁぁぁん!!」

「な、泣くなバカ!ほら行くぞ」


ナナの腕を引っ張るドモン。が、ナナがイヤイヤして腕を振りほどく。


「サンやジルにも取らなくちゃだわドモン」

「お前な・・・これだけで300円使ってるんだぞ?それも取りやすくしてもらってこれだからな?」

「イヤ!サンとジルと、できればお母さんや屋敷の子供達のも!」

「破産しちまうっての!だから泣くなってば・・・ほらみんな見てるから」


袋から出した枕を抱きしめたまま、ぐじゅぐじゅと涙と鼻水を垂らすナナ。

店員もそれには呆気に取られた。


「ま、まだ何か欲しいものがお有りでしたらお手伝いいたしますよ?」と言いながらティッシュを渡す店員。

「サ、サンにはあの小さな赤いカバンを持っていってあげたいの」とナナが指差す方向には、一回り小さな子供用のランドセル。


「あれをサンに背負わせたら、もう犯罪の匂いしかしない気がするんだけど・・・」というドモンの言葉も虚しく、店員がせっせとカバンの位置をずらした。

ギャラリーも徐々に増え始め、店員もドモンもすでに引くに引けない状況に。


千円を両替してナナに渡す。


「キィーー!また駄目よ!まるで掴む気がないじゃないこれ!」

「左側のアームで押し込むような感じで・・・そうですそうです!!ああ惜しい!!」


怒るナナと焦る店員。金が減るドモン。

11回目にして歓喜の瞬間が訪れた。


「や、やったわドモン!!」

「おう・・・」

「次はジルにあの人形よ!」

「・・・・」


可愛いのか気持ち悪いのか、ドモンにはよくわからない謎の大きなぬいぐるみの前に立つナナ。


ギャラリーと店員、そしてドモンの気持ちが一体となり、これ以上ないというくらい穴に近づける店員。

ギャラリーはウンウンと頷き、ドモンは小さく店員に頭を下げた。店員も微笑みながらいえいえと横に小さく顔を振る。


8回目に人形が穴へと転がり落ちた時、パチパチと拍手が湧いて、ナナがまた歓喜の涙を流した。

ドモンは違う意味で泣きそう。



「ふぅ!楽しかった!こんなところがあるのね。まるで夢の中みたいだわ」

「夢ならいいのに」と財布の中を見るドモン。換金を断られたらもう一巻の終わりである。


安いウイスキーと貼り付けが出来るタイプのメモとペンを買い、また屋上へと戻った。


『これはサンのカバンよ。私がギャンブルでとったの』

『これはジルの人形。これもとったの。大事にしてね』

『これは私の枕なので馬車の中にしまっておいてください』

『騎士と御者へ。安物の酒だけどふたりで飲んでくれ。今、金貨の換金を頼んでいるところ。まだまだかかる。みんなゴメンな』


ナナとドモンがそれぞれにメモを貼り付け、ダンボールの中へと詰めていく。


「ナナ、ギャンブルじゃなくてゲームだよ。遊び」

「お金使って賞品を取るんだからギャンブルでしょ。それに簡単に説明できないものあんなの」

「まあ・・・確かにそうだな。戻った時に教えてやってくれ」

「喜んでくれるかなぁ」


そんな会話をしながら、この荷物も異世界へと送った。




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