第105話
「ドモーン!!」
屋敷からカールの息子、そして他の子供達が駆けつけてきた。
話を聞きすぐに飛び出そうとしていたが、危険だと止められていたのだ。
「ハァハァ・・・お祖父様!!話を!!話を聞いて下さい!!」
「聞く耳は持たぬ」
この孫も洗脳されている。義父は落胆した。
「この人は見た目も態度も悪いかもしれませんが、本当は良い人なのです」
「知らぬ」
「領民を!領民達を救っているのですよ?!」
「それがどうした」
「新しい馬車を授けてくれ、そのおかげでこれからも沢山の人々がきっと救われます!お願いします!」
「・・・・・」
子供らが次々と声を上げるが、そんな事は百も承知。
それを与えたのが悪魔だという、その事実が問題であった。
「・・・それが、もし悪魔の所業であったとしても、そなたらはこの男についていくのか?」
義父がゆっくりと重い口調で皆に問いただした。
「・・・はい」と、まずカールが声を上げる。
「だからこの人は良い悪魔だっていつも言ってるのに」とナナが口を尖らす。
「神も悪魔もございません。我らにとって何が最善なのかが大切なのでございます」と叔父貴族。
「此奴の力を必要としている。それだけです」とグラも続けた。
義父は唸る。その気持ちもわかってしまったからだ。
「・・・それでも・・・やはり看過できぬのだ。悪魔と手を結ぶなど・・・わかってくれ」義父、苦渋の表情。
「いやちょっと待てちょっと待っててば」
「その悪魔が何をしたというのです!」カールは必死に訴える。
「いや待てって言ってるのに」
「大体ね、悪魔だとしてもこの人HPが60ちょいしかないのよ?MPはゼロだし、みんなに殴られてボロボロになるしで」鼻息を荒くするナナ。
「いやいやHPは70ちょいはあったから・・・」
「この悪魔はスケベで女ったらしですけど、案外良いところもありましてよ!」女の子がドモンを指差す。
「否定は出来ないのが辛いところだ。もう侍女達連れてお風呂入ってきていい?」
「だ、だめです御主人様!私がお背中お流ししますから!」と慌てるサン。
何がどうしてこうなったのか。
ドモンは理解に苦しむ。
異世界人を排除したいのだろうとは思ってはいた。
金もちょこちょことせびってしまったし、馬車代なんかも払わせた。
不敬罪を無くせだの何だのワガママを言った自覚もある。
そりゃまあ怒るだろうと、ある程度の覚悟はあった。
剣を突きつけられ、ああこりゃ本気か参ったなと思ったが、何度も修羅場をくぐり抜けてきた経験がある。
なんやかんやといつものように誤魔化して、なんとか切り抜けられればいいとドモンは思っていた。
意味不明な悪魔論争が勝手に行われ、ドモンはただただ困惑した。
「私にはもう・・・判断をしかねる。だからこれからその運命を委ねたいと思っておる」義父がまた重い口調で口を開いた。
「これ以上この男に何を求めるというのですか!」涙ながらに訴えるカール。
「最後に・・・私と勝負をしろ。ドモンとやら」
「何の勝負だよ?」
「私は趣味でカードゲームを嗜んでおる。それに貴様と、そしてこの私、いやこの国の命運を賭すのだ」
「カードゲームって?」
「ポーカーだ。知っておるか?」
「・・・・」
「あ・・・」という言葉を飲み込むカール、そして子供達やナナ。
「貴様が勝てばその全てを認めよう。だがもし負けるようなことがあれば、貴様はそれまでの運命だったと諦めるがいい」
「あ、そう」
ヤレヤレと子供達が椅子に座って呑気におしゃべりを始める。
カールは何とも気まずそうな顔をしてみせた。
ナナは冷えたエールを準備して、サンが新しい灰皿をドモンの前に置く。
義父が何やら合図をすると、まさに王族仕様ともいえる立派なトランプをお付きの使用人が差し出した。
「さあ配るがよい。存分に神に祈りながらな。悪魔が」
