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第134話

「風呂で裸見られたくらいで落ち込むなよ。裸で街を歩いてた時よりマシだろ?」

「あの時は裸じゃないって何度も言ってるでしょ!ハァどうしていつもこうなるのかしら?」


ドモンの慰めにもならない慰めを受け、温泉の中へと身を沈めたナナ。


「奥様は潜在的に皆さんに注目してもらいたいという気持ちがあるのだと思います」と長老。

「へ、変なこと言わないでよ!そんな趣味ないから!!」


「もちろん綺麗な体であるという自覚もお有りだとは思いますが、それよりもこんな奥様を皆様に自慢をしたいドモン様を、奥様は満足させたいようにお見受け致しました」

「あ~それは確かに俺はあるかも・・・結婚式でも『いい女だろ!』ってみんなに自慢しちゃったくらいだもんな。なんだかバレると恥ずかしいな」とドモンも温泉にブクブクと沈んでいく。


「俺な・・・スケベな体や格好でナナに視線が集まって、みんなが羨ましがるのが嬉しいんだ。ほらギルドでも羨ましいって言われた時、もう俺、鼻が高くってさ・・・長老はさすが年の功だな。何でもお見通しってか」

「ウフフ。殿方はそういうものですよ。そしてそれに応えるのも女性の勤めでございます」そう言ってまたドモンによりかかる長老。



「じゃあ私、みんなに全部見られてもいい。ドモンが喜ぶならなんでも平気!」

ドモンがナナの事を自慢して喜んでいたことを知り、これ以上ないというほどナナの気持ちは昂ぶった。


「いや、ナナは見せ過ぎなんだよ。もう少し加減をしてくれ・・・」

街の人に「おっぱいの人」とまで言われているのだから、ドモンがそう思うのも当然。


「それにしても・・・長老さんはドモンにそんなにくっつかない!・・・でも・・・まあ少しだけなら許してあげる」

「え?!宜しいのですか???」


ナナはこんな会話をしながら、ふと先程の話を思い出した。

きっとこんなにきれいな奥さんなら、旦那さんも自慢したかっただろうし、命を賭けてでも守りたかったはずだ。


そしてもし、自分がそうしてドモンに生かされ残った時、寂しさに耐えられる気がしない。体も心も。


その隙間を、もし少しでも埋めてくれる人が現れたなら、ちょっと寄り添うくらいは天国の旦那さんも許してくれるだろう。

ナナはそう考えたのだ。


「お情けありがとうございます・・・!」


・・と言ったと同時に、長老はドモンに正面から跨がり口づけをした。


「え?ちょ?!?」

「うわっ!ち、ちが・・・俺じゃない!」

「あぁ満たされます・・・」


呆気に取られるナナ。

もう抗えないドモン。

涙を流す長老。


「ぐぐぐぐ・・・ドモン・・・あんた後でわかってるでしょうね・・・キノコ食べなさいよ!」

「・・・・お、俺のせいじゃ・・・・」


自分で言った手前、長老に今すぐやめろとは言えず、ナナは額に青筋を立てながら堪える。

数分後、温泉に入るよりもツヤツヤで十歳若返った美熟女、いや、美魔女が満足そうにドモンに寄り添っていた。



「ナナ、ゴメン・・・」着替えながら不貞腐れるナナを宥めるドモン。

「・・・まあ今回は仕方ないわ。事故よ事故。長老さんのことを考えたら私も止められなかった」


「それは俺も多分・・・同じ事を考えていた。どれだけ辛くて寂しい思いしてたんだろうって」

「もしドモンが目の前で土下座しながら殺されるところを見たら、私はきっと立ち直れないわ・・・だから長老さんが喜ぶならって・・・」


長老を含むゴブリン達の話はそれほど衝撃だったのだ。

どうにかして癒やしてあげたい。その気持ちに偽りはない。


ただその方法があまりに特殊すぎた。


「でも~!ドモンは私がドモンと同じような事をしたらどう思うの?」

「嫉妬します・・・わかっておりますです」

「わかってるならいいけど。男と女は違うからその重さも違うけどね」

「いえ同じです。ごめんなさい」


今回はドモンだけが悪いわけではないのでお仕置きはなし。


「・・・あれ?でもどうしてあんた元気だったのよ?」

「お湯の中で長老がずっとこっそり触ってきてて・・・つい」

「あーんの女!!キーーー!!」


長老はいつでもその機会を伺っていたのだ。

ナナは今、それに気がついた。



そんな長老は向こうでサンとジルに責められていた。

ジルは長老の聞き覚えのない声を聞いて、サンはよく聞く声を聞いて、こっそりふたりでお風呂を覗いてしまった。


「長老なぜですか!私の方が先に御主人様にお願いしていたのに!」

「うー!サンはずっと我慢してます!なのに!」


ナナよりも怒るふたり。


