石投げ
すいずの海に行こう、と思い立った私はある日
友達を誘った
なぜならその友達が苦しんでいる事を知っていたからだ
どこか遠くに行けばきっと
気休めになるだろうと
何かおいしいものを食べようよとか
適当な事を言って連れ出した
きっと
帰って来たらさらに厄介な問題が湧いてくると思いながら
二人で逃げ出したのだ
面白くも無いあらゆる事象から
海に行こう、きっと楽しいから
車出すから行こうぜ
口から出まかせ、いつもどおり
嘘は吐いてないがどこまでも調子よく
そうやって色んな人と眺めた静かな波打ち際でふたり
平たい石をいくつか集めて
なんども
なんども
なんども
水面で石が跳ねる数を数えた
いっかい
にかい
さんかい
よんかい
曇り空の下
いい大人が
石を投げて遊んだ
蟹を食べたいね
今度食べに行こうね
温泉にも行きたいね
いいね、そうしよう
できもしない事ばかり
約束した
寒くて
石投げにも飽きて
語る夢も無くなって
親子連れが騒がしくて
いたたまれなくなって
帰ろうか
どちらからそう言ったのか
覚えていないけど
帰ろうか
もう、帰ろうって
言い聞かせて
遠回りして帰った
車の中で
色んな話をして
あとは
覚えてないなあ
もう随分と
昔の話なのだから
日が沈むときの色ってなんで
かなしいんだろうね