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セフィルスと漆黒のドラゴン


「……」


これみよがしに何故かこちらにまわされて来る手紙や招待状の束。


「フィル。……その顔止めろと言ってるだろ」


その束をさっと一瞥すると、中身を確認することなく文字通りゴミを入れる箱に投げ捨てるのが日課のセフィルス。


「いい加減、文字を見れば分かるだけに無理ですね」


毎度、この時だけは殺気に満ちる男のどこに余裕なんてあるだろうか。


「たまにはちゃんと中」

「無理です」


この事に関しては主君の言葉すら断ち切る心の狭い男。


「……たまにはマリーを呼」

「是非お願いします」


即答。いや、食い気味というか問いかける間すら奪う男。


「………」


「早く呼んでください。でなければ私が直接迎えに行」

「いい加減に仕事しろ」


今度は主君がセフィルスの言葉を遮った。


「してますよ。だからゴミを捨てたんじゃないですか」


「お前のそれは私事だろ。仕事をしろ」


「……全部に目を通せと言うんですか?マリーと言葉すら交わした事の無いゲスな野郎どもの愛の言葉を読めと?」


「そこまでは言って」

「なら大丈夫です。招待状だけで把握出来ます」


「………」


(こいつ……マリーを意地でも我がものにするつもりか?)

マリーへの執着と可愛い妹への嫉妬心からエドリックはセフィルスに言葉をかける。


「……お前、マリーに好きな男がいるのを知ってるか?」


バサッッ!


(ヤベぇ……タイミング間違えた)


この時セフィルスが手にしてたのは各機関から送られてきた報告書。

きちんと仕分けられていたはずの書類を束を落としたセフィルスの足元にはバラけた書類の波が出来上がっていた。

そんなことより、主君より、マリアンヌが第一のこの男。


「どこの所属の奴ですか?竜騎士?近衛兵?それ以外なら即刻死なない程度に」

「知らん(この鈍感野郎)」


「……まさか、国王も知ってるんですか?だからまだ婚約もしないんですか?相手は俺より家格が下なんですか?」


「ちょ、おい、待て…」


「申し訳ありません。用事で席を外します。すぐに父から爵」

「フィルっ!待てっ!マリーを呼んで来いっ!それとなく聞いてやるからっ」


実際そんなことしてる暇はない。

それでも自分の言葉で勝手な思い込みの果て、暴走しかけてるセフィルスを止める為にはそう言うしかなかった。


「ありがとうございます!今す」

「その前に足元をどうにかしろ。書類で足の踏み場が無い部屋にレディを迎え入れる気か?」


マリーと会えるとなった途端に外面用の笑顔を貼り付けたセフィルスは世間一般に知られる紳士なセフィルス・オーグランドに戻り書類を拾い集める。


その姿を見ながら思いふける。

昔はエドリックがセフィルスの恋心をからかっても認めなかったのに、今ではエドリックの前でだけ年相応の悩みを打ち明けるようになった。

こと、マリアンヌに関しては極端な程に変わった。

エドリックの前でだけは。


そうなったのはマリアンヌの成人パーティー以後。マリアンヌの元に国内の貴族らからパーティー等の招待状や手紙が届くようになってからだ。



セフィルスはエドリックより1つ年上で現在21歳。父は現王の宰相として今は王城務めではあるが、元は国内でも2番目に広い領土を管理するオーグランド公爵家の頭主。

そこの長男として生まれたのがセフィルスだ。


現王の一存で幼い頃からエドリック、マリアンヌと共に王城で育ったセフィルスは、貴族の社交界の中ではトップに君臨する最優良人物だ。

家柄、容姿、人柄と文句の付け所が無い青年。

なので当然のように王女の結婚相手としては一番に名が上がる。


そんな世間一般の話以前に、セフィルスは一人の男としてマリアンヌが好きなのだ。

家柄のことを考えてもマリアンヌと結婚出来るはずだと信じていた。


なのに、マリアンヌが成人してもセフィルスのもとにはマリアンヌとの婚約話が一切持ち上がらない。

それどころか、マリアンヌが成人してからはエドリックの補佐を拝命されてマリアンヌと会える機会が極端に減った。


多分それらがセフィルスを苛立たせてる要因だ。



兄妹のように仲良かった二人をあえて遠ざけてるように感じるのはセフィルスだけでなくエドリックも同様だった。


(父上は一体何を考えているのだろうか……)


