第132話
「つ、ついに俺の夢だった・・・混浴露天風呂に入れるのか!」
「いえドモン様、だから混浴ではないのです・・・」
ドモンのしょーもない夢にツッコむザック。
戻ってきていたサンとジルも、その『ドモンの夢』を聞き、への字口に。
「良いじゃねぇか。巨乳の女もいるんだろ?可愛いところ何人か見繕ってくれよ。お前らもナナとかサンのおっぱい見られるじゃねぇか。あとお前の妹も抱いてくれって本人から言われてるし。いやぁ夢だったんだよ、混浴でみんなとしっぽりズッポリ」
「ご、御主人様・・・奥様もジルも後ろにいらっしゃいますよ・・・」
とても気まずそうなサン。
「・・・・」
そうしてドモンは星屑となった。
馬車を少しだけ進ませて、焼けたアップルパイをふたつサンとジルに持たせ、馬車の見張りの御者以外の一行は森の茂みの中へ。
少しだけ警戒しながらもゴブリン達が姿を表す。
小さなゴブリン達は、大人達の後ろへとまだ隠れている。
「村というより、本当にちょっとした集落みたいな感じだな」
それがドモンの第一印象。
もう少し大勢のゴブリン達がいるのだと思っていたが、せいぜい50人いるかいないか程度であった。
「よくぞおいでくださいました。ええと・・」
「ドモン様です。長老様」
「え?長老?」
目の前に立っていたのは、ドモンと同じくらいの年齢とみられる女のゴブリン。
全て想像していたものとは違っていて、ドモンは面を食らった。
「長老ってあんたが本当に長老なの??」とドモン。
「・・・女が長老ではおかしいですか?」
「いやほら、正直もっとヨボヨボの爺さんが出てくるかと思ったら、とんだ美熟女が出てきて驚いたんだよ悪いな」
「こらドモン!どこ見てんのよ!!」
テレビで見る例のゴージャス姉妹の姉、もしくは貴族の屋敷の奥様方のような風貌で、動物の皮で出来た水着のような物を着て、ミニスカのような腰みのを付けていた。
ドモンの視線は当然釘付けとなり、それにすぐに察したナナに怒られた。
「な、なんなのですか・・・」
「ちょ、長老、ふたりだけで大切な話がある。人間とゴブリン達のこれからについてだな・・・」
「御主人様ダメですぅ!!」
「長老様!ドモン様から離れて!!」
美熟女にジリジリとにじり寄るドモンの手を、サンとジルが引っ張る。
ドモンから発せられる発情したオスの匂いを感じ、え!え?と長老が後ずさり。
もう子を生む年齢でもない上に、まさか人間にそんな目で見られるとは思ってもいなかったのだ。
「お、落ち着いて下さい。私は長老なのですよ?もう殿方とそういった事は・・・」
「殿方!ウヒヒいいねぇその言葉遣い。大人の魅力がプンプン伝わるぜ」
「ああ!堪忍してくださいまし!」
「イーヒヒヒ!!ナナとは違う大人の本物の『堪忍して』が出てしまったか!それはもう好きにしてくれって事だよな?」
「ああもう・・・ドモン様・・・」
ヨロヨロとドモンの胸に飛び込み、上目遣いで甘える長老。
サンとナナがドモンを引っ張り、ザックとジルが長老をドモンから引っ剥がす。
ドモンが本日二度目の星屑となった後、長老の家で正式な会談が行われた。
家と言っても木の枝や藁などで出来た簡単なもの。
それでもこの村では一番立派な家だ。
「今後の人間との付き合い方と、温泉について話をしに来たんだよ」
「そうでございましたか・・・ふぅ・・・今日は暑いですわね」
ドモンの横に座り、しなだれかかる長老。
胸元の汗を手で拭う。
「ねえ!普通こういうのって向かい合って話すんじゃないの?!」とナナがご立腹。
「まあいいじゃねぇか。そういや長老、この村に子供って何人くらいいる?」
「15人ほどでございましょうか?」
「じゃあジル、アップルパイを16等分に切り分けてサンと一緒に子供らに配れ。残ったひとつは長老にやれ」
「はい!」「はい!御主人様!」
ドモンがそう言って更に長老の肩を引き寄せた。
「あぁ~ドモン様・・・ジルを召し抱えたのでございますか?」
「いや、今だけ手伝ってもらってるんだ。なんだよ、嫉妬してるのか?」
「はい」
「!!!!!!」
はっきりとそう返事をした長老に驚くザックやナナ、そして騎士達。
ドモンだけは満足げ。
歳を聞けばドモンのひとつ上であったが、肌の艶はエリーとさほど変わらない。
「温泉の効果かもしれませんウフフ」
「それは一緒に入らないかと誘っているのか?」
「ドモン様には隠し事など出来ませんね」
「覚悟は出来てるだろうな?」
「あああああ!!」
ドモンの鋭い爪が長老の太ももの肉へと食い込む。
こうなるともう身動きは取れない。動けば肉が削げ落ちる。
その恐怖と快感はナナも当然知っていた。体を硬直させ、恍惚とした表情の長老。
全ての思考と抵抗力が失われる。
「ドモン・・・やめてあげて。ねえお願い」優しくナナが語りかけた。
「ご、御主人様!サンに!サンにください!」アップルパイを配り終え戻ってきたサンが、異常な状況を察知しドモンに寄り添った。
「ああ長老様・・・なんてことを・・・」こうなるのは本来は自分であったと、嫉妬と羨望、そして後悔をするジル。
