第139話
「ドモン・・・」
「しっ!本名はヤメとけ」
ドモンが周りをちらりと見る。
別にナナは本名でも問題はないけれど、ドモンは身バレをして変な事に巻き込まれる可能性もある。
以前こっちの世界ではそんな事もあるとナナに話していた事もあり、ドモンの一言でナナもハッと気が付いた。
「マネージャーの方ですか?こちらのレイヤーさんの写真撮ってもいいですか?」
「いや写真はちょっと・・・」
「前にやった肖像画のやつ?少しくらいなら別にいいわよ」とポーズをとるナナ。
折角ドモンが断ったのに、それに何の問題があるのかがわからないナナが了承してしまい、それを機に一気にミニ撮影会が始まってしまった。
「綺麗ですね!名前はなんて言うんですか?」
「ナ・・ナスカ・・・私はナスカナタリアよ」
「ファンになります!これから応援します!!」
今や愛称が本名で、本名の方を偽名のように使ってしまう。
「何のアニメのコスプレ?」
「ア、アニメ??」
「異世界物の小説とか漫画っすか?」
「ねぇ助けてよドモ・・・あなた」
カシャカシャと写真を撮られながら質問に真面目に答えようとするナナ。
「え?あなたってこのおじさんと結婚してるの?!マジで??ウケる!!」
「そ、そうよ・・・」
「おじさん、すみません。何のコスなんですか?」
「しょ、小説だよ。ナ・・・こいつを題材に異世界物の小説書いてるんだ。ええと・・・ショッピングモールの出口から出たら異世界だったって話を」
「ふぅん・・・知らないです。今度調べてみます。なんて名前ですか?」
「まだ発表してないんだよ。小説の名前はそうだな・・・えっと『EXIT OF ANOTHER WORLD』というのなんだけど・・・まあそのうち」
「へぇ」
質問攻めに巻き込まれたドモン。
「じゃあ店に迷惑かけちゃうからこのへんで!ほらみんな、警備員来たら注意されちゃうぞ?」と言いながらナナの手を引っ張り、人の輪の中から脱出した。
「ドモン、なんか私人気者みたいウフフ」
「何を呑気なこと言ってんだ。こんな爆乳金髪美女がそんな格好してたら目立つに決まってるだろ」
「エヘヘ」
「まあ・・・よく来たな。ようこそ俺の世界へ」
ドモンにギュッと抱きつくナナ。
また視線が集まる。
「とにかくまずスマホの充電と、下ろせる分のお金を下ろして飯でも買おう。メモを付けてあいつらに知らせてやらないと心配してるだろ」
「そうだったわ!ドモンの真似をして手を当てたら普通に来れちゃったのよ。サンの叫び声聞こえてた」
「ならまず先に知らせた方がいいな。一緒にいるって」
「うん」
ATMの方まで歩くふたり。
するとナナがギョッとした表情で思わず叫んだ。
「ドモン!!階段が吸い込まれてる!!!」
「ああ、エスカレーターという自動で上がったり下がったりする機械だよ」
「ほ、本当だわ!人が乗ってる・・・吸い込まれたらどうするんだろ・・・」
「あとで乗ってみようか?」
「い、いやよ!絶対に嫌っ!!」
露骨にエスカレーターを避け、「ドモン!近づいたら危ないってば!」とドモンの腕を引っ張るナナ。
「それにしても建物の中が明るいわね。眩しいくらいよ。どんな照明なのこれ??まるで外みたい」
「俺は少し薄暗い方が好きだけどな。スケベな感じがして」
「もう!またそれ!でもドモンが言ってたスケベな事をするトイレって後で見せてよ」
「だから本当はそういう目的のトイレじゃないってば。まあトイレの使い方教えるから後で連れて行くけどさ」
そんな会話をしながらふたりはATMへ。
ガラスに文字が書いてるだの絵が動いてるだの、ナナは横で大騒ぎ。
「1万円しか入ってねぇ」
「それっていくら?」
「銀貨10枚」
「それがドモンの全財産なの?」
