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第111話

「よし!まずはハンバーガーからだ。コック長、下ごしらえは出来ているか?」

「指示通りに出来ております!」


ドモンの言葉にコック長、そして料理人達が大きく頷く。

熱した大きな鉄板の上で、まずはドモンがひとつ見本となるハンバーガーを作り始めると、料理人達だけではなく、義父やカール、貴族達、騎士達までもが鉄板の前へと集まった。


「中身のハンバーグの焼き方はさっき説明した通り。裏と表を焼いて、チーズ入りがいいなら熱のある内にチーズを乗せて少し溶かす。ジジイ、チーズ入りでいいか?」

「良かろう」


返事を聞くなりチーズを乗せ、ヘラを使用し器用にハンバーグを焼くドモン。

半分に切ったパンの断面も鉄板で炙り、レタスやトマトと一緒に焼けたハンバーグも乗せる。

そこへトマトソースとマヨネーズとピクルス、更にこれでもかとばかりに玉ねぎのみじん切りを乗せ、豪華なハンバーガーが完成した。


「す、素晴らしい・・・」瞬きもせず見つめるコック長。

「トマト抜きとか玉ねぎ抜きとか、あとマヨ増やせとかマスタード入れろとかは、それぞれが臨機応変に対応してくれ。まあ何やっても多分不味くはならないからさ」

「ハイ!!」


ドモンの言葉に料理人達が返事をし、各自準備に取り掛かった。


「じゃまずはジジイから。このまま手で持ってかぶりついてくれ」

「うむ」


皆の視線が集まる中、大きな口を開けてハンバーガーにかぶりつく義父。

ボロボロと地面に玉ねぎのみじん切りが落ちる。


「ぐうう・・・こ、これは・・・」

「ありゃ?ジジイにはちょっと重たかったか?流石に」

「そうではない!ドモンよ、そうではないのだ・・・」


義父はもうぐうの音も出なかった。

今まで食べてきた全ての物よりも遥かに美味かったのだ。

それも目の前でわずか一分ほどで出来上がった物が。


義父は必死に言葉を絞り出そうとした。

皆の代表として味の評価を、そしてこのドモンを讃えるために。


ハンバーグの肉汁が舌を雁字搦めにし、トマトの酸味と野菜の瑞々しさが口の中に何度も体当たりをしてくる。

噛めばそれらが混ざり合い、その度に言葉を失ってしまう。


王族らしく「美味い」以外の言葉で表現をしようとしても、結局頭に浮かぶのはこの一言。

少しだけ涙を滲ませ、義父が助けを求めるようにドモンを見た。


「美味いか?」

「・・・ああ、美味い」


ドモンが出した助け舟に乗る義父。

そして噛みしめるようにもう一口かじる。

あとは言葉はなくとも全員に気持ちは伝わった。



「さあ!じゃあみんな料理人達の前に並んでくれ!味は自分好みで注文してくれよな!ひとりひとつで無くなり次第終了だ!」


ドモンの掛け声で一斉に料理人が並ぶ鉄板の前に列ができる。

比較的近くにいた貴族達も我先にと並ぼうとしたが、「流石に今日はお前らは並ばなくていい。俺が作るから。ま、良い心がけだけどな」とドモンが笑っていた。


席に着いた貴族達とその奥様方、子供達へと注文を聞いて回るサン。

それぞれの好みを完璧に暗記してドモンに伝えてゆく。


「えっとカールがレタス多めだったっけ?」

「いえ、マヨネーズ多めだそうです」

「グラがマスタード多めだったか」

「いえ、マスタードを減らしてチーズを多め、そして出来ればハンバーグをもう一枚増やして欲しいとおっしゃられていました」


「で、奥様方はレタスとマヨネーズ多めと」

「流石です御主人様!」


ようやくひとつ正解を出したドモンにサンがパチパチと拍手を送る。

しかしもう見ていられなかったヨハンが助っ人としてドモンの手伝いをすることとなった。


そうして皆に豪華なハンバーガーが配られていく。

あちらの世界でも高級なハンバーガー店で出てくるようなものであった。


「こ、こんなパンを食ったら・・・」

「ああ・・・もう普通のパンだけじゃ満足できやしないな」


グラと叔父貴族がハンバーガーにかぶりつき衝撃を受ける。

特にグラは、自分が頑張ってマヨネーズを作った鶏マヨパンを遥かに超えた美味さに衝撃を受けていた。


「お母さん食べてみてよ!肉の刻み方は俺が料理人達に教えたんだ!」

「まあそうなの!?それは楽しみだわ!!」


