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第126話

出発の朝。


店の前にもう一台の新型馬車が到着した。

病人や怪我人を運ぶ救急車両だけれども、荷物を積むのに特に問題はない。


御者の他、ナナとサンを守るための騎士も二名ほどやってきた。

いくらナナが冒険者だと言ってもカールが心配をし、屋敷の中でも特に優秀な騎士を護衛として付けたのだ。


「もう!心配性なんだからあの人!」


見張られているようで嫌だとわがままを言うナナ。

御者は仕方ないとして、サンもドモンとナナとの三人での旅を想像していただけに、ぷぅと頬を膨らませていた。


「仕方ないだろ。それに今回は買い出ししてる間俺がいなくなっちゃうから、カールも気を利かせたんだよ」

「それでも平気よ!私だって一人前の冒険者なんだから」

「私も奥様がいれば平気だと思います」


ドモンにそう諭されても納得がいかないナナとサン。


「いやぁこれは困りましたな・・・ハハハ」

「悪いな。しっかり護衛頼むよ」

「それは私共にお任せ下さい!・・・それともちろん・・・邪魔は致しませんので」


流石に屋敷で長年勤めあげているだけあって、そこら辺りの事も当然心得ている護衛のふたり。

小声でそれをドモンに伝えつつ、カールから預かっていた金貨をドモンに渡した。


「ねぇドモン!あのテントも持っていこうよ!」

「前に奥様が言っていたすぐに出来る小さなおうちですね!」

「馬車で寝れるだろ今度は」

「やだテントがいい!」

「御主人様!サンもテントがいいです!」


昨日ワンワンと泣いていたのは何だったのか?

