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第113話

「た、大変よドモン!おじいちゃ・・・カールさんのお義父さんが!!」

「どうした?」

「サンの事で何かを聞いて凄く怒ってるの!侍女達を処刑するって!!」

「・・・・」


ナナの言葉に絶句するふたり。

サンはうつむき瞬きもしない。



義父はつい先程ドモンがサンの異変を聞き屋敷に戻っていった際、サンと一緒について行った侍女達を怪しみ、キツく問いただしていた。

侍女達は観念して洗いざらいを話し、義父を、そしてカール達を激怒させたのだ。



「ナナ!俺が少し待てと言ってると伝えてくれ!大至急だ!」

「わ、わかったわ!!」


ナナは踵を返すように披露宴会場へと戻っていった。


「サン・・・何を言われたのかはわからないけれど、俺のせいだったらゴメンな?」


うつむいたままふるふると首を横に振るサン。

ドモンがサンの横に座る。


「サンはどうしたい?このままほっといて、処刑してもらったらスッキリするか?」


サンはまたふるふると首を振った。


「だよな。それでざまぁみろだなんて思う奴は人間なんかじゃない。復讐は何も生まないからな」

「・・・・」


「もしそれでもやっぱり憎いと思うなら、相手がそれを後悔するくらい倍の優しさで返せ」

「・・・・はい」


ドモンのその優しさに、サンの心がゆっくりと溶けてゆく。

そして何があったのかをドモンに話し、サンは泣いた。


「よく話してくれたな。じゃあそいつらにサンが作ったとびきり美味しいグラタンを食わせてやろう」

「はい」


「そしてサンの代わりに俺がそいつらにお仕置きしてやる。お尻百叩きの刑だ」

「だ、駄目ですよ!もう、今復讐はダメって御主人様がおっしゃっていたじゃないですか!」

「あれ?そうだったっけ?忘れちゃったわハハハ」

「・・・そ、それにお仕置きならサンにして下さい。サンは御主人様を裏切ってしまうところでした。折角幸せにしてくださったのに、その幸せを捨てようとしてしまいました」


そう言ってサンがまたうつむいたが、今度は少しだけ微笑んでいた。


「じゃあ一度だけお仕置きしてやる。それが終わったらグラタンを作って持っていこう」

「は、はい!」

「立ち上がって目を閉じろ」

「はひ!!」


すっと立ち上がり、目を閉じて体を強張らせるサン。

そんなサンを身動きが出来ない程強く抱きしめ、ドモンがとんでもない大人の口づけをした。


思わず目を一度見開いたあと「うあああぁぁぁ」といううめき声を上げながら、もう一度目を閉じたサン。

ドモンが触れている全ての部分が雷を受けたような衝撃と快感が走り続け、体中の力が抜けていくと同時に幸せが満ち溢れていく。


「ふーふーふーふー」

「よし!お仕置き終わり!これ以上やっちゃうと俺の方が我慢出来なくなっちまう」

「あーあーあー」

「結婚式の披露宴の最中に、客と花嫁と処刑されそうな侍女達待たせて浮気してたなんて洒落にもならないからな」

「イヒヒヒ・・・」


完全に蕩けきってしまったサンは、もうドモンが何を言ってるのかも理解が出来ない。

抱きついたまま離れないので、ドモンが仕方なく一発パーンとお尻を叩くと、ビクンと大きく体を跳ねてから椅子にドサッと崩れ落ちた。


「ご、ご褒美が過ぎます御主人様・・・」

「いやお仕置きだから」


恍惚とした表情でマカロニ作りを再開したサンを見てドモンは微笑み、グラタンを次々と仕上げにかかっていた数名の料理人達は真っ赤な顔をして作業を続けていた。


そうして作ったマカロニを茹で、鶏肉や玉ねぎも焼き、ドモンに教えてもらいながらサンがホワイトソースを作っていく。

出来上がったホワイトソースは、ドモンと同じように作ったはずなのに鶏肉から出た脂なのか、キラキラと眩しいほど輝いている。それにはドモンも驚いた。


たっぷりのチーズを乗せオーブンで焼き、癒やしの光を纏った『サンのマカロニグラタン』が完成した。


「さあ行こうか」

「はい!御主人様!」


出来上がったいくつかのグラタンを大きなトレーに乗せ、披露宴会場へと戻っていった。


戻った披露宴会場は、大勢の人がいるにも関わらず静まり返っていた。

いや、静まり返った中で三人の女性の叫ぶような泣き声だけが響いている。


「許じてぐださいっ!!!」

「お願い・・・!!お願いします!!」

「ああああああああ!!!いやああああああああああ!!!!死にたくないぃぃぃぃ!!!!!」


