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第143話

「ちょっとドモン・・・あの人じゃないでしょうね」


駐車場をツカツカと歩いてくるスレンダーな美女。

歳はエリーと同じくらいの熟女ではあるが、見た目はナナやエリーとも違う種類の美女である。


さほど化粧もしていないが、キリッとした眉が表情を際立たせ、スッキリとした鼻筋がその美しさの象徴とも言えるほど目立っている。


「あの人だよ」


ドモンを見つけてもニコリとも笑わず、スリムなジーンズ姿で近づいてくる。

見るからに気の強そうな様子にナナは完全に飲まれていた。



「久々ね。あんたどこ行ってたのよ」

「おう、ちょっと異世界に行っちゃってよアハハ」

「どうでもいいわそんな事。で、頼みたいことって何?換金がどうとかって。それよりも車に荷物積んであるからさっさと取りに来なさい」


怒っている時のナナといる時よりもたじたじになっているドモンの様子にナナは驚く。


「で?その外国人の子は?」

「ああ、向こうの世界で結婚したんだよ」

「あ、あのはじめまして・・・ナナと言います。あっちの世界でドモンと結婚しました」

「・・・・」


キッとドモンを睨みつける女。


「どういうことよ」

「だから冗談じゃないんだってば。ナナのこの格好をまず見てくれ」

「コスプレじゃないのこれ?」

「違う。それにこいつが嘘をついて得することは何もないだろ?」

「じゃああんたが誑かしたか騙したか、それともまた押し倒したのね。そして洗脳でもしたんでしょ?」

「・・・・」


言葉を失うドモン。何も言い返せない。


「ほ、本当なんです。信じてください!」とナナが必死にドモンのフォロー。

「だとしても、どうしてこんなスケベオヤジと?」

「そ、それは・・・なんとなく押し倒されて・・・あの」

「それ見なさい。クソスケベジジイの悪魔に騙されて可哀想な子。フン」


ドモンの胸ポケットからタバコを一本女が抜き取る。


「俺はいいけど、ナナには優しくしてやってくれよ恵子。さっき初めてこの世界に来て、まだ右も左も分からないし不安なんだぞ?」

「ケ、ケーコさんっていうんですね?あのケーコさん、私は押し倒されても、もし騙されてたとしても、年の差はあっても、それでも私はドモンのことが好きなんです。あの、そんなことどうでもいいくらい好きなんです」