そうして貴族の奥様方もハンバーガーにかぶりつく。


「・・・・・」

「ど、どうなの??」

「こ、これをあなた達が作ったというのかしら?」

「そうだよ!」


ハンバーガーを一度皿の上に置き、ギュッと息子を抱きしめ「あなた達は天才よ!」と嬉し涙を流した。


騎士や侍女達の屋敷の人達、そしてドモンの知り合い達にも配られていく。

ジャックはその美味さに目を丸くして驚いていたが、ちょいちょいと女の子に手を引かれ、目玉焼き入りのハンバーガーを食べさせてもらい、その美味さにひっくり返っていた。


「美味しい?ジャック」

「美味しいよ!!たまごが入るとまたこんなに美味しくなるんだね!!」

「ドモンさんにお願いして私が作ったのよ」

「えぇ?!君が作ったものなの?!」

「うん。ジャック好きよ」

「そうなんだ。え?ええ?!」


驚くジャック。

キスをする前から両思いではあったが、改めての告白に頭が追いつかない。


「あの人みたいに浮気をしたら許さないんだから」

「え?!し、しないよそんなこと!!」

「でもきっとあなたはもてるから、す、少しだけなら許してあげる」

「す、少しくらいなら我慢して・・しろよ・・・」

「うん」


ドモンとナナのような関係に憧れるふたり。

ひとつのハンバーガーをふたりでかじり、こっそりと手をつなぐ。



「ねぇ私のは一体いつ・・・」とナナがドモンの元へとやってきた。


「お前はまだ食う気でいるのかよ・・・知ってたけど」

「だって」

「フフフ・・・わかってるよ。お前とサンのだけはみんなとは違う特製のハンバーガーを用意してやるからもう少し待っていろ」

「ほ、本当に?!」


買ってきていた残りの醤油を全て使い切り、ドモンがナナとサンに特別なハンバーガーを作る。


「ほら出来たぞ。これがテリヤキバーガーだ。元の世界で俺が大好きだったものだ」

「凄く美味しそうな匂い!ドモンありがとう!」

「わ、私なんかがそんな貴重なものを食べてよろしいのですか?!」


嬉しそうにテリヤキバーガーにかぶりつくナナとサン。


「んっ?!!んんー!!!」

「ふう?」


ナナは相変わらず、サンも驚き変な声が出てしまった。


「うぅ~!美味しいよ~ドモン~!」とナナが叫ぶ。

「そうか良かったよ。これでもう醤油は無くなっちまったから、元の世界で買ってこないとしばらく作れないけどな」

「え?嘘!そうなの?!」


ドモンが買ってきていた物はあと味噌とだしの素と薬が少し残っているくらいであった。


「まあ結婚式が無事終わったら、久々に行ってこないとならないだろうな仕入れに。ナナもそろそろ米が恋しいだろ?」

「恋しいなんてもんじゃないわ。もう死んじゃうよドモン・・・」

「俺も最近たまに夢に出てくるぜ?豚の生姜焼き食いながら米を口にかき込んでる夢をよ」


ドモンとナナの会話にヨハンも入ってきて、エリーが横でウンウンと頷いている。

寝言で「エリー、米のおかわりくれ」と言っていた事を話して皆で笑った。


「そんなに恋しいのであれば、馬車に乗らずともこまめに買いに行けばよかったのではないか?」

モグモグとカールもチーズバーガーを頬張りながらドモンに話しかける。

馬車が苦手ならばドモンの馬を用意して、あとは別に用意した荷馬車で運べば新型馬車の完成を待つまでもないと思っていたのだ。


そこでドモンが絶壁にある六芒星の光の数の話をし始めた。


「多分なんだけどさ、俺はあと三回しかこの世界に来られないみたいなんだよ。来る度に光がひとつ減るらしくて」

「ふむ。限りがあるのだな?」

「そうなんだ。最初に来た時と、驚いて一度戻ってすぐに出てきた時、そしてナナを待たせて買い物した時の3度だ」

「驚いて戻ってしまうとはなんともったいない事を・・・」


カールが苦笑し「それは仕方ないだろ」とドモンが顔を赤くする。

するとナナが横から口を挟んだ。



「ねえドモン違うよ?ドモンがあっちの世界に戻った時に光がひとつ減ったのよ。私ショックで覚えてるんだから」



「何度も私手を当てたのよ。でも全然ダメで泣いちゃって・・・」

「そんな事があったんですかぁ」


ナナとサンが呑気にそんな会話をしていたが、ドモンの表情はドンドンと曇っていった。





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