第114話
騒動後、服と体を汚してしまったこの侍女達三人と、厨房にいた時点で色々な意味でドレスと体を汚してしまったサンと、披露宴でドモンに飛び込んだ際にとっくに汚れてしまっていたナナとで、一度お風呂に入ることとなった。
そしてあの状態のドモンはひとりにはしておけないと、ナナがドモンを一緒に連れてきた。が・・・
「ひゃっほーい!!」
「ああ!汚れていますから!!それに奥様の前で!!サンドラも助けて!!」
「おーこっちも可愛いな!脱ぐとデカいじゃねぇか」
「お、おやめくださ・・っん?!んあ??」
「ちぎれるぅ」
ドモンに色々とされてしまう侍女達。
「あ、あんた何やってんのよ!!結婚式の最中なのよ!!!」とナナがドモンの頭を引っ叩く。
「ダ、ダメです御主人様!!」とサンもドモンの腕を引っ張ったが、パーンという大きな音と共に、お尻を押さえながら幸せそうな顔で床にひれ伏した。
三十分後、ものすごくツヤツヤだけれども不貞腐れた顔のナナと、ドレスからメイド服へと着替えたサン、そして少しだけツヤツヤした顔の侍女三人がドモンと共に戻ってきた。
「貴様まさか・・・いや流石にまさかな・・・ハハハ」とカール。
「おう、ちょっとだけ俺からお仕置きしておいたから。こいつらももう俺のもんだ」とドモンがタバコに火をつける。
「もう本っ当にこの人は・・・」とナナが頭に手をやり苦笑した。
そして真っ赤な顔で下を向く侍女三人。
「フハハ!!やりおったわ此奴!!」と義父も笑う。
もちろん浮気である。
妻であるナナを傷つけることは看過できない。
だがその妻であるナナが認めた上で、この三人をドモンが自分のものとしたならば、もう義父にも手出しすることは出来ない。
ドモンが囲う女同士の、ただの痴話喧嘩ということになるのだから。
とんでもない方法で三人の侍女を救ったドモンに感服する義父。
王都に戻った際の土産話がまた一つ増えたと笑う他なかった。
ナナもドモンからその話を聞き渋々了承したのだが、よく考えてみれば口裏だけ合わせればいい話で、実際に抱く必要はなかったと気がついたのはドモンが全員を抱いた後だった。
ただ抱いたと言っても形式的なようなもので、三人合わせてほんの数分で終わる予定が、嫉妬したナナの大暴れのせいで三十分もかかってしまった。
とんでもないものを見せられ続けた気の毒な侍女三人。
ちなみにサンは最初に床に倒れたきり幸せそうにずっと悶絶していたので、最後にみんなに体を洗われそのまま出ただけだった。
「よし!また屋敷に遊びに来た時は、お前らに俺の風呂の時の世話を任せるからいつでも覚悟しておけよ?心も体も綺麗でいろ。いいな?」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
「こらドモン!!」
ドモンの冗談だとはわかってはいるが、思わず反応するナナ。
「ではそろそろ最後の料理だ。コック長、準備は出来てるか?」
「大きな石ですので時間がかかってはいますが、もう少しで焼けるかと」
コック長が火にかけた石を見ながらドモンに答える。
「料理人達は野菜と肉を入れて指示通りに味付けをしたか?」
「はい!分量通りに。ただ一度ご確認頂けますでしょうか?」
ドモンが会場各所に置いてある五つの大鍋それぞれを味見し、塩と胡椒で味を整えてゆく。
鍋は鶏肉から出た脂のお陰で、黄金色に輝いていた。
その湯気の匂いに、たまらずお腹をグーグーと鳴らす者が続出する。
「エリー!子分共!鶏団子の準備はいいか?手分けしてみんなに作り方を教えてやってくれ」
「私が得意なあれねぇ!でもこんな大きな鍋で出来るのかしら??」
「誰が子分だよ誰が!」
エリーと子供達が準備を始めた。
「とにかくナナにだけはやらせるな!この鍋の大きさでナナが作ったら、ゲンコツ鶏団子どころかナナの等身大セクシースケベ鶏団子が出来ちゃうからな」
「ふっぴぃ~!!」
我慢しきれず吹き出すサン。
ナナが「なんでそうなるのよ!それにスケベは関係ないでしょ!!」と文句を言ったが、ドモンが「でも俺はスケベな女の方が好き」と言ったことで「じゃあいいや私スケベのままで」ということになった。
頬がまたパンパンに膨らむサンと三人の侍女。そばにいたカールと義父も。
「ドモン様、焼き石の準備が整いました!」とコック長。
「よし!網ごと運んで大鍋の中に入れろ。火傷するなよ?少しでも触れば肉ごと削げ落ちるぞ!」とドモンが注意する。
そのドモンの声を聞き、料理人だけではなく客達も身構えた。
手袋をはめ、料理人達が4人がかりで慎重に、真っ赤になった大きな石を運ぶ。
直径1メートル半はある大鍋に、更に慎重に慎重に網を斜めにしていく料理人達。
「あれを入れるのは危険ではないのか?!」
「わ、わかりかねますが・・・」
義父とカールも額に汗を浮かべている。
「いや慎重すぎるだろお前ら」とドモンが網の端を掴み、ぐっと斜めにすると石が勢いよく転がり鍋にドボンと飛び込んだ。