三人の侍女が後ろ手に縛られ土下座をするように座り、騎士に髪の毛を鷲掴みにされ額を地面に擦りつけられていた。

それぞれの横には三人の騎士が、いつでも首を落とせるようにと剣を構えている。

義父の目はドモンと対峙した時のように吊り上がり、カールもこの処分は止む無しといった表情をしていた。


「おいジジイ、俺の結婚式で何してんだよ。物騒だな」

「ドモン!!」


ナナがドモンのそばへと駆け寄った。


「仕方あるまい。こやつらのしでかしたことを考えれば、この場で首を落とすことすら生温いわ。家族ごと処分せねばならん」

「ヒィィィィィ!!!!!!!!」


義父の怒気のこもったその声に侍女達は叫び、涙と鼻水を垂らす。

スカートからチョロチョロと雫も落ちていた。


「江戸時代かよ。そんなことはしなくていいし、サンもそんな事望んじゃ・・・」

「ならぬ。貴様らがどう思おうと、ケジメはつけねばならぬ」


ドモンが宥めようとしたが頑として譲らない覚悟の義父。


義父の方も今までこうして秩序を守ってきたという自負がある。

屋敷ではドモンが現れてから不敬罪が無くなったこともあり、多少風紀が緩んではいたが、本来はこれが当然の話であった。


もちろん侍女達も馬鹿ではなく自分の立場は常に弁えてはいたが、元々陰口を叩いていた相手だということもあり、ここまでの事になるとは思ってもいなかったのだ。



ナナと同じくらい、サンもこの義父に気に入られていたとは知らずに・・・。



「まあ待てって言ってるだろ。この屋敷にいる連中は俺の手伝いでもあるけども俺の客でもある。だとしたら俺が食事を振る舞う権利もある」

「何を言っておる」

「最期に美味いもの食ったってバチは当たらないだろっての。余程の罪人だってそのくらい許されるぜ?サンもそう思うよな?」

「はい!」


ドモンがいつものように難癖をつけ、無理やり時間を引き伸ばす。

「ほら席につけよお前ら」と言いながら、ドモンが後ろ手に縛られていた紐を解いていった。


「許してサンドラァ!サンドラ様ぁ!!」

「今までずっと一緒に働いていたじゃないのよぉぉ!!」

「死にたくない死にたくない死にたくないぃぃぃ!!!!」


サンの足元にすがりつく侍女の三人。

だが義父の目配せですぐに騎士達に引き剥がされた。


「許す許さないはまたあとだ。とにかく席に着いて熱いうちに食え」


そう言ってドモンが三人の腕を順番にギュッと握って座らせてゆく。

必ず助けるという意思を込めて。

それにより少しだけ正気を取り戻し始める三人。



「あ・・ああ・・・うっうっう・・・・美味しいですドモン様・・・ひ・・・」

「そうか」

「や、優しいお味で・・・うぅ・・・ドモン様の美味しく食べて欲しいという想いが伝わるようです」

「うん」

「最期の・・・最期の食事がこれで良かった・・・」

「そっか」


まだ涙を流しながら、でも少しだけほほ笑みを浮かべ、グラタンを頬張る侍女達。

その美味しさと優しさに心がほぐれ、そして覚悟も出来た。



「ごめんねサンドラ・・・私羨ましかったの」

ふるふるとサンが首を振る。


「私は正直・・・あなたの事をずっと見下していたの。心の何処かで私の方が上だと思いこんでた。馬鹿だったわ」

ふるふるとやはりサンは首を振った。


「もう・・・許して欲しいだなんて思わないわ。美味しかった。思い残すことなんてない」

「そんな事はないだろ」


ドモンがタバコに火をつける。



「許すも許さないも、このグラタンはさっきお前らにイジメられたサンが、お前らのためを想い、たった今ひとりで作ったグラタンだ」

「!!!!」


ドモンのその言葉に侍女達、そして義父や貴族達も絶句する。


「その意味はわかるよな?・・・・イジメたお前らにも美味しいって言ってもらえるように。心を込めて。お前らのために作っていたんだ」


お互いの気持ちが伝わり、ポロポロと涙をこぼす侍女達、そしてサンも。

つられるようにナナや子供達も涙を流した。



「・・・だがそれでも罪は償わなければならぬ」

「もうサンはとっくに許してんだよ!クソジジイ!!」


鳥達が一斉に飛び立つ。青天に一発の霹靂。

真っ赤な目をしたドモンがぐるりと、そしてゆっくりと義父の方を向いた。


「・・・オレガルールダ・・・オレニシタ・・・」


その瞬間、ナナがドモンに飛びつき押し倒し、その口を手で塞いだ。

こうしてこの騒動はとりあえず一旦収まった。





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