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第110話

「お待ちしておりました!ささ、こちらへ!」


屋敷に入るなり侍女達が笑顔でふたりを誘導する。

ナナの音痴な鼻歌を聞きながら、屋敷の奥の一室へと通されると、中では仕立て屋の老紳士達が待ち受けていた。


「お待ちしておりましたドモン様!」

「いや一体何だって言うんだ?」


怪訝な顔で受け答えたドモンに「披露宴用の衣装に着替えるのよ」と機嫌良くナナが答えた。


「衣装直しなら勝手にすりゃいいじゃないか。俺は忙しいって言ってるだろ?」

「こちらに!どうぞこちらに!」


部屋の更に奥の部屋へと案内されるドモン。

そこにはハンガーにかかった白のタキシードが用意されていた。


正確には白をベースに金色の刺繍がされている、まるでアイススケートの衣装のような派手なタキシード。

純金のボタンに宝石が埋め込まれている。


「これに着替えてドモン」と言ったナナのそばには、淡いエメラルドグリーンの上に真紅の羽織がかかったようなド派手なドレスが。


「いやお前、どこの貴族、いやいや王族のつもりだよ」と呆れるドモン。

「流石でございますね。その通りでございます!」と老紳士。


話を聞けば、実際に王子などが公式の場で着る衣装だと発覚した。

この超一流ブランドに伝わる秘蔵の衣装であった。


大困惑する五十前のスケベおじさん。


「こんなの恥ずかしくて着てらんないよ。それに俺は料理とかもするんだぜ?汚したら大変だ。流石にこれは貸衣装だろ?」

「それはお気になさらずに。その汚れもきっと、付くべくして付いたのでしょう。そしてそのまま語り継がれるだけです」

「やめてくれよ!『これはドモンが汚した』とか語り継ぐなんて・・・」


真っ赤な顔をして断固拒否するドモン。

しかしナナや周りの人々に促され、渋々着ることとなった。



「ド、ドモン・・・あの・・・」

「いやもう絶対やめてくれ。今すぐスケートリンクで4回転ジャンプ決めたいくらいの気持ちしかない」

「それが何かわからないけどいいの!ねぇいいじゃないこんな日くらい・・・私のわがまま聞いてよ・・・」

「お前はいつも心も体もわがままじゃねぇかよ・・・ちっ・・・仕方ねぇな・・・」


ナナもド派手なドレスに着替え、屋敷から現れるふたり。

騒がしかった披露宴会場が一気に静まった。


「フフ、あれは本当に王族になる気がないのか?」その姿を見て義父が笑みをこぼす。

「まああれはナナの・・・新婦の希望でして」カールが苦笑いを見せた。


ドモンには内緒にして、このような格好の服を用意して欲しいと、ナナがこっそりカールにせがんでいたのだ。

もちろん普段着ている異世界の服も素敵だとは思ってはいたが、一生の思い出になるからとわがままを言った。


可愛い娘のようなナナにそう頼まれてはカールも了承するしかなく、今仕立て屋が用意できる最高級の服を王都から早馬で取り寄せることとなった。



ドモンに手を取られながらもう一度ウェディングロードを歩くナナ。

先程は早くドモンの元へと行きたくて、とても遠く長い道だと思ったけれども、今度はあまりに短すぎると感じていた。



皆が祝福するこの中を、いつまでもいつまでもふたりで歩いていたい。



「ねえドモン・・・は、初めて逢った日のこと覚えてる?」着飾ったドモンを見て少しドキドキしているナナ。

「ああ覚えてるよ。とんでもない巨乳美女が現れたとあれでも驚いていたんだぜ?」ドモンもナナのドレス姿を見て、思わず目をそらし、必死に落ち着こうとしていた。


「あの時ドモンは好きって言ってくれたけど・・・あれって・・・」

「本心だ。今すぐ抱きたいと思ったのも本心だったし、一発で一目惚れしちゃったんだよ。おじさんだと言われたりして嫌われる前に早く、何が何でも俺のものにしたくて必死だったんだ」

「そうだったの・・・ウフフ」



少し赤い顔をしながら本音を話すドモンの顔を見て、ナナはこれ以上ないほど幸せな気持ちになった。



「ナ、ナナはどうだった?あの・・・本当は嫌じゃなかったか?あんな無理矢理・・・」

「ん?私?どうだったかなぁ?」

「・・・ごめんな」

「アハハ冗談よ!嬉しかった!何よりドモンが喜んでくれたのが一番嬉しかったわ!」


ナナがそう言って握っていた手を離し、ドモンの腕へと絡みついた。

ドレスからハミ出した胸がドモンの腕に当たる。


「あーもう今すぐ押し倒したい。なんちゅうわがままな身体してんだよ。最高だ。大好きだ」

「ダーメよ。みんな待ってるじゃない」

「いいよなんでも。抱かせろよ」

「私だって・・・でも今は我慢して?出来るでしょ?」

「やだ。せめておっぱいだけでも」

「も、もう駄目だってば・・・」


「貴様らは何という会話をしておるのだ・・・そのような格好をしているというのに」


カールの一言でようやく周囲が見えてきたふたり。

王と王妃のような見た目なのに、とんでもなくスケベな会話をしながら披露宴会場へとやってきてしまった。

サンが真っ赤な顔をしてふたりを出迎える。



「あれ?いつの間に」

「いつの間に・・ではないわ!衣装を変えて仲睦まじくやってきたと思えば・・・これだけの者が皆見ておったのだぞ!」

「悪かったよ。ナナと思い出話しながら歩いてたら、つい初めて押し倒した時の話になっちゃって気持ちが盛り上がってよ」

「なぜそうなるのだ!ナナも晴れの舞台を楽しみにしておったというのに!」


ナナの気持ちを考え、怒り心頭なカール。

父親であるヨハンよりも怒っていたが、「なによ別にいいじゃない。ねぇドモン?」とナナは何食わぬ顔。

カールの義父もそれには流石に呆れる。


「と、とにかくだ!もう結婚したんだからいいだろ!」

「そうよ!」

「俺はこいつと・・・ナナと結婚した!みんないい女だろこいつ!だがもう俺のもんだ!ざまあみろ!!」

「そうよ!!私はドモンと結婚したのよ!!」


大勢の客達の前で握った右手の拳を掲げ、ドモンが高らかにそう宣言をする。

一瞬の静寂のあと、ワアアア!!という歓声が屋敷の庭にこだました。





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