第135話
「本当に・・・皆の幸せを願っているのですねドモン様は」
歩き去っていったドモンの背中を見つめながらザックが呟いた。
他のゴブリン達も、そして騎士も頷く。
「神の・・・神の使いなのかもしれません」と長老。
「あのね・・・ドモンはどっちかと言えば悪魔よ?良い悪魔だけれども」ナナが怪訝そうな顔をしながらドモンの背中を睨む。
ドモンの姿が見えなくなったところでナナが立ち上がり、こっそりドモンを追った。
皆、何のことなのか意味もわからず不思議顔で見つめ合う。
その数分後、「きゃあああ!」という叫び声と、ドモンの「うわぁ!ごめんなさぁい!!」という叫び声、そしてパーンパーンというお仕置きの音が温泉の方から聞こえた。
皆が駆けつけると、サンとジルの他、女性ゴブリンが数名、そしてナナにお仕置きをされた裸のドモンがペチャンコになっていて、ナナが言いたかったことをなんとなく理解した。
「混浴がどんなもんか、もう少し調べようと思っただけだよ・・・」
「混浴って男はあんた以外いなかったじゃないのよ!!それは混浴じゃなくて女風呂に裸で飛び込んだだけでしょ!!」
「・・・・」
ナナのぐうの音も出ないほどの正論に言葉が出ないドモン。
大反省し、またゴブリンのみんなに料理を振る舞うことに。
「サンとジル、馬車を村の中にまで運んでくれ。今日はここに泊まる。御者も呼んできてくれ」
「かしこまりました」「はい!」
「とはいえ流石にこの人数に振る舞っちゃうと食材も無くなっちまう。長老、なにか食材はあるか?」
「普段は果物や野草、あと獣が現れればそれを獲って食材にしております。本日は残念ながら・・・」
困った顔の長老。
「も、申し訳ございませんドモン様!果実の収穫でその・・・」
「ああ・・俺達にくれたリンゴを採るので精一杯だったのか。それは申し訳ないことをしたなぁ」
「いえいえそんな事は・・・」
今ある食材を見せられたドモンが知恵を絞る。
「ドモン、小麦粉もたくさんあるしトマトやチーズもあるから、私が風邪ひいた時のやつ作ってみたら??」とナナ。
「ピザか。流石にこの人数じゃチーズが足りないよ」
米がない今となっては麦が主食なので、小麦粉は大量に馬車に積んである。
だがチーズは持ってきていた分やここにある量を足してもまるで足りない。
「ではグラタンはいかがでしょうか?!」と戻ってきたサンが嬉しそうにドモンに提案。
「それもチーズが足りないよサン。鶏肉もこの人数分はなさそうだしな。それに器も足りない」
それなら活躍できると思ったサンはしょんぼり。
「ああ、でもなんかおかげで見えてきたよ。パスタなら出来そうだな」
「あ!そうですね!!では準備してきます。ジル行こ!」「うん!」
ジルが調味料やボウルを持ちすぐにやってきたが、サンが馬車から出てこない。
ドモンが様子を見に行くと、「うーん!」と声を出しながら30キロはある大きな小麦粉の入った袋を持ち上げようと踏ん張っていた。
「サン、そんなに踏ん張ったら漏らしちゃうぞ」
「ふぁぁ!!」驚くサン。
「こういう時は素直に頼む事。約束しろ」
「・・・はい。ごめんなさい」
「そこだけはナナを見習えよ。もっと甘えていいぞ?」
「は、はい・・・御主人様・・・持てないです。も、持ってください」
「ああいいよ」
小麦粉の大袋を抱えて馬車から出てきたドモンの後ろに、真っ赤な顔をしたサンがついてきた。
ドモンも真っ赤な顔。
ただしドモンの赤い顔の理由は、想像していた以上に小麦粉が重かっただけだ。
「ちょっとあんた達!」
「してない。お前な・・・絶対その後スケベなことがどうの言おうとしてるだろ」
「ええ?!どうしてわかったの???」
「もういい加減サンだってわかるよ。お前の『ちょっとあんた達!』はな。いいから小麦粉練るの手伝え」
ナナはそれが口癖になっていることに気がついていない。そもそもほとんどがドモンのせいではあるけれども。
サンがくすくす笑いながら「誤解させてしまって申し訳ございません奥様」と謝り、赤い顔の訳を説明。
その間「ちょっと待っててな。すぐ戻る」とドモンが温泉に行き、源泉から温泉を汲んできた。
「よし、じゃあジルも手伝え。サンやナナの真似をしながら小麦粉に塩と卵と油、そしてこの温泉を少し加えて手で練っていくんだ。乳首くらいの固さになれば出来上がりだ」
「う、うんわかった」
「・・・はい」
ドモンの言葉にナナとジルが後ろを向いて、コソコソと服に手を突っ込む。
「ご、御主人様あの・・・耳たぶとかでは・・・?」とまた赤い顔になるサン。
「ああそうだった。間違えた」
「・・・ドモン、あんたあとで覚えておきなさいよ」
サンよりも赤い顔をしたナナとジルが一心不乱に小麦粉を捏ね、あっという間に出来上がった。
ドモンが出来具合を確かめ、「うんうんこんなもんだな。でも本当にナナの乳首くらいだな」とゴブリンの女性達にも触らせていった。
「や、やめてよドモン!何するのよ!」まるで自分が触られているような気分になってしまったナナ。
「これから収入を得るようになったら小麦粉も手に入るだろ?だから料理を教えてるんだ」とドモンは至って真面目な顔。
「さっきの材料を混ぜて練っていくと、最初はナナのおっぱいくらいの柔らかさなんだけど、捏ねてるうちに少しずつ固さが増してナナの乳首くらいの固さになる。そうしたらしばらく生地を休ませるために寝かせるんだ」
「は、はい・・・・」
「ナナのおっぱい揉んで、乳首をコリコリにしたら寝かせる。こうやって覚えろ」
「・・・・」
あまりに独特な表現で生パスタの作り方を説明するドモンに、子供以外のゴブリンの男も女も顔が真っ赤に。
指でツンツンと生地を突いてナナの方をちらりと見る。
「うぅドモンめ・・・私、出来上がるまで温泉入ってくる!もう!おじさんってホントにスケベ!!」とナナが走り去り、「み、皆様、耳たぶです!耳たぶくらいを目安にしてください!」とサンが必死に訂正するも、最初の説明のインパクトがあまりにも強すぎたため、もうナナの胸という例えでゴブリン達の頭に刷り込まれてしまった。
「いつかアップルパイと一緒に、このパスタもこの温泉の名物になりゃいいな。これが本当の乳頭温泉なんつって」
「????」
ドモンの冗談は誰にも分からなかったが、それからしばらく後にこの温泉を利用した『ナナの乳頭温泉生パスタ』は世界中から親しまれる名物となった。