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第137話

「ね、ねえサン・・・ちょ、ちょっとだけ御主人様達覗いてみようよ」

「だだだ、駄目ですジル!今日だけは絶対に駄目!」

「遠くから覗くだけだから!ね?お願い!」

「ダメェ!」


皆が寝静まった頃、馬車の中でおしゃべりをしていたジルが、突然サンにそんなお願いをした。が、もちろんすぐに却下。

・・・したはずだったが、ふたりは暗闇の草むらの中に、息を殺して身を潜めていた。


「な~んだ。サンだって興味あるんじゃないのよ」

「・・・・」

「ねえ奥様が言ってたキノコって何?」

「・・・し、知らない!あんな恥ずかしいことになるキノコなんて・・・」

「何よ何よ!ねえ教えてよサン!!ねえってば!!」


渋々例のキノコの効果を語るサン。

話を聞いたジルの顔が真っ赤になった。


「わ、私も食べてみたいなぁ」

「駄目!慣れていないと失神してしまうんだから!奥様ですらあっという間に意識がなくなっちゃったの」と先輩風を吹かすサン。その時自分が少しおもらししてしまったことはもちろん内緒である。


そんな会話をしながら、ジリジリと焚き火がついているテントのそばへと近づいていく。


興味本位でもあったが、ナナがドモンをこってりと絞ると言っていたこともあり、サンは心配もしていた。

今日の様子だとナナが理性を失い、無茶をしかねないと思ったのだ。

ドモンの叫び声や助けて!といった声が聞こえたならば、すぐに飛び込む覚悟を決めていた。



その結果、ふたりとも馬車の中で、朝方まで悶々と眠れぬ夜を過ごすことになってしまった。



そして子供達以外全員が寝不足の朝。完全にナナのせいである。


「あ、あのキノコはやっぱり女が食べちゃ駄目ね・・・」と少しガラガラ声のナナと朝風呂に入ったドモン。

「うん、わかったから俺にくっつくな今は」


「ねえドモーン、私また胸大きくなっちゃったかなぁ?」

「わざとだ。お前完全にわざとだろ・・・あぁダメだ。もうナナのことしか考えられなくなってる」

「ウフフ・・・ス・ケ・ベ・お・じ・さ・ん・・・おいで?」


ドモンの耳元でナナがそう囁いたところで、サンがやってきて全力で止めた。


「御主人様!奥様!皆さん見ていますから!」


ナナは開き直ってもうどうでもいいといった様相だったが、ドモンは温泉の中へと潜り精神統一。気合で立ち直り、なんとか着替えを済ませた。



ドモンはもう朝食を作る気力も無くなり、サンとジルに作り方のアドバイスだけして馬車の中に入りごろ寝。

サンはアドバイス通りにリンゴのジャムを作り、ジルは小麦粉と砂糖と卵を混ぜてフライパンで生地を焼いていく。


「これは何でしょうか?」とナナ似のゴブリンと腕を絡めてイチャイチャしている騎士。

「御主人様に教えてもらった『クレープ』というものですよ~。今日はリンゴのジャムを塗って食べてほしいそうです」とサン。


クレープの折り方もドモンに教わった通りにクルクルと巻いて花束のような形にし、まずはナナへと渡した。



「んんーー!!んがっ!これ・・・昨日のお菓子と負けず劣らず美味しいわよ?!」


ナナの言葉に期待が高まるゴブリン達。


「はい、長老様もどうぞ!」とジル。

「あぁ本当!これもとても美味しいですね」と目を瞑りながらその味を噛みしめる長老。


「イチゴや他の果物でもこういった感じにできるそうです。御主・・・ドモン様が教えてくださりました」

「うん本当にこれは美味い!これも名物になりそうだ!」と妹の言葉にザックも頷く。


子供達は皆笑顔の大輪を咲かせている。



ドモンからすればさほど特別な料理ではない。

だがゴブリン達にとってはこれもまた御馳走。この世界の人にとっても。


一つの名物を生み出そうとする時、何日も何ヶ月も、下手をすれば何年もの月日をかけ、考えに考え、工夫を重ねてようやく出来上がる。もしくはそれでも失敗に終わる。

それをドモンは半日で三つも生み出してしまった。


長老にとって、やはりドモンは神のような存在としか思えずにいた。


人に怯え、今日を生きるのに精一杯だった昨日まで。

それが今では、人間と当たり前のように会話をして気持ちをやり取りし、皆この先起こる未来の夢を見ている。


「魔王様も早く謁見されることを望んでおられるでしょうね・・・」


長老が馬車の方を見ながらポツリと囁いた。




「よし、そろそろ出発するぞ!じゃあ村の護衛頼むぞ騎士の人」

「お任せください!」

「おう!しっぽりやれ!おっと間違った。しっかりやれ」


騎士のひとりを残し、馬車から手を振るドモン。


「もう!スケベドモン様!」とナナ似のゴブリンがぴょんぴょん跳ねて胸を揺らす。

「そこの私に似てる女の子~!そういう時は『様』は付けなくていいのよ~!」とナナも手を振った。


「では御主人様出発しますよ~」

「いきまーす!はぁい!」


御者台に仲良く並んで座るサンとジル。

ジルが異世界の入口を見てみたいということなので、長老の許可を得て一緒に行くこととなった。


馬車を操作しながらキャッキャウフフと仲良くおしゃべりをするふたり。

少しだけお姉さんぶって話すサンが可愛いわねと、ナナが笑いながらドモンに耳打ち。


「はい?御主人様、奥様、何かおっしゃられましたか?・・・ほらジル、きちんと御主人様達のお話に耳を傾けておかないとダメです」

「うんわかった」

「うんじゃないでしょ?もう」

「はい」


サンが貸したメイド服を着たジルにドモンも目を細める。


「ねえドモン・・・キノコのせいかな?なんかもうあのふたり食べちゃいたい」

「おいやめろ!お前は最近前にも増して薄い本一直線どころか、宿にある有料放送みたいになってるんだから」

「だから何なのよその薄い本って前にも言ってたけど。絶対スケベなことでしょ」

「そこは深く聞くな!!」


久々に装着した例の革鎧。

以前にも増して胸が強調されている気がするドモン。


「なあお前、エリーが言ってたように本当に成長してんじゃねぇか?それ」

「た、たしかに・・・こんなんじゃなかったような気がする・・・今朝のお風呂の時は冗談で言ったんだけど・・・」

「揉んだらデカくなるってのは都市伝説のはずなのに」

「それはこっちの世界でも言われているわ。本当だったのね」


ドモンとナナの会話に耳を傾けながら、なにか会話していたジルが少し得意げな顔になり、サンは胸に手を当て口を尖らしている。

そんなくだらない会話をしながら馬車を走らせること数時間、道の右手側に大きな崖が薄っすらと見え始めた。


「ナナ、あれだったよな?」

「ええ間違いないわ。森のある方だったからもう少しかかるとは思うけど」



久々に見た異世界への入り口の崖は、おどろおどろしい雰囲気も何もなく、高く昇った太陽に燦々と照らされ、まるで遊園地か何かにある楽しげなアトラクションの入口のような様子だった。




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