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第121話

結婚式を終えて一週間後。


「ドボ~ン・・・風邪引いちゃったみたい」


朝起きるなり赤い顔をして、ズルズルと鼻水をすするナナ。

おでこに手を当てると少し熱が上がってきている様子。


「あぁこりゃ駄目だ。今日は大人しく寝ていろ」

「ごべんね」

「お前は一度鼻をかめ。食欲はあるか?」

「わがんない」


ハンカチを出し、ズビーっと鼻をかむナナ。

この世界には、ちり紙のような物はあるが、やや高価なのでトイレの時くらいにしか使うことがない。


「とにかくなんか作ってくるから、それ食べて薬を飲め。俺の風邪薬やるから」

「ありがとう~」


ドモンはサンに手伝ってもらい、小麦粉をこねてピザのようなものを作った。

ただ具はトマトと玉ねぎと香草のみ。

それにチーズをかけてオーブンで焼いただけ。


この店には天然酵母がないので生地がカチカチになってしまったが、ペラペラ(クリスピー)タイプのピザもまあ美味いからいいだろうと無理やり納得するドモン。

一切れでもいいから何か食べて、薬が飲めればそれでいい。


「おまたせしましたぁ」

「ごめんねサン」

「いえ奥様、お気になさらずに。それよりも食べられそうですか?御主人様がピザ??と言う物を作ってくれました」

「チーズを乗せたパンみたいなものかしら?」


サンとナナが会話しているところへ、遅れてドモンもやってくる。


「どうだ?食べられそうか?」

「うん、匂い嗅いだら少し食欲出てきたみたい」

「少しでもいいから食べろ。食べ終わったらこの薬を2錠飲め」

「わかったー」


ピザを一切れ持って口に運ぶナナ。

その瞬間カッと目を見開いた。


「優勝」

「何がだよ」ドモンが笑い、サンの頬が膨らむ。

「決まったのよ優勝が。風邪の時食べたい物選手権」

「随分と狭い範囲の選手権だなそりゃ。前回の大会はいつだったんだよ」

「お父さんの髪の毛がまだあった頃よ」

「分かんねぇよ」


ナナのあまりにも独特すぎる表現に「ぷっぴぃ!」という笑い声とともに、床に四つん這いになるサン。

ナナは何がそんなにおかしいのか不思議な顔をしながら、モグモグとピザを食べ続け、結局1枚まるごとペロリと平らげた。


「すごい食欲じゃねぇか。ほら薬」

「ありがとう」

「今日はとにかく寝ていろよ?」

「うん。あ、水浴びは・・・サン、任せていい?」


ようやくサンが復活したというのに、とんでもないお願いをしだしたナナ。


「あ、あの水浴びを任せるというのはもしかして・・・」

「ドモンの水浴びよ。この前も一緒にしたしもう平気よね?」

「え?え?ええ?!」

「あ、でもスケベなことはまだ駄目よドモン。サンもよ?」

「し、しないってば!」


突然のナナの言葉にドモンも焦る。

サンは真っ赤な顔をして顔を両手で覆っていた。


「ドモンもサンの背中くらい流してあげてね。じゃあおやすみ~ふぁあ~」

「奥様!どうして私まで水浴びすることになっているのですか!お、奥様!」

「すぴー」


お腹いっぱいになりすぐに寝てしまったナナ。

残されたドモンとサンが顔を見合わせた。


「む、無理することはないぞ?」

「いえっ!そ、そんなことは・・・」



ナナとの結婚式は先日したばかり。

流石のドモンもここでナナを裏切るような真似はできない。それはサンも同様だった。


水浴び中、変な気分になってしまわぬように、極めて普通にやり過ごそうとするドモン。

なるべくサンの方を見ないようにしながら、屋敷のお風呂についての話を始めた。


「なあサン、屋敷の風呂ってどうやってお湯を溜めてるんだ?」

「は、はい!お屋敷のお風呂は半分ほど水を溜めまして、沸かしたお湯を何度も入れて温度を調節しています」

「え?いちいちお湯を運んで入れてたの?!なんか魔法で沸かすとかじゃなく?」

「ウフフ、そんな事が出来たら、みんな水浴びじゃなくお風呂に入れますよ」

「なるほどそりゃそうか・・・」


