第142話
「そんな・・・そんな事ってある?うぅ・・・自分の子供が結婚したのよ?私のお父さんは泣いてくれたし、お母さんはおめでとうって言ってくれた!それなのに酷いよ!うわぁぁぁん!!」
「いやまあ昔からそんなもんだよ」
ようやく落ち着いたと思えば何度か悲しみがぶり返し、その度に泣いてしまう。
そんなナナを落ち着かせながら、知り合いの女の方に換金のお願いの連絡をしたところ『OK』と返信があり、ついでに家にあったドモンの荷物を持って、ウオンまで車でやってくるということになった。
準備やら荷物の積み込みやらで一時間ほどかかるとまた連絡が着たので、その間ナナを気分転換に100円ショップへと連れて行った。
「すごいよ。色々な物が売っているのね。あ!見てこれドモン!立派なハサミよ」
「これはキッチンバサミだな。料理に使うハサミなんだよ。これなら包丁が苦手なナナでも手伝いできるぞ?」
「見て見て!これ知ってる!皮剥きのやつ!!」
「そうそう。だってここで買ったんだもんハハハ」
「でも全部高そうね・・・」
「いや値段が書いてない物は、この店の商品全部百円・・・つまり銅貨10枚で売られてるんだよ」
「嘘はやめてよドモン。包丁やハサミが銅貨10枚で買えるわけがないでしょ!それに見てよこれ。このお化粧道具も銅貨10枚なら、この世の庶民の女性は全員このお店に来ちゃうわ」
「いや・・・それが本当なんだよ。まあ税金がかかるから正確には銅貨11枚だけどな」
そう言ってドモンはナナにひとつ口紅を選ばせ、二人でレジへと向かった。
レジの列に並びながら十円玉を見せ「これは向こうと全く同じ価値のお金だ」と説明をし、ナナに十円玉を11枚持たせて、その口紅を買うように指示。
「やだよドモン!一緒に並んで!ねえってば!!」
「はいって商品渡してお金出せばいいだけだから。大人だから出来るだろ?」
「出来ない!それにお金足りないよ絶対!」
「それはどうでしょう?イヒヒ」
「やだやだ!もういや!!」
今にも死にそうな顔をしながら、口紅を店員に差し出したナナ。
店員は日本旅行に来たきれいな外国人の初めての買い物なのだろうと考え、ニッコリと微笑んでいた。
ピッ!とバーコードを読み取り110円を請求され「やっぱり足りないんじゃ・・・」としょんぼりしながら十円玉を11枚出すナナ。
なのにニッコリと「ありがとうございました~」と口紅を渡され、ナナは面を食らった。
「か、買えたわ・・・」
「そりゃそうだろ」
「ねぇ・・・もしかしてこの店の物って銅貨10枚で全部買えるの?」
「だから最初からそう言ってるだろ。税金で11枚だけども。税金かかってるものにまで税金がかかるから、ちょっとややこしいというかバカバカしいというか・・・」
「・・・・」
ナナはそれでもまだ信じられずにいた。
こんな事がありえるはずがないからだ。
逆にこの十円玉が本当はものすごく価値が高いものなのでは?とドモンに聞いたが、「いや学生がちょっと仕事をしても一時間で千円、つまりこの十円玉なら百枚貰えるくらいの価値だよ」と説明され、混迷を深めるばかり。
そんな事をすればハサミ職人が儲からないのではないか?という余計な心配をしていた。
「ドモン・・・鏡はあるかな?私この口紅を使ってみたいんだけど」
「ああ、安物だけど一応試してみたいんだな?そりゃ安かろう悪かろうって具合で、高い物には敵わないけど、それなりに使えるって感じだと思うぞ?」
「うん・・・でもその割には立派よね」
そしてナナをトイレに連れて行ったが、ひとりで入るのは怖いとわがままを言い始め、結局ふたりで多目的トイレの方へと入ることになった。
「だから、これもう俺、謝罪会見待ったなしなのよ。ナナみたいなのとここに一緒に入ったら」
「し、仕方ないでしょ!あ、これがトイレ・・・なの??なんだかボタンがたくさんあるけど・・・」
「うん、用が済んだら洗ってくれるトイレなんだよ」
「洗ってくれるトイレ?!洗ってくれるってまさか???」
「ああ、ナナの恥ずかしい部分をジャブジャブ洗ってくれるんだよイッヒッヒ」
「嘘よ嘘!!やだ!!変なの!!」
プイッと横を向いたものの、興味津々なのがドモンには手にとるようにわかり、クスクスと笑った。
まずは鏡を見ながら口紅をつけるナナ。
ピンク色で艶が入った口紅を塗り、うっとりしている。
「ドモン、これたくさん買って帰ったら、私達大金持ちになるような気がするの」
「いいよ金なんか。俺はナナがもっときれいになってそれだけで嬉しいよ」
「・・・ねえ、あのキノコ食べてよ」
「だから絶対に駄目だ。特にこのトイレでは絶対にだ。それにこっちの世界じゃ合法なのかも怪しいぞ?」
ついでにトイレの使い方の説明をしたドモン。
怖いから最初だけはどうしてもそばにいて欲しいと言われ、目を瞑り耳を塞いでトイレに座ったナナの横に立つ。
しばらくしてパンパンとドモンの腕を叩いたナナ。
「お、終わったよ・・・これからどうすればいいの?」
「そのボタンを押せ。洗ってくれるから」
「わ、わかった。これね」
『おしり』と書かれたボタンを押したナナ。
もう一つのボタンは意味がわからず押さなかった。
「・・・・は!はうっ!!!い、いや!いやぁぁああ!!」
「大丈夫かよアハハ」
「お尻が!!お尻の穴を!!おほおおお!!」
「お尻を洗っちゃったのか。それは大きい方をした時用のボタンだ」
ドモンがボタンを押して止めたが、ナナはショックを受けたまま。
まさか下から誰かに洗われることになるとは思ってもいなかったのだ。
「お尻見られちゃったよドモン・・・」
「機械で洗っただけだから誰も見てないってば」
そして今度はドモンがビデのボタンを押してあげた。
水の勢いを最大にして、二度押しのムーブにしてみるイタズラ付きで。
その結果ナナがとんでもない卑猥な声を上げ続け、ドモンが駆けつけた警備員や客達に緊急謝罪会見を開く羽目になった。
出てきた女性の見た目が外国人だったため、慣れていなかったということにしてなんとか事無きを得る。
「ねえ!やっぱりトイレの中に人が入っているんじゃないの?!」
「だから機械だってば。動くように俺が操作したんだよイタズラで」
「もう!!・・・でもドモンの方が上手よ?ウフフ」
「さすがスケベ女。もう大好き」
そんな事をやりながら、100円ショップで買った乾電池式の充電器でスマホを充電しながらおしゃべりをしていると、ブーンと音が鳴り、ドモンの知り合いの女性の到着を知らせた。
先ほど弁当を食べた屋上の駐車場で待ち合わせ。
ナナはまた緊張しながらドモンの手を握っていた。