そんなふたりを無視し、タバコに火をつけようとして「店内で吸うな。せめて駐車場に出ろ」とドモンが自動ドアの向こうへとケーコを追いやった。


「早く荷物を取りに来て」

「いや、俺らはこのドアくぐれないんだよ」

「何言ってんのよ。あんな重たい物、私もう運びたくないわよ?積み込むのも苦労したんだから」

「くぐるとあっちの世界に行っちまうんだ。信じてくれよマジで」


自動ドアの向こうでタバコを吹かしながら呆れた顔をするケーコ。

外にあったカートを車まで持っていき、ひとりで必死に荷物を積みヨロヨロと戻ってきた。


「いつもの人からお米とか届いてんのよ。これだけで30キロあるってのに。ちょっと待ってて。まだお菓子とかあるから」

「悪いな」「すみません」


吸いかけのタバコをドモンの口に突っ込みまた車に戻る。

店内で吸えないのとナナの顔を見て、慌てて携帯灰皿の中に放り込んで消すドモン。


「はい、これで全部。あとで当然お礼は貰うわよ」

「ああ、頼んでいた換金さえ出来たなら金は払うよ。あと一応証拠も見せる」


ドモンが30キロの米の袋を担ぎ、いきなり自動ドアの外へと放り投げた。


「きゃあ!!何して・・・え?!」

「これも無事届いたみたいだな」

「き、消えた・・・嘘でしょう?」

「だから本当なんだってもう・・・俺らもここをくぐれば向こうの世界に消えちまうのよ」


驚いたケーコが「呆れた・・・あんたが本当のことを言うなんて」と皮肉を言って笑う。

お菓子にメモも付け、すべて向こうへと送った。



「ナナちゃんって言ったっけ?どう?こっちの世界は」

「はい!あ、ナナでいいです。ええと驚くようなことばかりで・・・特にトイレはびっくりで」

「どうせドモンにイタズラされたんでしょ?悪いわね、こんなスケベをナナの世界なんかに送っちゃってフフフ」


「エヘヘ、でも気持ちよかったんで」

「素直ね。気に入ったわ。この胸は私への当てつけみたいで気に入らないけれど」

「アヒィ!?」


遠慮もなしにナナの胸を片手で鷲掴みにしながら、ケーコがドモンを睨んだ。

ケーコはサンよりも更にスレンダーなタイプだった。



「まずはこの格好をどうにかしないと目立つわね」

「ケーコさんあのもう、うぅ~ん・・・胸から手を離して」

「あらごめんね。目の前でブラブラしてるものだからつい」


女ドモンのようなケーコに翻弄されるナナ。

まるでドモンがふたりに増えたような気がして目が回る。


「服を買おうにもおっぱいがこのサイズだから試着もしなきゃならないし、それに今は現金がないからそもそも買えないんだよな」

「私もお金なんかないわよ。試着くらいなら手伝ってあげるけど」

「うん。で、この金貨を例の金を売れる店で換金してきて欲しいんだよ。この近くにあっただろ?俺ら外に出られないからさ」


ケーコにドモンが袋に入った金貨を見せた。

ナナはドモンとケーコの顔を交互にキョロキョロと見ながら、ずっとおろおろしている。


「何これ?本物の金なの??チョコじゃなくて?」

「恐らく本物だ。全部換金すりゃ結構な額になると思う。お前にも分け前やるから頼むよ」

「でもこんなに大量に換金なんて出来んのこれ?いきなりこんなに持ち込んだらおかしいと思われるでしょ」

「それは俺にちょっと考えがある」


そうケーコに説明を続けるドモン。


ケーコも当然知っている。ドモンの機転の良さを。

困った事になった時、ドモンに相談をすれば大抵のことはなんとかしてくれる。



浴室に入るところのドアを自動扉にしたいと相談した時、100円ショップで揃えたものだけであっさりと自動ドアにしてみせた。

なぜかロックされて蓋が開かなくなってしまった洗濯機も、メーカーしか知らないはずのロック解除の方法をドモンは自力で導き出し、解除してしまった。


自転車屋が直すのはもう無理だといった自転車も、ドモンは自力で直してしまう。

その為ドモンが乗っている赤い自転車は、高校生の頃に買った物のままであり、30年以上も同じ自転車に乗っていた。


パソコンに問題が起きればドモンに相談すればいいし、車が動かなければドモンに相談すればいい。

なにか美味しい物を食べたい時はドモンに相談し、休みの日になにか楽しい過ごし方がないか?とドモンに相談する。


もちろん物理的にどうしようもないものもあったが、とりあえず皆ドモンに相談をする。

母親が『物干し竿が壊れた』と連絡を寄越したのも、ドモンになんとかしてもらおうと思っていたのだ。



ドモンがなんとかすると言えばなんとかしてしまう。

それはどちらの世界でも一緒だった。



ドモンは二人を連れて100円ショップへ。

そこで額縁を三つと画用紙とハサミ、ついでに缶コーヒーを三本とナナとケーコのお菓子もいくつか買った。


「こんな物まで安く買えるのね・・・」とナナ。

「驚いたでしょう?普通に外国人観光客も驚いてる人いるくらいだしね」とケーコ。


元の屋上へと戻る途中、女ふたりでぺちゃくちゃとおしゃべりをしていると、またナナの写真を撮らせて欲しいという人が何人かやってきたが、ケーコが「駄目よ」と冷たい視線を浴びせると、あっという間に退散。


そうして少しずつ打ち解けていき、ふたりは仲良くなっていった。




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