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第128話

ドモンが馬車に向かってちょいちょいと合図を送り、50メートルほど進んだところで手を広げて止め、ナナに先に戻るよう促す。


「き、気をつけてよ一応・・・」

「ああわかってる」


ナナが戻ったのを確認し、ドモンはその場に座ってまたリンゴをかじる。

かじりながら、木々が生い茂る方へと向かって叫んだ。


「これをくれた人!美味いよありがとう!」

「・・・・」小さくガサッと草むらが音を立てる。


「俺はこれのお礼がしたい!少しだけ待っててくれるか?もちろん危害を加える気もない!」

「・・・・しっ」ガササと鳴る草むらで更に小さく声が聞こえた。


ドモンはニッコリと笑って、リンゴの入ったカゴを持ち上げる。

が、予想よりも重たかったためにバランスを崩し、転んでしまった。


「あ!」

「ダメ!」


草むらからまた小さな声。

その草むらに向かって「大丈夫だ」とドモンが声をかけ、こぼれたリンゴを拾ってみんなの元へと戻っていった。


「だ、大丈夫ですか御主人様!」

「ああ大丈夫だ。ちょっと転んじゃったけど」

「いやそれよりも魔物の方は?!」と焦る騎士。


「それも大丈夫だ。というより武器を置いて欲しい。危害を加えないと約束した」

「し、しかし!!」

「いいから置け!それが嫌なら帰れ!」

「か、かしこまりました・・・」


ドモンに気圧され、武器を馬車の中へと片付ける。


「サン、バターや小麦粉、それとミルクもあったよな?」

「はい!すぐにご用意できます!」

「ボウルと一緒に持って来い」

「はい、かしこまりました!」


サンが駆け足で準備に取り掛かった。


「わ、私達も何かお手伝い出来ますでしょうか?」

「じゃあ馬車の中のかまどを使うから、ちょうどいい木の枝を集めてきてくれ」

「かしこまりました!」


御者と騎士達がすぐに走っていき、入れ替わるようにサンがボウルに全ての材料と調味料を入れて戻ってきた。


「わ、私は?!」

「ナナは・・・」

「応援係は嫌よ!」


すでにパンパンに膨らんでいるサンの頬。


「じゃあリンゴの皮を剥いてくれ」

「出来ないわ」

「ふっぴぃ~!!!」


即答したナナに盛大に吹き出すサン。

腹を抱えながら「わ、私がやります」とリンゴの皮をナイフで剥き始めた。


「それじゃあナナは材料用意するから生地を手でこねてくれ」

「そのくらいなら出来そうね」

「出来たやつをひっくり返して落とすなよ?」

「・・・それは半々の確率よ」

「ぴぃぃ~!!」


またも盛大に吹き出したサンに「冗談よ冗談」とナナは笑ったが、実際のところ三分の一くらいの確率だろうとドモンもサンも思っていた。

そこへ騎士達も薪となる木の枝を大量に持って戻ってきたので、鍋に火をかけるためのかまども用意してもらう。


サンが剥いたリンゴをくし形切りにし、バターを溶かした鍋の中へ敷き詰めていく。

ワインを少しと砂糖もドサドサと入れ鍋を火にかけると、周囲に何とも言えない甘い匂いが立ち込めはじめた。


「んは~んはんは~・・・クンクン・・・はぁ~いい匂いねドモン!」

「お前はこの辺の空気を全部吸い込む気か。生地は出来たのか?」

「こんな感じでいい?」

「うん、こんなもんだ」


出来上がった生地を丸く伸ばし、その上に煮えたりんごを並べていく。

ピザのように端をくるりと丸め、形を整えた。


それを三つほど作り、馬車の中のストーブに薪を焚べて火をつける。


「この暖房でお料理も出来るんですね御主人様」

「うん。鍋を煮たり、この前作ったピザのようなものを作れるようにしてあるんだ」


薪を焚べる部分が二段に分かれていて、上段で物を温めたり焼いたりすることが出来るようになっている。

薪を上段に入れれば、じっくりと火を入れることも出来るのはドモンのこだわり。


「この大きさだとひとつずつしか焼けないのが残念だけどな」

「ねえ私にも見せてよ。うわあっつ!!」ナナが馬車に入ってきてすぐに飛び出す。


「そりゃ真夏に暖房いれてるようなもんだしな。俺が言ってたサウナがまさにこんな感じだよ」

「こんなものの何が気持ちいいのよ!」

「サ、サンは平気です・・・」


上半身裸になったドモンが汗を拭うと、サンが真っ赤な顔をしながらスンスンとドモンの匂いを嗅ぎはじめ、ドモンは慌てて馬車から飛び出した。


「ナ、ナナ!早く!早く俺に水魔法を!」

「クンクンクン・・・あ~ダメよドモン。もう駄目なの。今日ばかりは無理だわクンクンクンクン・・・」

「なんでだよ!!」


ナナから逃げるように木々が生い茂る茂みに飛び込むと、ガサゴソと音が聞こえたあと、頭から水をかぶったドモンが出てきた。


「ど、どうやって水をかぶったの??」

「分かんねぇんだよ。急に水が大量に降ってきた。まあ助かったよ」


体を拭きながらホッと一安心のドモン。

買い出しの時には制汗剤を大量に買うことを誓う。


「御主人様~焼けたみたいです~」と汗だくのサン。

「バカ!ずっと見張ってなくて良かったのに!」慌ててドモンがサンを馬車から引きずり出した。


ナナの剣を借りて、焼き上がったそれをかまどの中から出すと、先程よりも更に甘い匂いが溢れ出す。



「出来たぜ。これがアップルパイだ」



焼けたリンゴの甘く香ばしい匂いと、バターをたっぷり使ったパイ生地の匂いが混ざり、全員の食欲が爆発しそうになる。

が、ドモンは「ゴメンなみんな。これを最初に食べるのはあいつらだ」と皿を持ち、先程飛び込んでいったところへ向かっていった。

サンに他のアップルパイを焼く準備を頼み、皆で待っているようにと指示を出す。



「おおい、いるんだろ?これはお礼だ。出てきてくれ」


ガサゴソと音のする方へ声をかけるドモン。

少し間があった後、緑色をした肌の屈強な男が現れ、すぐに片膝を付いた。

その後ろには目付きの鋭い女の魔物が隠れている。


「色々失礼を行ったこと、お許し下さい!」

「何を言ってんだよ。俺はただお礼を言いに来ただけだ」

「貴方様の邪魔をする気はなかったのですが、お近くにいらっしゃられましたので、せめてご挨拶だけでもと思い・・・」

「なんだそれ??」


まるで屋敷の中の騎士達のような態度の魔物の男。

一体なぜそんな態度なのか、ドモンには皆目検討もつかなかった。






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