あのナナがドモンに触れることも出来ないという状況に騎士達も気が付き、「落ち着きくださいドモン様・・・」と小さく囁く事しか出来なかった。
ドモンはドス黒い何かを必死に抑え込める。
長老が幸せの絶頂で白目を剥きそうになったところで、なんとか正気に戻ったドモンがすぐに謝った。
「わ、悪い悪い。こんな美人が隣りにいるとつい・・・」
「ドモン駄目よ?ね?我慢出来ないなら私がなんとかするから。私はドモンの奥さんなのよ?」
ナナがドモンを優しく諭す。
ここでさっきのように怒るのは逆効果と考えた。ドモンを『捕食者』にしてはならない。
「うぅ奥様、大変失礼致しました。ですがドモン様の・・・あぁ・・・」
「仕方ないわ。ドモンがああなったらもう逆らえないもの・・・ごめんなさいね」
体中の力が抜け、倒れそうになる長老の肩をナナが優しく抱く。
何とも言えない空気が流れる家の中。
そこへゴブリンの子供達が飛び込んできて、慌てて長老がきちんと座り直した。
「ドモン様!!」
「おいしいですドモン様!」
「長老様!ドモン様は良い人間です!僕は初めて知りました!」
「サクサクで甘々で美味しいよぅ」
「ねえドモン様!もっと食べたいです!」
「長老様も食べましたか?もう幸せでほっぺたが落ちちゃいますよ~!」
ワイワイと子供達が幸せそうな顔で語る。
「お、おぉ美味かったかみんな。貰ったリンゴはまだあるし、砂糖や小麦粉もあるからもう少し作ろうか。サンとジル!あとナナも手伝ってくれ」
「はい!」「わかったわ!」
「あとごめんナナ。助かったよ」
「もう仕方ない人ね。すぐスケベおじさんになっちゃうんだから。まああんな格好でくっつかれたら男の人がそうなるのも仕方ないかもしれないけど」
ナナがヤレヤレのポーズ。
本当はスケベおじさんどころの話ではない『危険な何か』を感じ取っていたナナだったが、それには触れずにおいた。
「ドモン様、奥様、私も大変失礼致しました。ただこんな事・・・もう記憶に無いほどでして、正直年甲斐もなく気持ちが高揚してしまったようです・・・ふぅ」
「まあ私のお母さんもたまにドモンにクラクラしちゃうことがあるくらいだしね。お父さんのことを愛してるのをわかってても、ドモンが何か言って顔を赤くしちゃうんだから」
「ええ?!エリーが???」
長老とナナの会話に驚くドモン。
「だからあんたはカールさんにも怒られるのよ。女の人に迫ってる自覚がないんだもの」
「うーん、そんなつもりは・・・あったりなかったり」
「今回は?」
「・・・ありました。だってこんな美巨乳の美熟女がこんな格好で現れるんだもん。我慢なんて無理だよ」
「ほら!それよそれ!見なさい長老さんの顔を!」
ナナに指を差された長老の顔は、先程謝ったばかりだというのにもう今にも蕩けそうだった。
「ねえ長老さんしっかりして!隠れたスキルとか見えるって言ってたわよね?ドモンにそういうスキルって本当にあるのかしら?」とナナ。
「あ・・・!は、はい!申し訳ございません・・・つい・・・で、ではドモン様、りょ、両手を繋いでいただけますか?」
「うん」
ドモンが長老の両手を掴む。
長老のすべすべの手の甲を、無意識にドモンが親指で擦った。
「ふ、ふぅ~・・・あぁ~ドモン様ぁ・・・うぅ奥様、せめて一緒に温泉に入るだけのお情けを・・・」
「ちょっとちょっと!!それよりスキルはどうなってるのよ!」
「あー・・・何も見えません・・・恐らくドモン様が元々持つ魅力が・・・うぅ・・・」
「手!!手を離して!早く!」
ナナの言葉に慌てて手を離すドモン。
今度は本当にそんなつもりはなかった。
「スキルは見えませんが、魔物にとって・・・ドモン様のお力が魅力となってふぅ・・・効果が現れるのかもしれません」額の汗を拭う長老。
「ね、ねぇジルはどうなの?御主人様のこと・・・」とサン。
「サン、私にそれを聞く?そりゃ少しだけドキドキしたけど・・・でも長老様ほどではないと思う。長老様のこんな姿を見たことがないもの。それに子供達も平気みたいだし」
キャッキャとドモンに抱きつく子供達を見るジル。
そんなジルにザックが一度視線をやって、目をそらした。
我を忘れ、ドモンに向かって飛び込んでいきそうになっていたことは、本人には内緒にしておいた。
「私達は相手が持つ力をある程度知ることが出来るのです。ただそれは年齢と経験によって違います。なので俺・・・いや、私もドモン様の強烈な力を感じたのです。恐らくそれが関係してるかと・・・」とザック。
「強き者の子を生むことが魔物にとって生き残る道でもあります。なのでその私も・・・うぅ・・・」苦しげに答える長老。
「でもドモンってHP60ちょいしかないのよ?」
「70ちょいだってば!」
妙にそこにはこだわるドモン。
「た、確かにそのように見えています。しかし感じるのです!大きな力を・・・」
「え?感じちゃうの?どこが?イヒヒ」
「はぁん」
「ドモンそれじゃない!」
長老の胸を指でつついたドモンが、三度目の星屑となった。