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ドラゴンとの遭遇


そして話はようやく冒頭に戻る。


***



程良い気候の中、バルの背に乗りのんびりと先導していたセフィルスはマリアンヌと話がしたくて白雪に近付いた。


「そういえば、マリアンヌ様がバルを連れ帰って来てからもう1年以上経ちましたね」


今ではあまり接点の無い二人。

世間話をしようにも話題が見つからないセフィルスは相棒バルの話を切り出した。


白雪を可愛いがるマリアンヌだからドラゴンの話なら共通の話題になる。そんな単純な理由から話し出したのだが、予想に反してマリアンヌの表情は固い。


「そうですね。あの時はびっくりしました」


微笑んではいるが心なしか辛そうにも見える。

でもセフィルスは互いにドラゴンに乗っている距離ではそんな微妙な表情までは読み取れていなかった。


「おかげで俺はバルに選ばれましたから本当に嬉しかったんです」


昔の、少年の頃のような笑顔を見せるセフィルスにマリアンヌは微笑みを返すだけだった。

さすがのセフィルスも続かない会話に違和感を感じてマリアンヌを気にかけた。


「マリアンヌ様?」


そんな声が聞こえた時、白雪とバルが同時に何かに気付いたように左の方へ顔を向けた。

そして指示もなく勝手に浮上した。


「バルッ!?」


慌てたのはセフィルスただ一人。

マリアンヌは表情が固いまま白雪に声をかけることなく、白雪の見つめる先をじっと見ていた。


その様子を見たセフィルスもまた何かを察知して無意識に左腰のものに手をかけバルの見つめる先を凝視した。


「……あれは、ドラゴン?」


少し浮上しただけでその場に留まった白雪とバルの前方から一匹のドラゴンが迫っていた。

何かに追われてるように勢いよく近付いてくるドラゴンを見て、セフィルスは慌てた。


「マリアンヌ様っ!!」


辺りにドラゴンの森は無いものの国境に近いこの場所で、迫ってくるドラゴンは明らかに国境を越えてきたのだと気付いた。

それは野生のドラゴンでなく、背に人を乗せたドラゴンだった。


セフィルスが指示する前にバルは白雪の前に立ちはだかる。同時にセフィルスも腰の剣を抜いた。


「白雪っ!上へ行けっ!マリーを護れっ!」


セフィルスの声に反応して、白雪は更に浮上して離れると止まった。

マリアンヌは落ちないよう注意しながら真下を見下ろすと、バルの前には一匹のドラゴンが対峙していた。




「クソッ!動けっ!止まるなっ!」


見知らぬドラゴンはバルの前で大人しくその場に留まっていたが、背に乗る男はどうにかして逃げようと必死にドラゴンに指示を出している。


「……お前は何処の者だ?ここはブリネリード国だぞ。大人しく剣を捨てろ」


セフィルスの低い怒気を孕む声が響く。

相手は剣を持っていたが服装は自国や他国の隊服でなく庶民的な服装だ。


(……あれは、空賊?)


セフィルスが対峙する相手の様子を見てマリアンヌは恐怖を覚えた。


ドラゴンに選ばれし者ーー

それが何処にも属さない場合はほとんどがドラゴンに選ばれし者()()()()

何らかの要因で無理やりドラゴンの笛を手に入れた者。

それらのほとんどがドラゴンを使い泥棒稼業のようなことをしている。それが"空賊"だ。


「クソッ!動けって言ってんだろっ!!」


「キィーーーッ!」


あろう事か、男は持っていた剣を自分が跨ぐドラゴンへと突き刺した。


「!! 何をしてるっ!!」


(酷いっ!)


怒りのあまりバルの背で立ち上がって飛び移ろうとしかけたセフィルスだが、上空で、しかもセフィルスの様子を察知したバルが目の前のドラゴンから距離を取った。

その為、セフィルスは何も出来ずに膝を折った。

その間にも男は二度三度と剣を突き立てていた。



「キュィーーッ」


見るに耐えないマリアンヌが目を瞑った時、白雪の鳴き声が聞こえた。


すると刺されたドラゴンとバルの2騎が突然急降下した。


「っ!!」


手綱をきつく握るセフィルスは風圧に耐えながら先のドラゴンを見ていた。

『このままじゃ落ちるっ!』と思った瞬間、刺されたドラゴンは縦にくるりと旋回した。


「うわーーっ!」


男の声と同時にバルは緩くなだらかな丘に降り立った。

セフィルスはバルから飛び降りてドラゴンの背から落ちた男の様子を見た。


「くっ…そ…」


どうやらまだ生きている男をそのまま拘束しようとするが、生憎セフィルスは何も持ち合わせていなかった。

何かないか?と辺りを見ているとバルが近付いて来たと思ったら、片足で男を鷲掴みした。


「バル! …っそうか。そのまま国境の警備隊のとこまで飛んでくれるか?」


セフィルスの声に、バルは首を伸ばして"早く背中に乗れ"と言うような仕草を見せた。

セフィルスは男が落とした剣を拾い直ぐ様バルの背に乗った。

それを合図にバルは男を掴んだまま飛び立ち、上空で白雪と傷を負ったドラゴンと合流した。


「フィル様……」


白雪の背で不安そうに見つめるマリアンヌにセフィルスは微笑んだ。


「マリー、この男を引き渡すからもう少し付き合ってくれるか?」


「はいっ」



そうして傷を負ったドラゴンが先導し国境近くに行くと、騒ぎを聞きつけて来た国境兵団所属のドラゴンに出くわした。


「……もしや、マリアンヌ王女?…王都竜騎士様」


白雪とセフィルスの隊服を見た国境竜騎士が驚いた顔で一人ごちる。


「国境を越えて来たと(おぼ)しきドラゴンと男を捕縛した。詳しい話は着いてからだ。急ぎ国境へ向かうぞ」


「ははっ!」




その後、男とドラゴンを国境兵団に預け、セフィルスとマリアンヌは想定より長くなった散歩を終えた。


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