「うん・・・」
ドモンもまさかそんなに少なくなっているとは思わずにいた。
何かしら引き落とされているとは思っていたが、すでにギリギリの状態であった。
「に、人数分弁当買ったら、お金半分なくなっちゃうな」
「じゃああれにしたら?庶民の味方」
「それだ!カップラーメン!ナナ偉いぞ!!」
「でも私はお米が食べたい」
「・・・・買うよ。買えばいいんだろ。その前にちょっと寄っていく」
ATMのそばにある携帯ショップに寄るドモン。
「いらっしゃいませ~なにかお探しですか?」
「あの・・ちょっと申し訳ないんだけど、完全に充電切れちゃって連絡も支払いも出来ないんだよ。ちょっとでいいから充電してもらえないだろうか?」
「あー・・・はい、宜しいですよ」
「本当にありがとう。そして荷物だけ置いてすぐに戻るんで、それまでお願いします」
「はい、かしこまりました」
適当なことを言って充電に成功するドモン。
弁当をひとつと、安いカップラーメンを10個ほど購入してダンボールに詰め込んだ。
「美味しそう!早く食べたいよ!見てドモン!とんかつもからあげも入ってる!!」
「ちょっと待て、メモ書いてからな。ええと・・・『無事着いた。ナナと一緒にいるので安心してくれ。作り方を読みながらみんなで食べること。まだお金が少なくて安物でごめん』っと・・・サンには作り方話したことあるから分かるよな?」
「サンなら多分大丈夫よ」
「それじゃ『サン、お前頼みだからしっかり頼んだぞ!』っと。これでいいかな?」
「じゃああとはナナの弁当を温めよう」
「どうやって?ここで料理し直すの?」
「電子レンジ・・・ええと、弁当をこの箱に突っ込んでくれ」
中を不思議そうな顔で見ていたが、チーンという音に何故か大爆笑するナナ。
「りょ、料理とは思えない音ね!プププ・・・クスクスクス・・・」
「料理というか温める機械なんだよ。ほら触ってみろ」
「わっ!!熱い!!出来立てになってる?!しかも中身だけをどうやって温めたの???」
驚くナナを連れ、荷物の入ったダンボールを持ちドモンは自動ドアへ。
「・・・きちんと届いてくれよ?」
小声で祈るドモン。
ナナはまた呑気にその様子を見ていたが、これが失敗すればもう戻れないという可能性が高い。
それをナナに話せばパニックになるのは目に見えているので、ドモンは黙っていた。
自動ドアが開く。
雨が落ちる外に向かってダンボールを放り投げると、ドアを通り抜けた瞬間ダンボールが消えた。
「よし!!」
ホッとした瞬間ドモンも急激に腹が減り、おにぎりをひとつ買ってから、携帯ショップへスマホを取りに戻ると、スマホの充電は30%まで回復していた。
頭を下げ感謝し、逃げるようにエレベーターへ。
「とりあえず屋上にある椅子で温かいうちに飯にしよう」
「お、屋上って屋根の上???」
エレベーターのドアが開く。
「何よこの殺風景な狭い部屋は・・・」
「いいから早く入れ。すぐに分かるから」
弁当を抱えながらキョロキョロと周りを見るナナ。
「わ!ボタンが光ったよドモン!」
「いいから静かにしてろ」
「あ!!ドアが閉まっちゃう!!閉じ込められるわ!!!」
「いいんだってばそれで。いちいちうるさいなフフフ」
ポーンという音と共にドアが開くと、ナナは腰を抜かしそうになった。
「店が無くなってる・・・ま、また違う世界に来ちゃった・・・」
「いや、これが店の屋上だからハハハ」
「もう何がなんだかわからないわ。怖いよドモン」
「少しずつ教えるから、まずはご飯を食べよう」
「うん・・・」
ドモンと手をつないでベンチに座ったナナ。
何もかもが不思議の連続で、とにかく不安でたまらなかったが、そばにドモンがいれば大丈夫と必死に自分に言い聞かせていた。