「ごめんなさいね・・・ついあの人に甘えてしまって・・・」

「あの人!!」「あの人!!」

「ああ、あの人って御主人様、いえ、ドモン様のことですよ」

「知ってます!!もうっ!」


ジルは長老に詰め寄り、サンはスタタタとドモンの元に涙目で詰め寄る。


「サン、ごめんね。私が悪いのよ」

「どうして奥様が悪いのですか!」

「私が長老さんに少しだけならくっついてもいいよって言ったらこうなっちゃったのよ・・・」


本来一番怒っているはずのナナに謝られ、困惑するサン。


「ごめんなサン。俺もナナも今回は流石にまさかのことだったんだ・・・」

「御主人様は悪くないです。でもぉ・・・」

「本当は次がサン・・・いや、やっぱり俺が悪いよ・・・」

「ごじゅじんざまはわるぐないぃぃ!うぅ~!!うっうっうぅ~!!」


流石のナナもサンを気の毒だと憐れんだ。

サンだけがナナの為を思い我慢を重ねているというのに、すぐに他の女性が先を越してしまう。

ナナがサンの立場なら、とてもじゃないが耐えられるとは思えなかった。


「ねえサン・・・ドモンと温泉に入っておいでよ。ふたりとも・・・もう我慢しなくていいわよ・・・見ていて私も辛いもの」

「いいんですぅ~うー!!サンはごじゅじんざまがお戻りにウッグ・・・なるのを待っでますから。ジルと・・・入ってきます・・・」


サンとジルがしょんぼりしながら温泉に向かったのを見送り、皆長老の家へと戻った。




「まあこれでわかったと思うけれども、この温泉は金が湧き出ているようなものだ」

「はい」


ドモンの言葉に長老以外は驚きで言葉も出ない。


「そこで俺はここに宿を建てようと思っている」

「や、宿でございますか?」

「ああ、旅人や街のみんな、ゴブリン達や他の種族達のための宿だ。その宿の運営や管理をお前達に任せたい」

「!!!!!」


人間相手に商売を始めたいというのはなんとなく伝わってはいたが、まさかそんな重要な役割だとは考えていなかったゴブリン達。

どうなるのかはもう想像もつかない。


「俺の住む街の領主には実は話をしていたことがあるんだ。もし話がわかる魔物達がいるならば、宿を運営して貰えばいいって」

「ほ、本当でございますか?!」長老の声も思わずひっくり返った。


「新型馬車なら街からも数時間で着くし、こんないい温泉なら人気も出るはずだ。それに名物となるアップルパイもある」

「それはわかりますが、私達は魔物なのですよ?先程も言った通り、ドモン様がいくら違うと言ってくださっていても、ほとんどの人間はそうは思いません」ザックや他のゴブリンたちからも同様の声が上がる。


「一度俺達と一緒に街へ行って直接交渉するしかないな。そして徐々に理解を得て、人との距離を縮めるしかない。恐らく簡単ではないし時間はかかるとは思う。が、やるしかない」

「・・・・・」


「屋敷の騎士を交代で常駐させて、一緒に働いてもらえればお前達の護衛にもなるし理解も早まると思う。儲かると知れば奪おうとする人間も現れるだろうからな。これは魔物だからという訳じゃなく、人間同士でも争いになるくらいの宝だからだ」


ドモンのその意見に騎士が立ち上がる。


「それについて私の方からドモン様と長老様に提案がございます。ドモン様が買い付けからお戻りになるまでの間、私がここに常駐して護衛をしても宜しいでしょうか?野盗や冒険者達から守りたいのです」

「ああ是非頼まれてくれるか?」

「はい!この命に替えても!」


わぁ!とその騎士の元へゴブリンの子供達が集まった。

その子供達の頭を優しく撫でる騎士に長老も目を細める。


「何卒・・・何卒よろしくお願いいたします」

「はっ!お任せを!」


長老に向かって頭を下げる騎士。

騎士のその横には子供達に混ざり、ナナ似の巨乳美人ゴブリンがちょこんと正座をしていた。


「はっは~ん・・・そういうことかお前ら」ドモンがニヤニヤ。

「い、いえ!そんなことは!!」

「もうやっちゃったの?」

「そんな!まだ・・・」

「まだ?する気はあるのなフフフ」


真っ赤になる騎士とナナ似のゴブリン。


「ハハハやっちまえやっちまえ!」

「ちょっとドモン!!だ、駄目よ騎士さんも無理やり押し倒したりしちゃ」ナナがナナ似のゴブリンの身を案ずる。



「そしていつか本当に人間とゴブリン、他のまだ魔物と呼ばれている別の種族との垣根が取れたらいいな」



そう言ってドモンはタバコに火をつけ、ゆっくりと長老の家から出て、空を見上げながら歩いていった。





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