エドリックは9歳でドラゴンを引き継いだ。

マリーは7歳でドラゴンの育ての親となった。


今まで過去のドラゴン遣いは、王族の者がドラゴンの相棒になったことは何度かあったが、ほとんどが騎士から選ばれていた。

現状では、国王も宰相も王城の重鎮達もドラゴンとは縁が無かった。

それなのに、エドリックを始め、王女のマリアンヌまでドラゴンと関わることになった。


それを見ていたセフィルスは顔には出さなかったがマリアンヌの為にも竜騎士を目指していたようで、時折エドリックに笛を借りてはドラゴンに乗る練習をしていた。


そんなセフィルスがドラゴンに選ばれたのは今から1年前の事。


これまた偶然にもマリアンヌが散歩をしていた時だった。



***



「もうすっかり一人前の"ドラゴン遣い"ですね」


「ありがとうございます。そう言って頂けるのは嬉しいですがまだまだ至らないことだらけです」


「はははっ。マリアンヌ様は相変わらず奥ゆかしいですな」



長い廻廊を歩きながら話すのは王女マリアンヌと竜騎士団長のゲイル。


白雪が成長すると当然のように白雪はマリアンヌを選んだ。

それに伴い、エドリックや竜騎士らがマリアンヌに乗り方など指南していた。


マリアンヌが成長し一人で乗れるようになると、父である王が定期的にマリアンヌの空の散歩に出る許可を出した。


散歩の際は必ず竜騎士が同行すること。

国境にあるドラゴンの森には近付かないこと。

空の散歩は許可したが地上に降り立つことは厳禁。


等、注意事項はあれどまるで一人の竜騎士のような特例な待遇を許された。



そしてこの日もマリアンヌは竜騎士団長と共に散歩に出掛けたのだ。


「今日は少し風が強いですね」


少し肌寒くなってきた時期に北へと散歩に出掛けたが、北上していくと寒さと共に風が強くなってきたのだ。

さすがにこれ以上は王女も風邪をひきかねないと思ったゲイル団長は上空で止まって白雪に乗るマリアンヌに声をかけた。


「なんだか変な風ですね。今日はこれくらいで引き返したほうが良さそうです」


マリアンヌも何か違和感を感じたようでゲイル団長の意を汲んだ。


「そうですね。北の雲が怪しくなってきましたから……」


ゲイル団長が北の薄暗い雲の方を見つめ、マリアンヌもその視線を追った時だった。



「マリアンヌ様っ!何か来ます!」


「!!」


ゲイル団長の声と同時にマリアンヌもその何かに気付いた。


通常、竜騎士の巡回であれば単騎では飛ばない。必ず2騎以上で行動する。

それに、竜騎士が巡回してるエリアをわざわざマリアンヌ達が後を追うわけがない。

マリアンヌの散歩はその日に竜騎士が巡回していないエリアを飛ぶのが常であった。


なので国内で空で何かと遭遇するということは野生のドラゴンか渡り鳥くらいだ。

どちらにしてもいきなり襲ってくることは無いが、マリアンヌが散歩をするようになってから初めて"何か"に遭遇したので、マリアンヌも自然と身構えてゲイル団長のドラゴンの背にまわった。



「……野生のドラゴンか……」


近付いて来たのは漆黒の野生のドラゴンだった。孵化してから10年足らずの白雪と比べるとはるかに大きい躯体のドラゴンだ。


「綺麗……」


そのドラゴンを見たマリアンヌは素直な言葉を洩らした。

徐々に近付く野生のそれは真っ直ぐこちらに向かって来ているようで、ゲイル団長はマリアンヌにすぐ声をかけた。


「マリアンヌ様、右へ行きましょう」


返事をすることなくすぐにゲイル団長と右方向へ移動する。

すると、近付いていた漆黒のドラゴンもまた旋回してこちらに近付いてきた。


「!?」


その動きにゲイル団長はまたしてもマリアンヌと白雪を守るように盾となり、腰の物へと手を掛けて様子を見ていた。


案の定、漆黒のドラゴンはゲイルとマリアンヌの前まで来ると止まった。

ベテラン竜騎士のゲイル団長ですら初めての体験で辺りに緊張感が漂った。


しかし、漆黒のドラゴンは何をするでもなくマリアンヌと白雪を見つめていた。

それに呼応するかのように白雪が漆黒のドラゴンへと近付いた。


「白雪っ!?」

「マリアンヌ様っ!」


慌てる人間達の声等聞いていないように、白雪は漆黒のドラゴンと鼻先を突き合せていた。


「!! これは!?」

「……白雪?」


人間の指示なく勝手に動いたのは白雪だけではなかった。ゲイルのドラゴンもまた勝手に移動し始めた。

ゲイルのドラゴンを先頭に、白雪が後を追えば更にその後ろを漆黒のドラゴンがついて来た。


そうして着いた先は王城のバルコニーだった。


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