ちなみにこの家では水を大きな桶に溜め、柄杓のようなもので体にかけていた。

この世界で冬を経験していないため、ドモンは冬の水浴びの心配をしていたが、サンから「各ご家庭でも冬は沸かしたお湯を足して浴びるのですよ」と教えられ納得した。



「ま、前の方を洗いますね?」

「前は自分で洗えるよ!!」

「ダメなの!サンが!!・・・あ、いえあの私が行いますので。そのかわり正面に立つのは恥ずかしいので後ろから・・・しますね?」

「う、うん・・・」


ドモンの背中にしがみつくような形で手を伸ばすサン。

ピッタリと体がくっつく。


「ちょっとサン!まずいってば!あぁ!!」

「ふー」

「胸とお腹だけでいい。下はもうダメだ・・・」

「ふーふー」


サンは息を荒くしながら一心不乱にドモンの体を擦り続ける。

そこからの記憶はふたりともないが、何故かドモンはやけにスッキリとした顔をして落ち着いていた。サンはやり遂げた顔。




「これでゆっくり温かい風呂にでもあればいいんだけどなぁ。ふたりで一緒に入ってくつろいで」

「そ、そうですね。でも私達が何人も交代でお湯入れをしなければなりませんから・・・」

「そうだな。せめて給湯器を作ってからか。シャワーも欲しいし」

「きゅ・・?給湯器とはなんですか?シャワー??」

「蛇口からお湯が出る機械だよ。シャワーはお湯が細かく拡がって出て、髪や体が洗いやすくなるんだ」


サンの体をドモンが流しながら給湯器の説明をするドモン。

一度何かの記憶をなくしてからは少し自信がつき、恥ずかしさがかなり減ったサン。

もう体を手で隠すことも無くなった。


「そもそもどこから水が出るんだろ?この店にタンクがあるのは知ってるけどさ。屋敷もそうだったし噴水もそうだよな?モーター的なものもないはずなのに」

「うーんサンにはわかりません。ごめんなさい」

「いやいいんだ」


ドモンとの心の距離が縮まり、サンは無意識の内に少しだけくだけた話し方になってしまっていた。

手際よくドモンの体を拭き取りながら、ちょいちょいとイタズラをしてくるドモンに「駄目ですよ、いたずらしちゃ・・・ド、ドモンさん・・・」と言って真っ赤な顔をしたサン。


そのまま目を瞑りドモンの顔に向かって見上げた瞬間、「ドモンさん水浴び終わったかしらぁ。カールさん来てるわよぉ!」というエリーの声が聞こえ、サンの心臓は止まりそうになった。


「ド!御主人様はもう上がっております!サン・・・私もすぐに参りますので!」


大慌てで下着つけ、メイド服を着たサン。

その間にドモンも着替えを自分で済ませてしまい、サンは大後悔していた。



カウンターでエール片手にピザを頬張るカール。

ドモンが自分用にと予備に作ったピザを、エリーが出してしまったのだ。

「ごめんねぇ・・・てっきり余ってるものだと思ったから」とエリーは平謝り。


「昼から酒飲んでピザ食って良いご身分だな」

「ドモンよ、これもなかなか美味いものだな。身分に関しては確かに少し良い方だ。妻をほっといて侍女と水浴びしてる奴には言われたくはないがな」


ドモンの皮肉に倍の皮肉で返すカール。


「も、申し訳ございません!奥様は今病で臥せておりまして、奥様に直接私が御主人様の水浴びのお手伝いを行うように指示されたのでございます!」

「ん?そうであったか。一体どうしたのだナナは?」


サンの言葉に思わずピザを食べる手も止まる。


「まああの様子ならおそらく風邪かな?俺が持ってきた薬を飲ませたところだ」

「ふむ、貴様の薬は効くから大丈夫であろう。ただ用心はしておけ。油断はするな」

「わかってるってば心配性だな。サン、俺にもエール入れて」

「かしこまりました」


カールはプンプンと「皆が皆、貴様のような不死身ではないのだ。心配もするであろう!」と怒っていたが、ドモンはどこ吹く風でエールを飲み、ピザをつまんだ。

「サンドラ、いやサン、ナナの事をしっかり頼むぞ」とカールが命じ、「そちらはお任せ下さい」とサンは二階へ上がっていった。





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