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第112話

ドモンはずっと勘違いをしていた。

三度この世界に来たのだから光が3つ減っていたのだと思っていたのだ。

もちろんその考えの方が辻褄が合うからだ。


だが実際は違っていた。


「おかしいじゃねぇかよ・・・」


ドモンが向こうの世界に戻ったのは二度。

和やかな談笑が続く中、ドモンだけが不安にかられていた。



自分以外の誰かが、あの異世界への扉を通り抜けている。



「いかがなされたのですか?御主人様」

「ん?ああいや・・・なんでもないんだ」


表情が曇ったドモンに気が付いたサンが、心配そうに顔を覗き込む。

心配させまいとニコッと笑って、ドモンがサンの頭をポンポンと撫でた。


そんなサンを屋敷の侍女達が、苦虫を噛み潰したような表情で睨みつけていた。




「さあサン、そろそろグラタンを出していくぞ?仕上げはわかるよな?屋敷に戻って手を貸してやってくれ」

「はい!かしこまりましたぁ!」


気を取り直したドモンがサンへと指示を出す。

グラタンは厨房の大きなオーブンを使用して焼かなければならない。

作り方を知っているサンが厨房へと向かい、何人かの侍女もサンについていった。



屋敷の中へと入ったところで、サンがその侍女達に囲まれてしまった。


「あなた、随分と上手くドモン様に取り入ったわね」

「え・・・?」

「そうよ!カワイコぶっちゃって」

「ち、ちが・・・・」

「あなた自分がいくつだと思ってるの?恥ずかしくないわけ??」

「・・・・」


辛辣な言葉にサンは下唇を噛み震える。

妬み嫉み。それ以外の何者でもない。


「あ、あの・・・グラタンを・・・」

「はいはい。ドモン様の美味しい料理を運ぶだけで可愛がられるんだから羨ましいわぁ」

「貴族様達にまで取り入っちゃって。あざといったらありゃしない」

「・・・・」


涙を浮かべながら厨房へと駆け込もうとするサン。が、また囲まれてしまう。


サンは思う。きっと屋敷にいた時も皆こんな陰口を叩いていたのだろうと。

面と向かって今まで言われた事はなかったが、この日そのタガがついに外れてしまった。

ドモンに甘え、可愛がられているその様子を見て。


「ご、ごめんなさい・・・」

「申し訳ございませんでしょう?もう屋敷の人間でもないのよ?あなた言葉の使い方も忘れたの?」

「う、うぅ・・・」

「泣けばいいと思っているわけ?」

「うぅ~うぇ!うぇっ・・・」

「フン!」


サンも確かにそうだと思った。

ここ最近ずっと甘えていた。ドモン達のその優しさに。

幸せで幸せで。


そんなものを求めてはいけなかった。わがままだった。

反省し涙を流す。

そして泣くことも笑うことも、もうやめようとサンは思った。



「いかがなされましたか?」


屋敷へと戻ってきたコック長が異変に気が付き声をかけると侍女達がにこやかに微笑んでその場を去り、サンも涙を拭いて「だ、大丈夫です」と厨房へと向かう。


サンはもう表情を崩すことなく、グラタンの作り方を料理人達へと伝えていった。

グラタンを作る数が増えたためマカロニが足りず、サンは小麦粉をこね、厨房の角でまたマカロニ作りを始めた。無表情のままで。


様子がおかしいことに気がついたコック長が手伝うことを申し出たが、「こちらはひとりで大丈夫ですので」とサンは目を伏せ断った。



グラタンの第一陣が出来上がり、コック長自らが会場へと持ち込んだ。

義父や貴族達に配られすぐに歓声が上がる。


「貴様は・・・これまたとんでもないものを作りおる・・・」義父が感嘆の声を上げた。

「作り方は教えたけども、今回は殆どをサンが作ったんだ。ものすごく手間がかかってるからありがたく食えよジジイ」


サンの自慢をするドモン。


「フフフ・・・こんな物を作ることが出来る使用人が居れば貴様も鼻が高かろう」

「おじいちゃん、サンは使用人じゃないのよ?私達の大切な家族なんだから」


義父に反論をするナナ。

「そうか、そうであったなハハハ」と心から笑う義父を見てドモンもニコリと微笑んだ。


そんなドモンにコック長が小声でサンの様子がおかしかった事を伝えると一気に険しい顔となり、ドモンがガタッと立ち上がって屋敷へと向かった。

その様子を不思議そうな顔で見つめる一同。



「サンは?サンはどこだ?!」


厨房へと飛び込むドモン。

サンは厨房の端でまだせっせとマカロニ作りをしていた。


「サン!!」

「お待たせしてしまって申し訳ございません旦那様」


そう答える無表情なサン。

それを見たドモンはドス黒い何かを必死に封じ込める。


「何があった・・・サン」

「いえ何もございません」

「サン・・・」


明らかに様子がおかしいサンにドモンの頭が沸騰し始め、呼吸が荒くなり、フゥと大きく深呼吸をした。


「サン、誰かに何か言われたのか?」

「・・・・」

「俺も手伝うよ」

「いえ、私ひとりで間に合いますから旦那様はお戻り下さい」


サンはまだ無表情。


「サン・・・」

「何でしょうか?」

「好きだぞサン」

「・・・それは奥様に失礼かと」


無表情だったサンの表情が少し崩れ始める。


「誰がなんと言おうと、たとえナナが文句を言おうとそれは嘘じゃない」

「・・・忙しいので邪魔をなさらないで下さい」

「そうか・・・」


それでも訳を話さないサン。

そこへナナが血相を変えて厨房へ飛び込んできた。





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