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一家六人



ブルネリード国のオーゼンヌ家は一家6人だ。

しかし、執事長を筆頭に侍女長やらお抱えシェフやら馬房の者まで、養うべき人達を合わせると一体何人が出入りしてるのか、主の国王カルヴァン・ヴィセル・オーゼンヌ本人も把握していない。


この仲の良い一家は、何もなければ食事を6人揃ってとる事が常であった。


長いテーブルに座る6人の周りには執事と給仕担当のメイドもいて、一家6人()()という事はまずあり得ない。

そんな場で話す会話は他愛もない話ばかりなのだが、この日だけは少し違った。



「それでだな、昨日エドとマリーには話したのだが、6日後にドラングルク国のギルバード皇太子が来訪されることになった」


「あら?それはどういうことですの?」


父の言葉にいち早く反応したのが末娘で第二王女のリージェンヌだ。


「まさか、他国の見知らぬ皇太子にマリー姉様を嫁がせるお考えですか?」

「リジー、おやめなさい」


リージェンヌの的を得た発言をミルヴィネ王妃が制する。


「皇太子が来るってだけだろ?リジーの考えすぎだよ」


父の一言で不機嫌を顕にした妹に呆れるのは第二皇子のロイド。


「ロイド兄様は黙ってて。雰囲気を察してほしいわ」


「はあ?何だよそれ」


妹に小馬鹿にされたロイドはエドとマリーの顔を見てから父を見た。


「……え?マジで?」


エドリックもマリアンヌも気にしていないかのように食事を続けているが二人の表情は明らかに暗い。


「父上っ!どういうことですかっ!」


今度はロイドが父に食ってかかった。


「ロイド。おやめなさい」


再び母は制した。


「リジー、ロイド、お前達の言いたいことはよく分かってる。けれどな、これはあちらの皇太子が強く望んでの事だ。目的が何にしても他国との外交を私的理由で突っぱねてはならん」


「その私的理由で皇太子が来訪を強く望んでたのに?父様は甘いわ」


「リジー…。そうは言ってもだな」

「父様分かってるわ。私は皇太子の邪魔をしないように致しますわ」


「はあ?リジー、お前」

「ロイド兄様は少し考えてから発言なさっては?もう成人なされたというのに。みっともないわ」


「……」


この兄妹の末娘リジーは一番王妃に似ていた。

しっかり者のエドリックと大好きな優しい姉のマリアンヌ、そして年が近い遊び相手のロイドに囲まれて育ったリジーは、兄妹の中で一番気が強くて賢い。

自分の立ち位置もしっかり把握して、頭の回転が早い娘を誇らしく思う両親ではあるが、一つ弱点があるとすれば、それは姉のマリアンヌに対する愛情の強さだけだった。


「リジー、そう言ってくれると助かるよ」


「私はマリー姉様の幸せを望んでるだけです」



リジーの発言を聞いて、何故父がこの時間に話を切り出したのかが分かったエドリックは一人ほくそ笑んでいた。



リジーはマリーが大好きで、言うなればシスコンだ。


そんなリジーは、エドの親友のフィルを遠巻きに嫌っているのを知っている。

理由は単純だ。

マリーがフィルに好意を寄せているから。

エドとフィルとマリーの3人でいつも勉強していたのを見ていたから。


マリーがフィルを好きだから表だって邪険にはしていないが、大好きな姉を取られると思ってるのか毛嫌いしてるのは確実だ。


だからリジーは『皇太子の邪魔をしない』と言ったのだ。


リジーにとっては新たに出てきた一番の邪魔者でしかない隣国の皇太子。

そんなリジーが今後どう動くのか、それを思うとエドは自然と口角が上がっていた。



そんなエドリックの考えは当たっていたようだ。



食事を終えたエドリックは自身の執務室でセフィルスといつものように仕事をしていた。

そこに、おそらくは初めてだろう、リジーが訪れて来た。

フィルがいる執務室にわざわざリジーが来るなんてこと今まで無かったのだから何の話かはすぐに分かった。


「フィル、これをリドムに渡して来てくれないか?」


それとなくフィルを厄介払いして、リジーと対面する。

フィルが部屋を出ると、リジーはソファに身を投げて妹らしく兄に話かけた。


「さすが兄様、気が利くわね」


リジーの声に軽く笑って話を聞く。


「それで?俺に何を聞きたいんだ?」


「決まってるでしょ。全部よ。皇太子が来る事になった経緯から全部。エド兄様が知ってる話の全てを聞きたいの」


「……それは話が長くなりそうだな」


笑いながら、かなり強い味方を得たように感じたエドリックは、フィルに話せなかった話も全てリジーに聞かせた。



今こうして顔を突き合わせてる兄妹だがその年の差は6つ。長男エドリック20歳、次女リージェンヌ14歳。

一番年が離れてる二人はあまり接点が無かった。


ロイドのように男というだけでエドリックは剣や乗馬の稽古に付き合ってやることは多かったが、リージェンヌに関してはマリアンヌが全てを請け負っていた。


だからこそ、リージェンヌはマリアンヌが大好きなのだ。

だからこそ、エドリックとリージェンヌの関係は希薄だった。


しかし今回、隣国の皇太子という共通の敵を目の前にして、ようやくこの兄妹はタッグを組んだ。

幼少より次期国王として培われたエドリックと、末娘として甘えれば自由に行動出来ておそらく4兄妹の中でエドの次に頭の良いリージェンヌ。


(多分これからしばらくはリジーが執務室に来る頻度が増えるだろうな)


そう感じたエドリックは、今後セフィルスを厄介払いする為の口実も考えておかねばと思案した。



その行動が父の思惑通りであったことは、この時の二人は気付いていない。


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