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その名は「バル」と「ドリュー」


王城のバルコニーに降り立ったのは白雪とゲイル団長のドラゴン、そして漆黒の野生のドラゴンだった。


バルコニーで待機していたのはマリアンヌの侍女二人だけ。


「そこの二人!一人はエドリック様に、もう一人は"ドラゴン遣い"に大至急報告へ向え。

野生のドラゴンがバルコニーにいる、と伝えよ」


ゲイル団長の声に慌てた侍女らは急ぎ報告へ向かった。


ドラゴンから飛び降りたゲイル団長は白雪から降りようとしてるマリアンヌを補助しながら漆黒のドラゴンを見つめた。


「まさかこんなことになるとは思いませんでした。……あの噂は本当に?」


ゲイルの言葉にマリアンヌはなんとも言えない表情をする。


「……本当に、そうなのでしょうか……」


顔を寄せて甘えてくる白雪の鼻先を撫でながらマリアンヌは悲しげな表情を見せた。


その表情を見たゲイル団長はすぐに何かに思い当たった。


「……まさか、マリアンヌ様が未だ婚約なさらないのは……」


そこまで言ってゲイル団長は慌てて口を閉ざす。


「申し訳ありません。出過ぎた発言でした」


一礼するゲイル団長にマリアンヌは微笑みを返す。


「いえ、ドラゴンにお詳しい方なら()もご存知でしょうから。ただ、出来ればご内密にお願い出来ますか」


「御意」


そうしてマリアンヌは白雪と一緒に漆黒のドラゴンの前へと近付いた。

マリアンヌが恐る恐る手をのばすと漆黒のドラゴンは大人しくマリアンヌの手を受け入れて鼻先を触らせてくれた。


「……貴方は白雪を護りに来てくれたの?」


マリアンヌの問いかけにそっと目を伏せた漆黒のドラゴン。

その光景を見ていたゲイル団長は複雑な顔をしていた。




「マリーッ!!」

「マリアンヌ様っ!!」


エドリックとセフィルスが息を切らしながらバルコニーへとやって来た。


……相当走って来たのが目に浮かぶ。


そして廻廊からはいまだバタバタと足音が聞こえる。


(……一体どれだけの人に声をかけたのかしら)


呆れるマリアンヌとゲイル団長に気付かないエドリックとセフィルスは、マリアンヌの傍らにいる漆黒のドラゴンをじっと魅入っていた。



「……凄ぇ、大きいな」


「本当に……野生のドラゴン」


驚いて見上げるエドリック達の後方には"ドラゴン遣い"のリドムや話を聞いた騎士らが次々と集まってきていた。


けれどそんなことはお構いなしの白雪はセフィルスに近付いて甘える。


マリアンヌが白雪の背に乗る訓練をしていた頃にセフィルスも一緒に指南を受けていた。

そのせいか、白雪がマリアンヌの次に甘えるのはセフィルスだった。


そんな白雪を見ながら撫でていたセフィルスは漆黒のドラゴンが歩きだしたことに気付いていなかった。


「……フィル」


エドリックの声と同時にセフィルスは影に入った。

(影…?)


セフィルスが疑問に思って顔を上げると目の前には漆黒のドラゴンが視界を塞いでいた。


「っ!!」


驚くセフィルスに、これまた驚いた顔のエドリックが言った。


「フィル、お前、もしかして選ばれてるんじゃないか?」


「!! 俺…?そうなのかっ!?」


セフィルスは漆黒のドラゴンの目を見ながら声をかけた。

するとドラゴンは目を閉じた。


「……本当に?」


呟きながら恐る恐る手を伸ばすセフィルスを大人しく受け入れる漆黒のドラゴン。



その光景をマリアンヌは涙を堪えながら見つめていた。



***



「ではマリーを呼んで参ります」


所作は完璧だが明らかに浮足立つセフィルスはただの年相応の青年だった。


「いや、待て」


主君が声をかけたと言うのに露骨に嫌がる顔を見せる。


「お前、先週もバルと巡回に行けなかったよな?」


今では漆黒のドラゴンを相棒に持つセフィルスは竜騎士団所属となっていた。

漆黒のドラゴンに付けた名は"バル"。

……由来は聞かないでいる。


「先週どころか昨日も行ってませんよ。たまに夜に呼んだりしてますけど」


「なら、竜騎士団には俺が行ってくるからお前はデートして来い」


重厚感のある椅子から重い腰を上げると背伸びをしたエドリックは持っていた書類を置いてセフィルスの方に歩いてきた。


「……よろしいんですか?」


「たまには息抜きも必要だろ。確か今日マリーは散歩に行くと言ってたからな。俺が騎士団に行ってお前を行かせたと言っておくよ。俺も少しは顔出さねぇとな」


第一皇子のエドリックは赤に近い色のドラゴンを相棒にしているが皇太子ということで竜騎士団には所属していない。

とはいえ、定期的に相棒の世話をしてくれてるのは竜騎士団員達で、何かあれば竜騎士団と共に行動しているのでエドリックも竜騎士団員達とは顔馴染みだ。


「ドリューに愛想尽かされたくないからな」


「なるほど。ではお言葉に甘えて行って参ります」


先程の露骨な顔は何処へやら。

素のセフィルスは満面の笑みを浮かべて足早に私室へと向かった。


(現金な奴。さっさとマリーに求婚して来い)




そんなエドリックのおせっかいは予想外な展開を巻き起こすこととなった。


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