今度は旅に出るのが楽しみで、キャッキャと騒ぐふたり。

やれ肉だ、網だ、などと荷物を積み込んでいく。テントも結局持っていくことに。


その様子を横目に見ながら、ドモンがヨハンとエリーに挨拶をする。


「あーええと・・・ヨハン、エリー・・・」

「ああ、わかってるよ。もしかしたら戻ってこられないかもしれないんだろ?」

「まあ・・・それは俺の意思だけじゃどうにもならないんだ。元の世界に戻ったままになるかもしれないし、他の異世界に行くということもあり得る」

「こっちに帰ってこれると信じてるわよ・・・いや!やっぱり帰ってきて!」


エリーも涙を浮かべる。

この家族はみんな泣き虫だった。


「心配すんなって。帰ってきたらサンとの結婚式でカレーライスだぜ?今度は牛肉で作るからそれもまた美味いぞ?楽しみにしてろ」

「うぅ・・そうね」

「ヨハンにも格好いい服買ってくるからな。あといい調理器具も買ってくるよ」

「・・・・あぁ楽しみにしてるよ」


ヨハンとがっちり握手をし、エリーとハグをする。


「このエリーのハグをされたら戻ってこないわけには行かないよ。最高だ。揉み放題のヨハンが羨ましいよ」

「やだもう~ドモンさんったらぁ!」

「ワハハ!そのくらいならいつでも楽しませてやるから、必ず帰ってこい」

「フフフ・・・楽しみにしてるよ。キノコ食って待っててな」


もう~!とニコニコしながらぴょんぴょん跳ねるエリーと、禿頭をペチペチと叩いているヨハンに手を振り、ドモンが馬車へと乗り込んだ。

慌ててナナも一緒に乗り込み「いってきまーす!」と手を振ってドアを閉める。



サンもふたりに手を振り、まるでちょっと出かけてくるような感じで一行は出発した。



街を出て、少し荒れた道を通っても新型馬車はほとんど揺れず、特に以前苦労したドモンは感動していた。


「怪我した時に私の膝の上にドモンを座らせていた時とはまるで違うわね」

「いやぁ・・・本当だな。あの時はこんなに話す余裕もなかったよ。脚が悪いから立ち上がるわけにも行かないし、座ってたらお尻が痺れるし怪我も痛いしで」


「ドモンのお尻ちっちゃいしね」

「それ関係あるのか?まあ関係あるのか。ナナとエリーを見てると、前に冗談で言ったけど本当に何も感じてないみたいだったもんな」

「んーなんかバカにされてるみたいで悔しいけど、ちょっと揺れてるなーくらいだよ?」


そう言って自分のお尻を擦るナナ。

ドモンもナナのお尻を触ると、思わずナナが変な声を出してしまった。


「誰かに触られた時だけ敏感なのはなんでだろ?」

「知らないわよ!バカ!」

「ご、御主人様~、走行中は危ないのでどこかで休憩した時だけにしないとダメです~」

「アハハごめんごめんサン。ほらナナが変な声出すからバレて怒られちゃったじゃないか」


みんなでそんな談笑をしながら二時間ほど馬車を走らせる。

お尻が楽なことにも感動したが、驚くべきはそのスピードであった。


馬車が車体ごと跳ねる事が無くなり、推進力が今までとは桁違いに。

街の中ではあまり感じなかったが、実際に旅をしてみて初めて知るその効果。


同じ時間でも以前よりも倍近く進んでおり、この調子だと一日半もあれば到着してしまう計算。

何日も夜を過ごしながら語り合ったり、テントで何かしたりを考えていたサンとナナは不満顔。


「きゅ、休憩しようよドモン!あの辺の木陰が良さそうよ?」

「まだ昼飯前だぞ?」

「サ、サンも疲れましたぁ~」

「う~ん、じゃあ仕方ないか。一休みしようか」


ドモンの言葉を聞いて馬車を停止し、馬車と御者台から飛び出すふたり。


「なあ、休憩ってよく考えたら馬車の中で良くないか?涼しいし」と馬車の中でごろりと寝ているドモン。

「ダメよ!!それじゃあれにならないじゃない!あのあれ」

「気分転換ですね!奥様、テントを出しましょう!見てみたいです!」


ナナをフォローしながらサンも張り切る。


もう一台の馬車の御者も降りてきて、「まあお嬢さん方はピクニック気分を楽しみたいものなんですよ。屋敷の奥様方やお嬢様方も一緒でさぁねハハハ」と、ようやく降りてきたドモンにそう諭した。


護衛の騎士達は、周りの安全を確認した後、馬車の点検をしてから合流するということになった。

優秀なことに、故障したタイヤの交換やサスペンションの修理まで大工に教わっていた。

もちろんカールが手を回していたからである。


「いくわよサン!見ていて!これがドモンが持ってきた異世界のテントよ!」


ナナが空中にテントを放り投げ、ドサッと地面に落ちた。

徐々に家が出来上がるのかと思い、ただただ待つサン。そして赤い顔のナナ。


「紐を解けというのに・・・」

「忘れてた。今度こそ行くわよ!!それ!!」


ボンッと一瞬で出来上がるテント。

危なくサンを巻き込みそうになったが、今度こそ以前の反省を生かした。


「きゃあああ!!」

「うお!家が現れたぞ?!」


こんな一瞬で出来上がるとは思っていなかったサンが叫び声を上げた。

初めて見た御者も目を白黒。

サンの叫び声を聞いて慌てて駆けつけた騎士達も、テントを見て驚く。


「ほらサン、入ってみてよ」

「は、はい」


懐かしむようにテントの中を楽しむナナと、恐る恐る中に入ってちょこんと座るサン。


「ハハハ、小さいサンの小さな家みたいだな。なんか似合ってるよ。今度からこのテントはサンの家と呼ぶことにするか」

「サ、サンのおうち・・・う、嬉しい・・・」


ドモンの冗談にサンが大喜び。


「だ・か・ら!ドモンはどうしてサンばっかりなのよ!!」とふくれるナナ。

「ナナには馬車があるだろ。まあ・・・ほとんどサンの馬車とサンの馬みたいな感じだけれども」

「ほ、本当にサン、サンって・・・最近はサンばかり・・・」


涙を浮かべ始めたナナに気がついた皆が、ドモンの方へ不安そうな顔で目を向けた。


「ナナのものだってあるだろ。贅沢言うな」

「私に何があるのよ!言ってみなさいよ!!」

「俺」

「・・・・」


今すぐに飛び跳ね抱きつき、押し倒してクンクンし、ドモンの服を剥ぎ取って自らも脱ぎたい気持ちを必死に堪え、フンフンと鼻息を荒くするナナ。


「とてもじゃないけど夜まで我慢できる気がしないわ」

「我慢しろスケベおっぱい。ほら飯の準備に取りかかれ」


騎士と御者は薪拾いに、ナナは網を用意してかまど作り、ドモンは食材を取りに馬車へ。

サンは「サンのおうち~」とテントの中でまだコロコロと幸せそうに転がっていた。




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