ぎゃあああ!!と叫び声が貴族達からも上がり、カールや義父も離れた所にいたにも関わらず思わず後ずさりをして身構える。
その瞬間、石がきゅううう!!という断末魔のような叫び声を上げ、鍋の中身が地獄のようにブクブクと泡を立て沸騰した。
「さあみんな今よぉ!グツグツしてるうちに入れるの!」
「みんな見てくれ!スプーンで掬ってこうやってこの肉を入れるんだ!」
エリーとカールの息子が見本を示す。
「や、火傷に気をつけてくだされ」と義父がエリーに近寄り心配をする。
「鍋におっぱいくっつけたら熱いからな」とドモンが笑うと、エリーと義父が顔を赤くした。
他の鍋でも同じようなことが繰り返され、客達が各自恐る恐る鶏団子を作ってゆく。
皆少しずつ慣れ始め、交代交代楽しげに汗をかきながら鍋を作っていった。
エリーに手を添えられながら義父もひとつ作る。
「いやぁハッハッハ。上手に出来ましたかな?」
「ええ、とってもお上手ですよぉ!」
「ハッハッハ!いやぁ!ワッハッハ!!いやぁ愉快だ!!」
先程までとは打って変わって上機嫌な義父。
「おい浮気は駄目だぞ?おっぱい好きのスケベジジイ」
「な、何を言っておるドモン!失敬な!」
「言~ってやろ~言ってやろ~!王都~で言ってやろ~」
「何だその歌は!それに貴様にだけは言われたくないわ!!くそっ!」
ドモンに茶々を入れられ憤慨する義父。
「ドモンさんの冗談だから怒らないで!もういやよぉ!」とエリーがまた涙目になり義父を睨み、「あーすまぬすまぬ!私が悪かった!いやぁ参った!出来得る限り何でも望みを叶える故、もう水に流してはくれまいか?」と嬉しそうに答えていた。
「じゃあ今度お店にいらっしゃってねぇ。ね?ヨハン」
「えぇ?!王族の方がか??・・・まぁ貴族の方もいらしてるし今更どうもこうもねぇか。アッハッハ!ドモンもいるしな!」
「よ、宜しいのかな?!私が伺っても?」
「いいけど店に来たらジジイもただの客の一人だからな?自分だけもてなされると思うんじゃねぇぞ?」
エリーとヨハンとやり取りしている義父が浮かれているところへドモンが釘を刺す。
「フフフ・・・わかっておる!ドモンよ!貴様に従えばよいのだろう?」
「な、何だよジジイ急に・・・気持ち悪いな。いくら俺でもそのくらいの分別はつくよ。王族相手にそんな事は言わないから」
「さっき言いかけてたような気もするわ」
ドモンの言葉にすぐにナナがジトっとした目で指摘したが、ドモンは気にも留めずに会話を続けた。
「まあいつかそのうち来てもいいけどさ。きちんと護衛はつけてくれよ?何かあっても本当に責任は取れないぞ?」
「この後店の方でも披露宴を行うのであろう?私も伺おうではないか」
「えぇ?!ジジイも来るのかよ??この後?!」
「うむ」
その言葉に驚いたのはドモンだけではなく、貴族達、そして部隊長を含むお付きの者達も驚き、場は一気に慌ただしくなった。
いつか街を視察するという目的で、厳重な警備をした上で店に寄るというのならばまだわかる。
行きたいからとふらっと立ち寄ることが出来る立場ではないのだ。
日本で言うならば、皇族の誰かが公務の終わりに「今日ちょっと居酒屋に寄っていく」と言い出したようなものだ。
バンザーイ!バンザーイ!と沿道の庶民達から見送られ、黒の超高級車から手を振るような人が庶民の結婚式を祝うという事もおかしな話だったが、二次会にも出るなんて前代未聞。
カールの酔いもいっぺんに覚めた。
「王族御用達の店っつうことになっちまうのかな?ハハハ」とヨハン。
「まあそういう事になりますかな?ハッハッハ!必要であるならば勲章も贈ろうではないか。奥方の方は何が宜しいですかな?」と義父。
「えぇ私にも??私はいりませんよぉ・・・もう困ったわぁ」とエリーがフリフリする。
「いらぬと申すか?いやぁ何とも奥ゆかしいお方ですな!ワッハッハ!!」
「ジジイがいい歳こいてデレデレしやがって・・・」
「貴様は黙っておれ!文句があるならこの家族ごと無理にでも養子縁組させてもらうぞ?」
「嫌だって言ってんだろうが!いい加減引っ叩くぞ馬鹿野郎」
「やれるものならやってみろ。その瞬間貴様は私の息子だ。私にその権限がないとでも思っておるのか?」
「チッ!!」
茶々を入れたドモンにそう冗談を言った義父であったが、それも悪くない考えだと頷いた。
ヨハンとエリーを息子と娘にしてしまえば、自動的にドモンやナナやサンもついてくる。
義父はヨハンの事もすでに気に入っていた。
エリーという素晴らしい女性を妻にし、奔放で気が強く、それでいて優しくて美しい娘を持ち、異世界人であるドモンや使用人であったサンの面倒まで見る度量。
ドモンよりも年下だというのに、主人としての風格を感じさせ、義父もつい言葉遣いが変わってしまっていた。
「いやぁ俺らなんて街の酔っ払い共を相手にしてる方が性に合ってるんで・・・なぁドモン?」
「そうだな。王族なんてやってる暇はねぇよ」
そう言ったヨハンとドモンに義父は苦笑いをし、やはり、また更に気に入ってしまったのだった。