そう言って義父がドモンにトランプを渡すと「あーあ」とナナが声を出し、ヤレヤレのポーズで苦笑した。
ドモン、三度目のエースの4カード。
「イカサマではないか!!」の声が辺りに響く。
折角チャンスを与えたというのに、ふざけた真似をするドモンにまた怒りが湧く義父。
「貴様が配ればまたどうせ同じことになるのであろう。それはもう認めぬ。もちろん今までの勝負も無効だ」
「じゃあそうだな、サンが配ってよ。配り方はわかるよな?」義父の言葉にパラパラとカードをシャッフルしながら、ドモンはそう提案した。
「は、はい!かしこまりました」とシャキーンと背筋を伸ばして返事をするサン。
カードをシャッフルするサンに「待て」と声をかける義父。
「カードは表向きに配れ。イカサマが出来ぬようにな」
「それじゃ駆け引きもへったくれもないだろ」
義父の提案に文句をつけるドモン。
しかし義父は断固として譲らない。
場に不穏な空気が流れ始めた。
流石のドモンもこうなればどうしようもない。
表向きにカードが配られてゆく。
義父の手札にはエースが2枚。
「ついにエースも貴様の手を離れたようだなフハハ」
「・・・・・」
エールを飲み干した後タバコに火をつけ、苦虫を噛み潰したような顔をドモンが見せる。
「大丈夫だ」とカールが息子の肩に手を乗せ、一緒に祈った。
ナナはドモンの左側に座り、脚をプラプラさせながら暇そうな顔をしている。
義父は三枚を交換し、エースがもう一枚増えた。エースの3カードが確定した。
ドモンのカードは『3、6、7、8、9』
ポリポリと頭を掻いてカードを睨む。
トン、トン、トンとテーブルを左手の指で叩きながら考え込み、右手の中で火のついたタバコをくるっと一回転。
「3を切り5か10がくれば貴様の首はつながったままで済むということだ。貴様のその運を賭けるが良い」
義父がそれこそ悪魔のような顔でドモンを睨みつけた。
ドモンは大きくたばこの煙を吸い込んで、空に向かって煙を吐きながら、右後ろの方へパーンとタバコの火を散らす。
「俺がサンを捨てるわけ無いだろ」
吐き捨てるようにそう言ったドモンは『6、8、9』のカードを差し出した。手元に残るは天使と女神、サンとナナ。
「バカな!」
義父だけではなく貴族達からも声が上がる。
いくらなんでも無謀すぎると。
カールはそのドモンの顔を見て、コック長に冷えたワインとグラスを用意するよう指示を出した。
「貴様・・・まだ何かあるというのか・・・」
「さあ」
「ええい!カードを寄越せ!私自らめくってやる!」
テーブルの上に叩きつけるようにめくったカードは『7』だった。
ピクリと義父の片眉が上がる。
更にもう一枚、テーブルが壊れんばかりに叩きつけたカードは『3』。
「そんな馬鹿な!!」義父の手が震えだす。
子供達が「どっちだと思う?」とサンに話しかけると「もちろん奥様ですよ!」と微笑んだ。
「わからないわよ?この人のことだから」とナナはヤレヤレのポーズ。
「お前らなぁ・・・今日は誰の結婚式だと思ってんだよまったく・・・」
ドモンが文句を言いながらワイングラスをコック長から受け取り、義父や部隊長、貴族達、そして自分達にも配ってゆく。
そうして全員が確信した。ドモンの勝利を。
震える手で、弱々しく最後のカードに手をかける義父。それを皆気の毒そうに見つめている。
「馬鹿な・・・そんな事が、そんな馬鹿な事があってたまるか・・・」
力なく、はらりとめくったカードは『7』だった。
「持てよワイングラスを。乾杯の時間だ」
うなだれる義父にドモンが声をかけた瞬間、ワッという歓声が上がった。
これが本当の意味でのチート(イカサマ)
当然リアルドモンが対人相手に本当にやったほぼほぼ実話だけども、良い子は真似しては絶対ダメ。